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ランチ会の①共感②アドバイス③質問

みんな何かしらの憂いを抱えて生きている

娘の幼稚園時代に親しくなった、いわゆるママ友3人と自分は、園で最大最強のイベント「卒園パーティー」を成功させるべく苦楽を共にした実行員会のメンバーだ。
現在、子供たちはそれぞれ違う学校へ通っているが、誰からともなく誘いがかかり母親たちだけは年に1~2回のペースでランチ会を続けている。

おっとり系の山口さん
天然キャラの城田さん
しっかり者の森さん
そして自分の4人

互いに気心が知れているので(自分はそう思っている)、あれやこれやと悩みを打ち明けたり、現状報告をしている。

いつもは、ほぼ聞き役の山口さんだが、昨日はいつもと様相が違い、
「あのね、私、もう、母親というか、妻も、主婦もやめたいんだよね」と告白しはじめた。

「は?」「は?」「は?」

良妻賢母のイメージしかない穏やかな山口さんの衝撃発言に、自分を含む3人は凍りついた。訥々と、しかし煮え滾るような怒りを感じる口調で自分の苦悩を吐露しまくる山口さんは現在、老いた実の両親と同居中。

話しによると両親とは折り合いが良いとはいえず、だが山口さんは一人っ子なので「私しか世話する人がいないから…」と数年前から同居をはじめた(夫には感謝しているとも)。また、年明けまでは長男の高校受験でピリピリしており、6人暮らしの生活の中で自分だけが家事に翻弄されていると、もう何もかも投げ出して逃げたいと話していた。


①共感

この場に集まる4人全員が、母親であり妻であり主婦である。
親と同居中の山口さんだけは“娘”という属性が日常に加わる。

“良妻賢母”なんて言葉、いったいどこのどいつが言い出したのか?
一見すると褒め系のレッテル貼りワードは、時として呪いも生み出すようだ。
良い妻であらねば、賢い母であらねば、そして親想いの優しい娘であらねばならないといった余白のない考え方に囚われてしまうように。

もがき苦しんでいる山口さんの切実な言葉に触れると、少なから共感できることもあれば思いっきり同情することもあった。自分の胸の痛み苦しみを誰かが同期するかのごとく体感してくれたら、それだけで生ぬるい安堵感が身を包んでくれそうだなと、ふとそんな気がした。

ここで、天然キャラ城田さんの共感力は凄かった。
「そうなんだね」「つらいよね」「私もそうだよ」の共感ワードを連発し正面から山口さんの思いを受け止めていた。

実は城田さん、過去に4人兄弟の末っ子が急性〇〇病を患うという地獄を味わっている。幸い子供は回復して今は元気すぎる小学生へと成長。
当時の彼女を間近で見ていた身としては、城田さんのことをとても強い女性だと尊敬し慕っている。

話しを戻すと、「共感」するだけでたちまち悩みが解決することはないと感じている。だけど「共感」してもされても広義の意味での「間違い」を生み出すことはないとも思っている。
ただただ受け入れてもらえた…それは張り詰めていない柔らかな糸で互いの心が結ばれたようなフワッとした繋がり。


②アドバイス

「何か…楽しいって思えることや、趣味とかないの?」こう切り出したのは森さんだ。
森さんは息子ふたりの母親で、中学生の長男は体が弱く幼少期から常に気を張って育ててきた。幼稚園も小学校もまともに通えない長男の体調不良原因を突き止めるべく、何年にも渡り何件もの医療機関を訪ね歩いた。昨年やっと原因が判明したものの、今も入退院を繰り返す息子の心身を献身的に支え続けている女性だ。

そんな森さんは、頑張りすぎて彼女自身が去年ぶっ倒れたと話していた。
それ以来、自分の空間・時間をきっちり設けるように自己改革したらしい。
例えば、漫画本や映画に耽る、イヤホンで音楽を聴きながら食事の支度、
自分の予定を優先する、子供たちのリクエスト全てに即座に反応しないなど、以前とは別人のように自分を大切にしている。

だから森さんはアドバイスした「推し活したら?」と(笑)
人でもコトでも何でもいいから熱中する時間を増やせば増やすほど悩む時間は自ずと減る。
「まずは悩む時間そのものを減らす工夫をしてみたらどうかな?」しっかり者の森さんらしい現実的な助言だった。
山口さんのケースだと同居の両親を追い出すことはできず顔を合わせれば喧嘩必至。であるならば狭くてもいいからまずは自分の時間と空間を確保し、争いの時間を推し活キュンキュンタイムに変えることが自己改革の第一歩だろう。
推し活は人間に幸せをもたらす!これだけは断言できる。


③質問

共感、推し活アドバイスときて「私も何か探す!」と前向きになっていた山口さんだが、そもそも何故、彼女はここまで追い詰められたのか?自分はそこが気になっていた。

山口さんの話をよくよく聞いてみると「〇〇と思われたくない」というワードを繰り返し使っていることに気がついた。ちょっと躊躇したが思い切って質問してみた。
「山口さんて、もしかしたら、人からどう思われるかすごく気になっちゃうタイプ?」と。なんで?と質問返しされたので続けて
「いや、さっきから、〇〇と思われたくないって何度も言ってるから、ホントの自分を見せると嫌われると思ってんのかなと思って」
彼女の顔色が変わったように見えた、と思ったら、あろうことか店内で涙を流し始めた・・・。い、意地悪はしてないですっ。

なぜ嫌われると思うのか?嫌われることの何が怖いのか?ゆっくりと質問してみると「子供のときからずっとそうで、自分に自信がなくて、嫌われないようにいつも他人の目を気にして生きてきたかも」と話してくれた。
山口さんは自身の考え方のクセに気づいたからか、眉毛を八の字にしたまま黙りこんだ。もしかしたら過去を思い返し、子供の頃の自分と向き合っているのかもしれないなぁなんて感じた。

もうすでに十分長いけど、さらに長くなるので割愛するが、両親との関係も含め山口さんの心が病んだ原因ココにありだった。

自分に素直になる、素の自分を見せる、嫌われたっていい、でも私は好きだよ!
人間、こんな感じでいいんじゃないかなって思う。

泣かせてしまったお詫びとして、普段の自分のクズっぷりをいくつか山口さんに披露したら、「私もそんなんでいいかな~」すこし気が楽になったようで笑っていた(そんなんで?え?)
次回は年末あたりにランチ会の約束をしたが、山口さんどうなってるかな?
楽しみ半分、怖さ半分。


#創作大賞2023

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