デジタル時代のアナログな挑戦。《毎日日記14》
昨日《毎日日記13》で書いたように、私はかなりあちこち移動してパズル教室を開催しているので、同じパズル課題を、同時期に、かなり離れたところに住んでいる子どもたちが挑戦していて、遠隔でしのぎを削っている、ということが多々発生します。
特に、難問の空間認識系の課題は、やりきれる子どもがごく限られているので、各エリアのトップを走るような子どもたちが、決して出会うことなく「誰が先に完成させるか」の頭脳対決をしています。
ここまでただ1人、都内から来ている4年生が完成させただけで、他の誰も手も足も出ない状態が続いていた難問課題が1つあります。それを川口の2年生があと一歩のところまで仕上げかけたかと思ったら、その翌日にさいたま市北部の3年生がついに完成させて最年少記録を更新する…といったような。そんな場面があると講師としてはテンション上がりまくるわけです。
全会場の状況を把握しているのは私1人だけなので、本人たちはあくまで他人ではなく自分との対決をしているのですが……広い範囲のあちこちで暮らしている逸材なる子どもたちを、パズル教室を起点としてつないでいくことができていることに、無上の喜びを感じています。
考えてみれば、このような状況はインターネットの普及した現代社会では珍しいことではなく、オンラインゲームならばその時その時の点数順位は瞬時に共有され、会ったことのないライバルを相手に闘志を燃やしてやり込むことも日常でしょう。
しかしこの、アナログ極まりない、積み木を積み上げるような形で仕上げていくようなパズルで、その達成度について遠隔で勝負できる場など、なかなか無いように思うのです。アナログなもので、遠く離れて暮らす子ども同士が力を競い合う場を提供できていることに、何とも言えず面白みを感じています。いつかその「最強パズル挑戦者たち」を集めて特別講座などやってみたいなぁ、などと夢想してみたりします。
(ちょっと四谷大塚さんが「全国統一小学生テスト」で決勝大会を開催する気持ちがわかる(笑))
デジタルなものが果てしなく充実する現代なればこそ、アナログなもの、実物から実感するもの、人と人との関わりから学べるもの、を、大事にしたいと、改めて思います。
「勉強と言えば、紙と鉛筆」という時代から、
「勉強と言えば、タブレットでアプリ」という時代に確実に移行しつつある現代に、
「紙と鉛筆」でも「タブレットでアプリ」でもない、極めてアナログで、非効率でかさばるし重い「積み木やマグネットその他あれこれ具体物」で思考力を伸ばそうという挑戦は、この時代だからこそ一定の価値があるように思います。
子どもたちの様子を日々見ていて思いますが、子どもはいつも、具体物を触って動かしながら思考しているのです。具体物を観察し、動かしながら、仮説を立て、検証し、結論を得ています。
その経験を積み上げることなく、「紙と鉛筆」「タブレットでアプリ」の勉強をしようとしても、やはり限界があります。
積み木パズル作りのワークショップを初めて開催した時に、木のお話を聞かせてくださった講師の一級建築士Mさんが、「子どもは1本の枝でも遊ぶ」「1本の枝からも学ぶ」とおっしゃっていたことを思い出します。それほどまでに、実物は豊かなのです。
「紙と鉛筆」で学んだ親世代が、「タブレットでアプリ」時代に子どもを育てようとする時……
時代の変化に乗り遅れまいとする中で、その両者の土台としてあるはずの「具体物に触れて思考する経験」を軽視してしまうのではないか……と、自分自身に対しても危機感を抱いています。タブレットのアプリが、具体物による経験を代替してくれるかのような錯覚が、現時点ですでにあるような気がします。
タブレットの画面に触れて行う操作は、ある程度は具体物に触れている時の感覚に近いと言えます。また、具体物を動かすとなると難しい動きを、画面上で見せてもらえることに相当なメリットがあることは間違いないでしょう。
しかし、画面上のものはあくまで画面上のものであり、実物の質感はありません。画面上のもので全て完結できると考えるのは安易な発想です。
やはり子ども時代には、「実物に触れて思考する時間」を大切にしてあげたいと思うのです。そしてその、「実物に触れて思考する時間」が、子どもたちにとっていかに楽しい時間であるかも、パズルに取り組む1人ひとりの姿を見ているとよくわかります。
参加者が成長して小学生率が高くなる中で、小学生向けの課題はもう、「紙と鉛筆」の問題だけにしてもいいのでは?と思わなくもないです。しかしやはり、実物は面白い。実物は楽しい。
小学生どころか、大人になった私すらそう思うので、やはり、これからも、相手が何歳でも、積み木やマグネットの道具をあちこち持ち歩いては教室をやるのだろうと思います。
デジタル時代の、アナログな挑戦。
開講当初は想定していなかった、面白い土俵に、今、立っています。
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