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ドラマシナリオ「未来へのログライン」(♯3) 全4回予定

◯編集所・編集室内
   大型のモニターや機材が並ぶ部屋。
   編集マンが機材に向かって編集作業をしている。
           その後ろに護が立っていて、
           指示を出している。
護「もうちょっと早めに切って……」
   モニターに映る画面の切り替わる
            タイミングが早まる。
護「そうそう、そんな感じ」
   そのさらに後ろに、美咲が座って
   作業を見守っている。
護「よし、ちょっと休憩入れよう」
   美咲の方に振り返った護。
   飲み物片手にリラックスした表情で近づき、
護「どう? いい感じに仕上がってきてるでしょ?」
美咲「はい! っていうか
 編集室ってこんな雰囲気なんですね」
護「おや? 来たのは初めて?」
美咲「はい。大学時代はパソコンの
 編集のみで作ってたので」
護「そういや俺も、自主映画時代は
 そうだったかも」
美咲「色調とか、情景の映し方とか、
 風原さんの過去作品を
 しっかり受け継いでいるんですね。
 撮っているときは気づきませんでした。さすがです」
護「ははっ、プロみたいな人に言われると緊張するな」
美咲「そういえば、私、脚本、書き上げたんです!」
護「それは、前言ってたヤツのこと?」
美咲「はい、読んでいただけますか?」
護「すごいな、助言してからまだ
 三週間しか経ってないぞ」
美咲「寝る間を惜しんで頑張りましたから」
護「それは、しっかり読んで
 あげないといけないね」
美咲「やった! 
 (鞄からクリップで留めた紙の束を取り出し)
 これです」
   護、脚本を受け取り、
護「他の案件もあって今、
 あまり余裕ないけれど、時間を見つけて必ず読んでおく」
美咲「ありがとうございます。いつでも大丈夫なので!」
   美咲の顔に満ち溢れる喜び。

◯駅前などの繁華街(夕)
   人がそれほど多くない、
   (田園調布駅のような)駅前に、
   シックなファッションで立っている美咲。
   目の前に高級車が現れ、停まる。
美咲「……?」
   後部座席の窓が開き、凌の顔が現れる。
凌「(窓から顔を出し)お待たせ」
   運転席の扉が開き、運転手が出てくる。
   運転手、美咲に一礼し、
運転手「さ、どうぞこちらへ(と後部座席へ手招き)」
美咲「(呆気に取られ)……」

◯車の中(夕)
   美咲、窓の外の移り変わる景色を
   見つめている。
   その表情はどこか不安げ。
   車窓に大きめの邸宅が見え、
   近づいてくる。
凌「さあ、着いた」
   その家の前で車は停まる。
美咲「(緊張で動けず)……」
   凌、美咲の手の上にそっと自分の手を
   置き、優しく握る。
凌「大丈夫だから」
美咲「(手の温かみを感じて表情が綻び)……うん!」

◯凌の家・玄関先(夕)
   凌、家の扉を開ける。
   後ろには美咲が立っている。
   開いた瞬間に、広めの玄関内に
   立っている凌の両親・今村忠志(57)、
   今村佳子(54)の姿が目に入る。
凌「ただいま」
忠志「(美咲に)よく来たね」
美咲「お、お邪魔します。海野美咲です」
凌「なんだい、二人して。
 ずっとそうしてたの?」
佳子「だって、特別な人を連れてくるのよ。
 待ちきれなくって」
忠志「立ち話もなんだから、行こうか」
佳子「特別なご馳走を用意しておいたわ。
 (美咲に)お腹は空かせてきた?」
美咲「は、はい。しっかり」

◯同・ダイニング
   豪勢な和食が盛り付けられている食卓。
   凌と美咲、忠志と佳子が向かい合って座り、
   食べている。
   キッチンでは板前が黙々と調理を行っている。
   美咲と忠志は、楽しそうに
   映画談義に花を咲かせている。
忠志「そうか、フランス映画好きなのか」
美咲「はい。中学生の頃に『アメリ』を見て、
 すっかりハマっちゃって」
忠志「ふと気になってたんだが、
 ひょっとしてその髪型も、
 アメリを意識しているのかい?」
美咲「実は……」
凌「え? そうだったの?」
忠志「お前が気づいてあげなきゃ
 いけないとこだろ!」
凌「全っ然、気づけなかった。美咲、ごめん」
忠志「他にはどんなフランス映画が
 好きなんだい?」
美咲「『男と女』とか、あと、
 『シェルブールの雨傘』は何回も見ました」
忠志「どちらも傑作だ。
 『シェルブールの雨傘』を見たなら、
 当然、同じミュージカルの
 『ロシュフォールの恋人たち』も
 チェックしているだろう?」
美咲「もちろんです。もう、ジョージ・チャキリスの
 ダンスがセクシーすぎて。その流れで、
 フランス映画じゃないですけど、
 『ウエストサイド物語』も見ちゃいました」
忠志「確かに彼のダンスはキレがあって
 スクリーン映えするね。
 実は、『パリは燃えているか』にも
 ちらりと出ているんだよ」
美咲「そうなんですか? ごめんなさい、
 その作品はチェックしてませんでした」
忠志「うちにDVDがあるから、貸してあげよう。
 アラン・ドロンも出てるんだよ」
美咲「大好きな俳優です! 本当にいいんですか?」
忠志「断っても無理矢理貸すよ」
佳子「私と凌、席外しましょうか?」
忠志「プライベートで
 こんなに映画の話ができる人に会ったのは初めてだ。
 気に入ったよ!」
   美咲、その言葉を聞いて満足げな表情。

