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ドラマシナリオ「未来へのログライン」(♯1) 全4回予定

◯カフェ・店内
   よくあるチェーン店のカフェの店内で、
   スーツを着た女性・海野美咲(26)と、ラフな格好の30歳前後の   
   男性が向かい合って話している。
美咲「はい、ディレクターとしての勤務開始は、来週からになります」
   美咲、テーブルに書類を置き、
美咲「では、こちらに記入して、印鑑を押してもらえますか?」
男性「はい」
   テーブルには『クリエイター請負契約書』と書かれた、
   文字がびっしりのA4の紙が置かれている。
   それに男性が記入をしていく。

◯同・店の外(夕)
   大通りに面したオフィス街。
   行き交う車の喧しい走行音が響いている。
   美咲は、ラップトップや書類でパンパンになった
   ショルダーバッグを小脇に抱え、携帯電話を耳に当てている。
美咲「はい、宗方さんの契約、無事に終わりました。
 今から社に戻ります。え、直帰で良いんですか? やった!」

◯ミニシアター・全景(夜)
   劇場の入り口に貼られたポスターには、
   「フランスの巨匠 クロード・ルルーシュ特集」と書かれている。

◯同・劇場内(夜)
   客席には観客はまばら。
   美咲、スクリーンを食い入るように見つめている。

◯美咲のマンション・全景(夜)
   それほど高さのない、低層マンション。

◯美咲の部屋・居間(夜)
   ベッドに、美咲の恋人で会社員・今村凌(27)が
   寝転がってビジネス書を読んでいる。
   美咲はテーブルの前に座り、ラップトップを眺めている。
   ラップトップの画面には、一本木の下で
   はしゃいでいる制服姿の男女が会話している映像が
   映し出されている。

◯丘の上(美咲の回想)
   丘の上の一本木の前で会話する学生服姿の男女、
   卓也(21)と純菜(21)。
卓也「ねえ、杏子の夢ってなに?」
純菜「え、どうしたの急に」
卓也「知りたいんだよ。杏子が将来何になりたいか」
純菜「私の夢ね。私は……」
卓也「え、あるの?」
純菜「……あるよ」
卓也「え、マジ知りたい! 教えて」
純菜「私は……」
   カチンコの音が鳴る。
美咲「カット!」
   カチンコを持っているのは美咲。
   周りにはカメラやマイクなどの機材を持ったスタッフがいる。
美咲「……ごめん、卓也、純菜。もう一回やってくれる?」
   卓也と純菜、やや呆れ顔。
純菜「美咲、もう次で5回目だよ」
卓也「ホント、こだわるよなあ。
 こんなにテイク数重ねる学生映画って他にねーぞ、ったく」
美咲「ごめんね、今度学食でカツ丼奢ってあげるから」
卓也「約束だぞ!」
純菜「私にも奢ってよ!」
美咲「もちろん!」
卓也「まあ、でも、この作品が賞獲れれば、
 俺らも苦労した甲斐があるってもんだ」
美咲「うん、だからもう少し付き合って欲しい。
 今回の映画が私の勝負作だから」

◯美咲の部屋・居間(夜)
   凌が後ろから腕を回し、美咲に抱きついてくる。
凌「また見てるんだ。それ」
美咲「(腕を手に取り)うん。今日、
 早く仕事が終わって映画二本も見れたから、
 思い出しちゃって」
凌「好きなんだな。ホントに。
 俺は映画なんて、年に数回見ればいい方だ」
美咲「忙しいもんね」
   凌、美咲から離れて立ち上がり、キッチンへ。
凌「コップ借りていい?」
美咲「うん。戸棚にしまってあるから」
凌「誕生日近いよな。どこか行きたいとこある? 
 久々に……泊まりがけで」
美咲「え、別に無理しなくていいよ。
 凌も銀行とお父さんの仕事で忙しいだろうし」
凌「大丈夫だって、休み取れるって聞いたから。
 それに、父さんも美咲に会いたいって言ってたしね」
美咲「……」
凌「27歳の誕生日、しっかり祝おう」

◯美咲の会社・全景
    オフィス街の一角にあるオフィスビル。

◯同・会議室
   美咲、先輩社員・河村宏明(30)、
   上司・唐田(45)がテーブルを囲んで話をしている。
唐田「今回のクライアントはね、あのInnovatorソリューションズだ」
河村「え、あの外資系の」
唐田「ああ、実は、今度彼らがユーチューブに
 チャンネルを開設したいって言っていてね。
 そこで本格的なショートドラマを配信するそうなんだ。
 で、監督と脚本ができる人を探してるってわけ」
河村「へ〜、おもしろっそうね」
唐田「そうだろ? ウチに何人か、
 映画監督とかCMディレクター、登録してたはずだ。
 彼らに話振ってみようと思って引き受けたんだよ」
河村「そうっすね」
唐田「海野くん。君は学生時代、映画撮ってたって言ってたね?」
美咲「はい」
唐田「君なら監督の立場になってサポートしてやれると思って、
 今回、君を呼んだんだ」
美咲「はい! 光栄です」
唐田「河村くん。これは海野くんにメインでやらせようと思う。
 だけど、君がフォローについてあげてくれ」
河村「わかりました。おい、良かったな!」
美咲「ありがとうございますっ! がんばりますね」

◯ナイトクラブ・店内(夜)
   DJブースの脇でヒップホップ系のダンスを
   披露しているダンサー・鳴沢夏海(27)。
   そのパフォーマンスに歓声が上がる。
   その光景を美咲が遠くから見ており、みんなと一緒に
   拍手を送っている。
   
