世界はアーツなモノにあふれてる
三浦春馬さん。お空の世界でおげんきですか。去年私たちがあなたの旅立ちを知った時からもうすぐ1年になろうとしていますが、元々ファンであった者にとっても、特別そうでなかった者にとっても、あなたの溢れんばかりの魅力と才能を再認識させられたこの1年でした。もう新しくあなたの作品、「アーツ」がこの世に出てこないのだなと思うと、その事実だけでなんて残酷なのだろうと思います。
「アーツ(Arts)」ってなんじゃろ
さ、切り替えないと。彼を想うと特別な大ファンじゃなかった私でさえも「なぜ…」が止まらなくなる。
アート(Art)といえば、単に「芸術・美術」だと思っていて、そこにsがついて「アーツ(Arts)」になっても大して差がないと思っている人。
自分の学士号がB.A.なのに、その「A」になんの疑問も抱いたことがない人。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい~
世界はアーツなモノにあふれていますよ。
〇 リベラル・アーツ(Liberal Arts)
〇 文系学士号(Bachelor of Arts)
〇 マーシャル・アーツ(Martial Arts) 〇 STEAM教育(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics)
〇 ファイン・アーツ(Fine Arts)※Artの場合もある
〇 ビジュアル・アーツ(Visual Arts)
〇 プラスティック・アーツ(Plastic Arts)
〇 パフォーミング・アーツ(Performing Arts)
〇 デジタル・アーツ(Digital Arts)
〇 アプライド(応用)・アーツ(Applied Arts)
〇 リテラシー・アーツ(Literacy Arts)
などなど。
そして、私が今大人にも子どもにも「一生にわたる必須科目」にしたいとまで思う「リベラル・アーツ」もこの「アーツきょうだい」の一つ。
今、改めて考える「アーツ」
一つ一つを説明していると、誰も読みたくなくなる記事になってしまうので笑、上記の例の中から「今こそ真の意味を知っておきたいアーツ」に絞って一緒に考えてみたい。「アーツ」が芸術・美術を指すだけのものではないことを知るために、そのイメージをつかむことで、そこに「奥行き」が生まれるように。
リベラル・アーツ(Liberal Arts)
非常に残念なことに、多くの日本人が「一般教養」と勘違いしている。仕方がないことだ。翻訳されて「一般教養」になってしまっているから。あえて和訳せずに「リベラル・アーツ学部」なんという名前を謳っている大学でさえも提供される科目を見るとどうやら宣伝文句にしか使ってないことがバレバレとなってしまうが…
元々は人が持つ必要がある技芸(実践的な知識と学問の基本)と考えられた「自由七科」のことで、起源はギリシャ・ローマ時代に誕生した「人間を束縛から解放する知識のこと」である。つまり「私はこの知識を持っている!故に非自由民(奴隷)ではない!」と主張する免許みたいなものだったのだろう。
2013年4月24日の「東洋経済オンライン」にもリベラル・アーツの世間での勘違いは指摘されている。リベラル・アーツ「自由7科」の中身は、主に言語にかかわる「3学(トリウィウム)」のことで、「文法」(Grammar)、「修辞学」(Rhetoric)、「弁証法(論理学)」(Logic)。加えて「4科(クワードリウィウム)」は数学にかかわる「算術」(Arithmetic)、「幾何」(Geometry)、「天文」(Astronomy)、「音楽」(Music)だ。しかもここに元々は「哲学」(Philosophy)、そのトップに「神学」(Theology)までもあったというから、まあ、なんとお腹いっぱいなこと!
