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最近の読書12選

最近前にも増して読書することが多くなった。
ここ1~2年で読んだ本の中で面白いと感じたおススメなものを紹介したい。

良書の読書は、著者である過去の教養人との会話のようなもので、よく読まれさえするなら、その最良の思考だけを見出せる会話である。

『方法叙説』(ルネ・デカルト 著 小泉義之 訳)講談社学術文庫

小説

1.『三体』三部作 (劉慈欣 著 大森望 ほか 訳)

中国ではアニメやドラマ化もされているほどの熱狂ぶりな『三体』シリーズ。
第一作「地球往事」は不審な科学者の死から始まる物語でミステリー要素が強い。続く第二作「黒暗森林」では第一作で明らかになった三体との頭脳戦が描かれる。そして第三作「死神永生」ではこの宇宙の真実が明らかになる。
レビューでもよく書かれるように第二作目の「黒暗森林」が最もエンターテインメント性が高く、自分もシリーズの中ではこれが一番面白いと感じる。宇宙を舞台にした壮大なSF作品であるが、なぜかSFの単なる空想とは片付けられないリアルさがある。


2.『砂漠』 (伊坂幸太郎 著)

伊坂幸太郎の言わずと知れた代表作。
大学生5人の日常やその周りで起きる事件が描かれる。文量は決して少なくない作品であるが、ストーリーのテンポの良さ、読者の心を鷲掴みにする展開などの効果で、文字通り浸食を忘れて読書に熱中した。
この小説を読んで自分も当時の大学生活を思い返し、当時の大学の友達に会いたくなった。


3.『楽毅』 (宮城谷昌光 著)

中国の春秋戦国時代の燕国に仕えた大将軍、楽毅についての時代小説。
人の上に立つ将軍とはどうあるべきか、そして国やその王とは、国民とは何なのか、そのような力強いメッセージ性のある作品である。
この小説の中に、同じ時代を生きた斉国の宰相、孟嘗君が出てくるが、その彼もまた群雄割拠の時代に多くの大国からの人望を集めた者として魅力的にかかれている。作者の宮城谷昌光は彼を主人公とした『孟嘗君』という小説もかいており、こちらもおすすめ。


ノンフィクション

1.『オッペンハイマー 原爆の父と呼ばれた男の栄光と悲劇』(カイ・バード、マーティン・シャーウィン 著 河邉俊彦 訳)

映画監督のクリストファー・ノーランがこの本を元に映画を制作すると聞き、彼が映画制作までするほどの面白さだったという本をノーランファンである僕も読んでみたくなった。
ロバート・オッペンハイマーは第二次世界大戦の原子爆弾製造計画、通称マンハッタン計画を率いたカリスマ的な天才であり、本書はサブタイトルにもある通り彼の人生の光と陰の部分が書かれている。
戦時中、彼の作った原子爆弾を落とされた日本としては決して彼の功績を手放して賞賛することはできないが、オッペンハイマー自身は平和主義者であり、マンハッタン計画も戦争をいち早く終わらせるために率いられたものであった。
僕が伝記の面白さを知るきっかけになった本である。


2.『暗号解読』 (サイモン・シン 著 青木薫 訳)

手紙などの私文から戦争時のスパイ工作まで、本来の内容を指定した読者以外に読ませないために作られた暗号。そうした暗号の起源から現代の量子暗号までの歴史をドラマティックに書いた本である。歴史をただ書き連ねるだけでなく、実際に用いられた暗号の解読問題も作中に織り込まれており、暗号の歴史の傍観者でなく、体験者としての感覚も味わえる。
近代以降の暗号解読者はその扱う機密情報の高さ故に、たとえ国家の存亡を左右するほどの功績を残しても決して日の目の当たらないところで生きてきた。なかでも特に、エニグマ解読に挑んだアラン・チューリングの奮闘記、そして彼自身の人生は涙なしには語れない。


3.『スティーブ・ジョブズ』 (ウォルター・アイザックソン 著 井口耕二 訳)

もはや誰もが知っている、Appleの創始者であり、スマートフォンの生みの親、スティーブ・ジョブズの伝記である。ジョブズ本人が存命中に著者であるアイザックソンに自分の伝記を書いてほしいと依頼し、ジョブズ本人への複数回に及ぶ直接インタビューをした中で書かれた伝記である。
本の中で書かれている「現実歪曲フィールド」はジョブズの性格・言動を表現するに最も適した言葉であるが、それはマッキントッシュやiPhoneを作った輝かしい功績を生み出した半面、彼の周りの人間関係をより複雑にしていった負の側面もある。そうしたスティーブ・ジョブズの光と闇の部分を描いており、伝記でありながら自己啓発書とも呼べるほどに読んでいて気力が漲る本であった。


