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フルーツサンドの天使、あるいは⑫

 弁当を食べた後の公園散策は、ピンクのコスモス畑。
はるかが楽しそうにはしゃぐ隣で、なんとなく相槌を打ちながら過ごした。

 家に帰ると、くたくただったが、頭が冴え渡り横になっても眠ることが出来なかった。彼女がコーヒーを入れているのを横目で見ながら、次受ける資格試験の参考書を眺めていた。

「明人さん」
「はい、何?」
「ううん、なんでもない」
 やっぱり、今日のはるかはおかしい。いつものかみ合わなさではなく、何かをちらつかせながらも確信をつかない。
昨日のこと、問いただしたいならはっきり言えばいいのに、と少々イラついた。

 僕のコーヒーをテーブルに運ぶと、隣に座って彼女はテレビを見始めた。いつもは一緒にコーヒーを飲むが、自分の分は入れなかったようだった。「忘れ物見つかった?」
「見つかったよ。これ」
嬉しそうにネックレスを見せた。それは、僕が去年のクリスマスに渡したものだった。デートの時には、いつもしてきていたのに、そういえば今日はしていなかった。

「あのね、明人さん」
「ん?」

「私、子どもが出来たの」

え――?
まてまて、思っていたのと違う。
後方から巨大掃除機が近づいてきて僕の意識を吸い込んでいくような感覚に襲われた。あまりの異次元的な感覚に、どうしていいかわからない。
沈黙が続いた。

「あ、でもまだ病院で確かめたわけじゃないの。検査薬で判定が出ただけで、まだわからないから、今週産婦人科に行ってみるから」
はるかは、少し困ったような笑顔で説明した。

「わかった」
のどから声を振り絞った。
なにがわかったなんだろう?、自分でもわからなかった。

「今週はどうしても詰めの仕事があって、病院一緒に行けないけど、結果でたら教えて」
「うん、連絡するね」
 はるかは、ほっとした表情をうかべて、男の子か女の子か、名前は何にしようかなとか、クッションをいじりながら楽しそうに弾んでいる。
 その話をうんうんと聞きながら、昨日岡崎さんとつないだ右手を座卓の下でぐっと握り締めていた。
                             —つづくー

※画像はだいすーけ様のお写真を使用させていただきました。素敵な作品をありがとうございます。

※ここからは、センシティブな展開も含まれます。妊娠、出産、男女問題
などにお辛さを感じている方は、ご自身の判断で読むか決めてくださると幸いです。

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