◯カフェ・店内
   都会の小洒落たカフェの店内。
   美咲と夏海が会話をしている。
夏海「そっか、美咲、もうそろそろかもね」
美咲「そろそろって?」
夏海「わかってるからこんな話したんじゃないの?」
美咲「やっぱり……親が会いたいって言ってきたってことは……
 そうだよね?」
夏海「間違いないよ。良いじゃん。凌くん、
 大手銀行勤務で年収も高いし、実家は代々続く線維系商社の御曹司。
 ほんと、イイ男捕まえたね」
美咲「そんな大きな会社じゃないらしいけど」
夏海「それでもお金持ちってことには変わりないじゃん」
美咲「やめてよ。お金に惹かれたわけじゃないし」
夏海「合コンの後、めっちゃアプローチされてたもんね」
美咲「まあ、押された感はあるけど」
夏海「まあ、もう付き合って2年だし、
 年齢的にもちょうどいいんじゃない? 
 あ〜、羨ましいな。私なんてカレシすらいないのに」
美咲「夏海は作ろうとしてないだけじゃん」
夏海「まぁね。いまはダンスの方が大事かな。
 この一年がんばれば、
 バイト辞められるかもしれないっとこまできてるから」
美咲「え、本当?」
夏海「いまオーディションに応募してる案件が決まればね。
 西野ユラのツアーのメインダンサー」
美咲「え……西野ユラってあのシンガーソングライターの?」
夏海「そうだよ、あの西野ユラ。
 次、三次選考」
美咲「すごいじゃん、頑張ってよ!」
夏海「うん。そういえば美咲、もう映画撮らないの?」
美咲「え?」
夏海「あんだけ熱上げてたじゃん。たまにこっちから電話したとき、
 ずっと語ってきてさ。私、美咲の映画、好きだったけどなあ」
美咲「やめてよ、大学時代に撮ったちゃちい自主制作だよ?」
夏海「まさか、就職して東京に来るなんて思ってなかった。
 まあ嬉しいけどね」
美咲「いまの私は、監督やクリエイターを
 しっかりマネジメントする側だから」

◯美咲の会社・会議室
   会議室に入ってくるフリーディレクター・風原護(35)。
   美咲と河村が出迎える。
護「あ、はじめまして」
美咲「はじめまして」
河村「今回は、お受けいただきまして、ありがとうございました」
護「いえ、暇だったもので。(名刺を取り出し)あ、これ」
河村「ではこっちも……(名刺を取り出して渡す)川村です」
美咲「(名刺を取り出して)海野です。よろしくお願いします」
河村「いや、風原さんみたいな経験豊富な
 ディレクターが受けてくれるなんて」
護「そんな、僕なんかペーペーです。
 これ一本で食べられるようになって
 まだ数年しか経ってないですから」
美咲「風原さんのサポートは私がしっかりさせていただきます」
河村「コイツも昔、映画作ってたんですよ」
護「そうなんですか?」
美咲「ただの学生の自主映画です。護さんの作ってきた作品と
 比べたら雲泥の差ですよ」
河村「来週、早速撮影なんですよね? 
 早速、契約だけ済ませちゃいましょうか。
 印鑑持ってきましたよね?」
護「はい。(鞄を探って印鑑を取り出し)ここに」
河村「良かった。では、お掛けください」
   護、席に着く。

◯公園・広場(夕)
   小規模な撮影現場。
   ベンチに座っている俳優と女優の周りに
   カメラマンや音声スタッフがいる。
   少し離れたところでスーツを着た美咲が撮影の様子を見守っている。
カメラマン「(空を見上げて)陰ってきたな」
護「撮りきれそう? あと3カット」
カメラマン「どれか削らないといけないかもな」
護「それだとカットつながるかな?」
カメラマン「最悪、引きと二人のバストアップで交互につなげてくれよ」
護「いや、それだと、画に面白みがなくなってしまう」
カメラマン「って言ったってよ、風原ちゃん。
 あと数十分で撮影できなくなっちまうぜ。
 撮れたとしてもあと1、2カットだ」
護「う〜ん……」
   俳優と女優が不安そうに護を見つめる。
   絵コンテを見て考え込んでしまう護。
   その様子を見ていた美咲が、
美咲「あ、あの……」
カメラマン「ん?」
美咲「ベンチの正面じゃなくって、裏側に回ったらどうでしょうか?」
   護とカメラマン、怪訝な表情。
美咲「と、遠くから引きで撮ると……抜けも映るし、
 視聴者の想像の余地も生まれていいかも……って」
護「……」
美咲「ほら、逆側で遠くから映せば、イマジナリーラインを
 超えても不自然にならないし!」
  訝しげな目で美咲を見るカメラマン。
護「……」
美咲「あ……申し訳ありません!」 
  護、美咲に近づき、肩を叩く。
護「(興奮しがちに)ありがとう! その手があったね。
 いや、むしろそれがいい! どうしてそれに気づかなかったんだろ、俺」
   護、大きく両手を振って、
護「よし、みんな、機材をベンチの裏に移動させてくれ。
 あ、キャストさんはそのままで大丈夫です」
   カメラの乗った三脚を持ち上げたカメラマンが、
   歩き出すときに美咲の方を見て、
カメラマン「姉ちゃん、やるじゃねーか」
   と言って去っていく。
美咲「……(感動と安堵が入り混じった表情)」

◯道(夜)
  都会の雑踏を歩いている美咲。
  その表情は晴れ晴れしく、笑みがこぼれている。

◯美咲のマンション・部屋(夜)
   帰ってきた美咲、ラップトップを立ち上げる。
美咲「……」
   美咲、白紙のワードの文面に、セリフを打ち込み始める。

<続く>

読んで頂き誠に有り難う御座います! 虐げられ、孤独に苦しむ皆様が少しでも救われればと思い、物語にその想いを込めております。よければ皆様の媒体でご紹介ください。