ビジネス書

1.『自由になるための技術 リベラルアーツ』(山口周 著)

一般的には芸術・歴史・哲学などの「教養」と解釈されることの多いリベラルアーツ。しかし本書で書かれているリベラルアーツの本質とは正にその語の直訳でありタイトルでもある「自由になるための技術」である。
良質な「答え」は良質な「問い」からしか生まれてこない。「何か」を学ぶのでなく「なぜ」を学ぶことがこれからの世界を生きていくうえで不可欠になる。
本書を読んで自分の教養的知識の浅さに恥じると同時に、一次情報である「人・本・旅」に触れる行動力を磨いていこうと啓発された。


2.『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン 著 久山葉子 訳)

スマートフォンによって常にインターネットに繋がっているようになった現代。しかしSNS、その中でも特にショート動画などはいかにしてスマホ使用者をスクリーンから離さないように操っているか、そしてそれが一種のドーパミン中毒となり脳機能を衰えさせていることが書かれている。
自分自身エスカレーターに乗っている僅かな間でもSNSを開いてしまうほど高頻度な使用になっていたが、この本を読んだことでその異常さに恐怖しSNSの使用に制限をかけた。そうすると思考が以前に比べてクリアになり、不安や閉塞感を感じることも少なくなってきた。
スマホは仕事のツールとしてもなくてはならないモノだが、実は「スマホを使う」のではなく「スマホに使われている」ことに気付ける本であった。


3.『サイロエフェクト 高度専門化社会の罠』(ジリアン・テット 著 土方奈美 訳)

サイロ化とは日本では「たこづぼ化」と訳されることが多く、言ってしまえばその分野において専門化されるということである。
人類はこれまで分業によって、つまり専門化させることによって文明を作り上げてきたが、現代ではその専門化が過剰になりすぎたために専門外の分野には目を向けられずそのことによる弊害が多く出ていると著者はいう。サイロ化によって分けられた部署により、巨額のサブプライムローンに気づけずリーマンショックを引き起こし倒産に追い込まれた銀行。また当時ソニーがウォークマンで世界を風靡したにもかかわらず、なぜその音楽事業トップの座をiPodを世に送り出したアップルに譲らなければならなかったかなどがその最たる例として説明されている。
今の社会が高度専門化したサイロによって作り出されてきたのは事実だが、これからの真のイノベーションはそのサイロの境界上で起こり、そのためには積極的に外の世界へ知見を広げなければならないと著者は語る。


哲学・教養

1.『暇と退屈の倫理学』(國分功一郎 著)

暇とは何か、退屈とは何か、そしてそれらはなぜ感じるのか。誰もが一度は感じたことがあるそうした感情を考察した本。
哲学を学習したことがない人でもわかりやすく平易な文章で書かれており、読了後には今感じている暇や退屈を愛おしく思うような感情が生まれる。
結論、「暇や退屈を楽しめ」と言ってしまえるものでもあるが、著者も作中で述べているように真に大事なことは、その結論に至った思考の過程であり、正にその過程こそが哲学である。
スピノザ、ルソー、ニーチェ、ハイデガーなど知の巨人たちの営みを暇と退屈という観点から論じた、興味が溢れる本である。


2.『現代思想入門』(千葉雅也 著)

デリダ、ドゥルーズ・ガタリ、フーコーなど現代を代表する哲学者の考えをわかりやすく解説した書。なかでもデリダの脱構築を中心とした二項対立に焦点をあてて議論がすすめられている。
「正義の反対は悪でなく、もう一つの正義」とよく言われてるような文句があるが、本書ではまさにそうした二項対立の構造そのものに脆弱性があるのではないかとメッセージを投げかける。
本書での最後には難解と言われがちな現代思想の読み方をわかりやすく解説してくれており、これから哲学を勉強してみたいと思っている人に是非おススメな本である。


3.『デリダ 脱構築』(高橋哲哉 著)

上でも紹介した「脱構築」を論じたジャック・デリダに焦点を当てた書籍。だが上の『現代思想入門』よりもやや難解なところがある。
善と悪、自己と他者、自然と技術、資本主義と社会主義、パロールとエクリチュール、こうしたいわゆる階層秩序的二項対立という構造そのものが如何にして崩れることになるのかを理論的に解説する。そして脱構築の考え方が我々の言語、法にまで及び脱構築はニヒリズムに帰着するのではなく正義を目指すものなのだと結論づけられる。
正直現在の自分ではここまでの理解が精一杯であるが、近現代の思想を語る上では外せない脱構築の考え方の奥深さを感じた。読み書きの天才であったと言われるジャック・デリダの難解な哲学を勉強するならまだわかりやすい本らしい。


読んだことのある本、興味のある本はあっただろうか。
僕自身、これからもより読書を重ねてその著者たちとの思考の会話を楽しんでいきたい。


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