レコードと部屋と彼17 -マッチングアプリで3週間の本気の恋をした話-
前世で何かあったのかもね。
2度目の電話の時。
私の病気の話をして。彼も自分が病気だった話をして。お互い、共感できる状況にいるってことが分かった時に、彼がぽろっと言った言葉。
「前世」なんて、随分ロマンチックなことを言う人だな。
今、関わりのある人たちは、きっと前世で何等かの縁があったはず。
そういう考え、嫌いじゃない。
数多いる人の中で、選ばれたかのように縁を結べる人は、そう多くはない。
何かしら、特別な縁を感じて当たり前。
でも、彼はちょっと不思議な人だった。
2度目に会う約束をした後。
彼は休みの日で、私が終日予定があって、なかなか日中連絡を取ることができなかった。
彼の声が聴きたくて、電話してもいい?と聞いた。
いいよ、と言ってくれたので、9時頃を目掛けて電話をした。
その日の出来事を話したり、仕事の話をしたり、音楽の話をしたり。
記憶力がすごくいい、という話から脱線して、彼が不思議な出来事の話をした。
直感、というのか。何かピンと引っかかったものがその後もキーになっていたりする、と。
その流れで、彼が話してくれたこと。
「自分の前世が分かったんだ」
前世は音楽家で、その人が早逝したので、その歳から自分はアーティストとして開花する、と。
夢のような、おかしな話。
不思議と、彼がホラをふいているようには感じなかった。
彼がそうやって感じてるなら、きっとそういう風になるんだろうなと、漠然と信じていた。
どこか変だ、とかも思わなかった。
そういう人もいるだろう、くらいに。彼がそう思うなら、きっと、そうなんだろう、って。
彼はそういうことを職場で包み隠さず話していると言っていた。職場では、「不思議ちゃん」だと思われてるって。
今の職場はストレスフリーで、すごく気楽に働いていられるって話してくれた。何にも隠さずに話しているって言っていた。
「でも、Mさんに話すつもりはなかったんだけどな」
え、なんで?
「引かれるかもしれない要素は話さなくてもいいでしょ」
まぁ、確かに。でも、別にそういう話で引いたりしないけどね。
その日は3時間半も、電話で話した。おそらく、長電話の最長記録。
どういう風に生きたい、とか。そういう話もして。
「そんな話を人としたの、すごく久しぶりだな」
と彼は言っていた。
真面目な話も、ちょっと信じられない話も、共有できることが嬉しかった。
2度目に会う約束の日。
たまたま、女友達とやり取りをしていて、彼の家とその子の家が近かったので、彼の家に行く前にランチをする約束をした。
彼との話を、誰かに話したかった。
最寄り駅のファミレスに入って、ご飯を食べながら、共通の友人がもう一人来るのを待つ。彼女が来てから、彼との話を二人に話した。
どうやって出会ったか。どういう人なのか。最初の日にどうしたのか。その後、どういうやり取りをしているのか。
女は、恋をしたら誰かに話したいものなんだ。
話しているうちに、自分の中で気持ちが盛り上がっていって、もっとのめり込む。
典型的に、そういうパターンにはまっている。
あんまり夢中にならないように、確信が持てるまで人には話さないでおこうって思ってたのに。
2度目の約束をして、浮かれていた。
彼も、私にもう一度会いたいって思ってくれてる。一緒にいたいって思ってくれてる。
この先も、こういう風に一緒にいられるかもしれない。
好かれているかどうかも分からないのに、その事実に浮かれていた。
付き合っているわけでもないのに。
予想外に早く仮眠が終わったという彼からの連絡。いつでもおいでと言ってくれる。
私に、早く会いたいのだろうか。
そういう解釈をしてしまう。気持ちが浮き立つ。
私自身はもうどっぷり浸かってしまっていて。逃れられない。引くこともできない。自分の気持ちと共に前に進むだけ。
彼に会いたい。
抱かれたい。
そばにいたい。
彼の行く末を見守っていたい。
友人二人を置いて、彼が待つ駅へと向かう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?