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いつから尖がっていたんだろう

毎朝、毎晩、はげちょびんになった頭皮に薬を塗るのが日課になっていた、
2024年春。


ショックから円形脱毛症になり、頭頂部をふくめた5ヶ所と全体的に髪がうすくなった。つるつるの頭皮をみて夫と2人で泣いた春の夜。桜が満開なのに涙が止まらなかった。

あれから数か月。
年末が差し迫った冬に、頭頂部には春の息吹がおとずれている。
それまでの地道な努力が実を結び、毛たちは開花した。


禿最盛期は仕事をしていたので、出勤前のスタリングは丁寧だった。
もともと毛量が多かったので隠すのには申し分なかったが、さすがに5ヶ所となる厳しい。

分け目を取り違えると、

おっとっとと

危うく荒れ地の野原がみえてしまう。


毎日、鏡で四方八方を確認してから仕事へ向かう。

その頃は接客業。
とくにレジ打ちで「いらっしゃいませ」とお辞儀をしながらお客様をおむかえする。
そのときはいやでも頭頂部をお客様につきだす姿勢になるので難関だ。

誰よりもすばやく浅くお辞儀をして、スピーディーに背筋を戻すという、浅知恵よるごまかし術を編み出した。お客様に「なんだこの横柄な店員は」と思われてはクレームの火種になるので、お辞儀のあとの顔だけはめちゃんこ笑顔でハキハキ動いたおかげで、お辞儀以外は元気な店員を演じきってみせた。

わたしの脳裏によぎるのは、10代の頃に育ててもらった割烹料理店の女将さんままの口癖。

「ここは舞台よ」
「人生という名の舞台なんだから、お客さんの前ではあなたもプロなら演じ切りなさい」


あれから数年。なんど職業を変えようと、女将さんままの口癖は大切にしてきた。

女将さんまま……わかったわ、今こそ演じ切ってみせるわ。


わたしはレジの中ですまし顔で仕事に打ち込んだ。おかげで汗をかいて頭皮が蒸れてモーレツに痛かゆくなるので、頭をかきむしりたい衝動に刈られていた。ひと目を盗んで頭を揺すってごまかした。
一体なんのプロなのか分からないが、お辞儀の素早い愛想のいい、レジ打ち店員は演じきってみせた。

今年の個人的MVP。満票です。
(#なんのはなしですか)


それから円形脱毛症は治療も進み、現在は何事もなかったかのように平和に過ごせている。一時期はごまかすためのだけのヘアカットにしてもらっていた所為で

「何も被ってないのに、被っているみたいな髪型」

「要するにヘルメット」と夫に言われながら、ひと夏をヘルメットヘアで過ごしていた。要してない。要してないよ。そこの夫!

夏に転職したばかりの頃。
治療のかいもあり、頭頂部に「今だ!!」脱毛地帯に大輪の花のごとく一気に生えてきた毛たち。そこは空気を読んで、パラパラとまばらに生えてきてくれたら良いものを、一斉に横並びに成長速度をそろえてきた。

駄菓子菓子……彼らはみな揃いも揃って寸足らず。

おかげで妖気を感じた鬼太郎が鏡に映っている。



慣れない新しい職場になじむため、あれやこれやと工夫を重ねていたのに、こんなとがった触角のせいで今までの努力をムダにしたくない!

その強すぎる願いが込められた両手は加減というものを知らずに、ワックスをつけ、ハードスプレーでガチガチに硬めたため、

頭頂部だけが、やたらテカテカした新人事務員が爆誕した。



何食わぬ顔で出社し、朝のルーティンをこなし、外回りのおつかいだって行っちゃいます!張り切ってGOGO!と、さらに何食わぬ顔で元気に一日をすごしていた。

なのに毛たちは一本一本が、凛々しいゆえ、夕方に勤務を終えて、ハッと鏡をみるといつから「妖気を感じていたのか」と思うほど、頭頂部で毛束たちがとんがっていた。

朝のハードスプレーが効いたらしい。程よい硬さだった。

帰宅して夫にそのことを伝えると「よっ鬼太郎!」という台詞とともに、とがった角をつんつんするので、頭の毛が全部逆立ちそうになったのを、昨日のことのように思いだせる。

円形脱毛症は早目の治療でずいぶん悪化せずにすんだ。医療の進化ってすばらしい。以前の記事でも書いた記憶がありますが……早め早めの治療で、劇的に治る場合があるので、放置せずに早めに皮膚科に行くのが本当におすすめ。

皮膚科の診察台で勇気をだして、「なにか禿にいい食べ物はありますか?」とドクターに尋ねると「何もないところに、いま良い物を与えったって、生えてこないから、必要ないよ」とバッサリ言われた。
ハゲの5ヶ所がさらに禿かけたトドメノ一撃。帰りの車は間違いなくVaundyの「トドメの一撃」。我ながらいい選曲ができた。それにしても「何もないところ」って、言葉のチョイスがとがりすぎている。


美容師さんに救われた。これに尽きるかもしれない。日に何十人と頭皮や髪をみているプロなので、メンタル面のケア、髪のケア、頭皮のケア、皮膚科での治療方法などほとんどは美容師さんに教えてもらった。ほんとうに感謝してもしきれない。

 一緒に泣いて元気をくれた美容師さんありがとう。一緒に毒はいて笑ってくれた美容師さんありがとう。

そして、

いちばん最初にハゲを見つけて一緒に泣いたのに、翌日からハゲをいじり倒した夫よ。ありがとう。
あなたが誕生日にくれたReFaのヘアブラシは当時、頭皮にあたって更に頭皮が死ぬかとおもって痛かったわ。

でもおかげで今は頭皮も産毛祭りよ。

若干ゲゲゲ感の残る年末の頭皮事情。来年は陽気(妖気)な感じでいきたいと思いますので、産毛ともども今後とも宜しくお願いいたします。


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chimo
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