見出し画像

コロナ元年でもおばさまと その1(2020年51歳)

この年の4月。コロナによる初の「緊急事態宣言」が発令された。
その規制がわずかに緩んだ秋。発令後からずっと我慢していた「楽しむための買い物」をしに、地元の生活提案型おしゃれ書店へ向かった。

人の少ない施設内。
発令が緩んだとはいえ、「マスク必須」に「アルコール消毒」に「ソーシャルディスタンス」という厳重な条件の下、そこはかとない緊張感が漂っている。
通路脇の一角には、こぢんまりとした「期間限定ポップアップブース」。
今回は、とあるスポーツメーカーとアパレルブランドとのコラボ服が並んでいた。

服に飢えていた私は、もちろん食いついた。
本来スポーティが似合わない、もっさり容姿だが、食いついた。

で、探し始めてみると、さすがはコラボ服だけあって、撥水・速乾などの機能性はそのままに、デザインが割とベーシック寄り。それほどスポーツスポーツしていないので、「これならいけるかも!?」と本腰を入れて探すことにしたのだった。

それにしても、ありがたかったのは、マイペースに物色出来たことだ。
基本、書店の一角という立ち位置のためか、ブース専任の店員さんはいらっしゃらないようなのだ。
なので、私は姿見の前で心置きなくコートを試着。じっくり時間をかけて吟味したのだった。

……だがしかし。しばらくして、背後に接近する人の気配……。
かと思ったら、すぐ左背面でピタッと止まった。
『あらー…珍しく店員さん来ちゃった?』
私は、観念してわずかに振り返り、気配の元を確認した。
そしたらなんと、正体は意外にも「買い物客であろう、通りすがりのおばさま」!でもって、何故かその視線は、鏡の中の私にビタッと固定されているのである。

『……な、何だろう……』
多少の緊張感をもって、今度は鏡越しにアイコンタクトをとる。
視線に気がついたおばさま。すかさず私への“試着チェック”を開始。
鏡の中の私と実物の私を交互にしげしげと眺めながら、細やかなアドバイスをくださったのであった……。

……いやぁー、店員さんが居ないからと油断していたよ。
まさか、お客さんに声をかけられアドバイスまで受けるとは思わなんだ。
あまつさえ、「ソーシャルディスタンス」で世間がナーバスになっている時に……。

私は、ひとどおりのアドバイスを終え、満足そうに立ち去るおばさまの背中を呆然と見送った。
と同時に、リアルでの人との交流が全く無かったこの時期、心がホワッとほぐれ、久しぶりに温かなものが流れ込んだのも感じたのだった。

世の中が騒然とする中、マイペースな方に接すると、結構安心するものである……。