◯同・リビング(夜)
   カウチソファに美咲と凌が腰掛け、
   話している。
美咲「もう、映画好きなら
 早く言ってくれればよかったのに」
凌「悪い。俺が全然見ないから、
 父さんともその話は全然しなくって。
 そこが唯一、俺と父さんが合わないトコ」
美咲「でもよかった。共通の趣味がある人が
 こんなに近くにできて。
 これなら私、すぐに打ち解けられそう」
凌「それなら安心だ。俺も、
 美咲が楽しそうにしてくれてて嬉しい」
   父親がグラスと日本酒の瓶を
   持って近づいてくる。
忠志「美咲さん、晩酌はやるかい?」
美咲「少しでよければ…」
凌「よし、飲むか」
   再びダイニングへ向かう三人。
   母親が棚からグラスなどを
   取り出している。
忠志「こんな素晴らしい子が
 俺の義理の娘になってくれるとは」
凌「俺もなかなかやるでしょ」
   母親がグラスをテーブルの上に置き、
佳子「美咲さんが来てくれるなら私も助かるわ。
 大丈夫。お掃除や料理は
 しっかりサポートしてあげるから」
美咲「は、はい」
忠志「凌も安心だろう。こんな素敵な人が
 家庭に専念してくれれば、
 安心して我が社の業務に専念できる」
美咲「(その言葉に虚を突かれ)……?」
凌「俺の跡取りが産まれたら、
 この家もまた賑やかになるね」
佳子「28歳で男の子を一人。30歳で女の子を一人」
忠志「おいおい、そんなにうまくはいかないだろ。
 まあ、最初の子は男の子がいいけどな。
 ところで、ここへの引っ越しはいつするんだ?」
凌「そのうち。
 美咲の仕事の整理がついてからかな」
美咲「……!」
忠志「美咲さん、仕事はいつ片付きそうなんだ?」
美咲「え……」
父親「(凌に)お前と将来の子どもたちのために
 がんばってくれるんだから、感謝しろよ」
凌「わかってるよ」
美咲「……」

◯送迎車車内(夜)
   浮かない顔をして、
   後部座席に座っている美咲。
美咲「……」
   隣に座っている凌が、
   眠そうに、美咲の肩に寄りかかってくる。
凌「ありがとう、美咲……」
   美咲、寄りかかってきた凌を
   一瞬見るが、すぐに視線を逸らす。
   そのとき、美咲の携帯電話が
   バイブレーションする。
   取り出すと、ディスプレイには
   護の電話番号が表示されている。
美咲「……?」
   寝息を立てている凌。

◯美咲のマンション・美咲の部屋(夜)
   玄関扉を開けて入ってきた美咲、
   部屋の電灯をつけると、
   携帯電話を取り出し、すぐに電話をかける。
美咲「(電話をかけている)」
護の声「あ、もしもし」
美咲「すみません、さっきは。
 ちょっと知り合いと会っていたので出れなくて」
護の声「いや、こちらこそ休日にかけて
 ごめん。この仕事してると曜日の
 感覚がなくなって、ついやっちゃうんだよ」
美咲「全然、とんでもないです」
護の声「あの……次の金曜の夜、
 ちょっと時間取れそうかね?」
美咲「え?」
護の声「君に話したいことがあってね」
美咲「金曜の夜……ですか?」
護の声「もし予定があるなら
 他の日でも構わないんだけど……」
美咲「大丈夫ですけど、ご用件は?」
護の声「それはね、会ったときに話したいんだ。
 直接、顔を見ながら
 君の気持ちを聞きたいから」
美咲「……」

<続く>

読んで頂き誠に有り難う御座います! 虐げられ、孤独に苦しむ皆様が少しでも救われればと思い、物語にその想いを込めております。よければ皆様の媒体でご紹介ください。