そしてこの記事を書いたジャーナリストの山田氏は、本場アメリカのリベラル・アーツは「学問の入口」であり、「大学院進学を前提としたもの」と定義している。いわば、さらっと一般教養を身に着けて、大学の1,2年の一般教養課程を終えて、3,4年では専門課程に入るけど、3年生のメインは就職活動で、4年になる頃には単位さえ取れていればゼミに参加するぐらいでOK…といった日本の大方の大学のシステムに「リベラル・アーツ」という言葉は合わない。学部名として謳うのならば、上記並みに「学問の入口」として骨のあるカリキュラムを入れ込んでいかなければ、元の意味に反することとなる。
実は私が留学したフィラデルフィアの大学も、このリベラル・アーツカレッジであり、大多数が大学院に行く前提で4年間を過ごす。(単位を早く取って3年半で終わらせる人もいた!)基礎学問として少人数制(多くとも学生は20人もいなかった)で質の良い教育を受けることができ、毎年発表される大学のランキング雑誌には「総合大学」と別カテゴリーで「リベラル・アーツ大学」ランキングがきちんと存在する。専門(MajorやMinor)がまったくないわけではなかったが、多くの優秀な学生は「Pre-Med」(医者になることを前提)、「Pre-Law」(弁護士・検事などの法曹界行き)などと言われる身分となり、「大学院を出て何になるか」を考えた科目の取得を計画していた。もちろんリベラル・アーツ大学を出て普通に就職したり教員になったりする人もいる。
というわけで、本当の「リベラル・アーツ」が日本の一般教養学部や科目と大いに違うのは、「平たく幅広く一般教養として勉強しましょう!」ではないという学問であること。テクノロジーの発展やグローバル化によって複雑化する社会において「答えのない難問」を解くには、単一の専門領域では足りないから、複数の学問を学ぶことでその知識を身につけることができるということ。一つ一つの領域がリベラル・アーツはすでに体系だっている。あれ?これって「今」こそ必要な学問なのではないだろうか…
文系の学士号(Bachelor of Arts)
4年生大学、文系の学部、を卒業すれば取得できる学士号。
先日ずっと撮り溜めしていた「義母と娘のブルース」を久しぶりに家族で観た。娘役の上白石萌歌が大学受験に熱心ではないことを義母役の綾瀬はるかが悩んでいるシーン。彼女はママ友に「大学は何のために行くと思っている?」と聞かれ、「青春を謳歌するためではないのですか?」と迷いもなく答えている。
おーっと!私のことですか?笑。確かに我々団塊ジュニア世代まではそのような風潮があったし、今でも「入学」が目的で、学び自体の「中身」はあまり重視されず(もちろん成績は人選の参考にされるだろうが)、「大学は就職のために行く高等教育機関」となっていることは否めない。先に話したリベラル・アーツが「学問の入口」になっていることを考慮すると、「就職の入口」になっている日本の高等教育機関は本当に本当にそれに甘んじて良いのか…情けない話ではある。
が、しかし!ここへ来て「モノを言う、考える、そして行動する」期待の「Z世代」が現れた!近頃の大学生、少なくとも私が出会ったことがあるZ世代学生たちの多くは、多様性を認める価値観を持ち、本質的な思考ができるリアリストであり、しっかりとした大学生活を送っている。自分の学生時代を大いに反省したいぐらいだ。そうした彼らが真の学びをおこない、思考を深め、自分軸を獲得し、さらなる高みを目指して大学院に進んだり、社会に出てからも「働くこと」だけを目的にせずに多様なスタイルでの生涯学習やリカレント教育を続けてくれれば、きっと未来も明るいはず。そういう社会のプラットフォームを我々上のおじちゃん・おばちゃん世代が頑張って作って、彼らを決して潰すような悪しき慣習を継承しないようにしないといけないと思う。※この前は得意気に「俺らの頃は名刺に”寝たら敗北”って手書きして渡したよ~」とか、「社内研修なんてなかったよ、OJT、OJT!全部現場で寝ないで覚えさせられたもんな…」などと遠い目をして武勇伝を語っていた輩たちに遭遇。後ろから「ハリセン」で引っ叩こうかと本気で思った…。
と、そんな我々昔の大学生も、期待度高のZ世代大学生も、4年生大学を卒業するときに獲得できた・できるのが学士号。日本もアメリカ同様「B.A.(Bachelor of Arts)」と「Bachelor of Science」の二種類が基本。防衛大学などの専門職学位もあるが、基本はこの人文・社会科学系の場合のB.Aと自然科学系・工学・看護学のB.S.となる。
この違い。単に「文系」「理系」で片づけるにはもったいない!先に紹介した東京経済オンラインの記事を書いた山田氏はうまく解説している。
「サイエンス」”things God made” (神がつくったもの)
「アーツ」”things humans made”(人間が作ったもの)
さあ、どうだろうか。これでアートが複数形になった「アーツ」がとても興味深く、奥深さが出てきたのではないだろうか。今まで平たく見えていたものが、急に立体化するような。この違いを知っているだけで、物事を見る時に「アーツ」なのか「サイエンス」なのかがよく理解できるような、面白い判断軸。
絵が上手だったり、デザインができたり、美術史に詳しかったりしなくとも、その「奥行き」と「深さ」を楽しむ幅の広い「アーツ」という領域。あまり興味を持ってもらえないかもしれない「ランゲージ・アーツ」の紹介に入る前に、ちょっとは「アーツの世界」を楽しんでいただけただろうか。
最後に。私の好きな「アーツ」を。
娘が4歳になる直前の「母の日」に保育園で描いた絵。はい、「母の日」です!!!母の日。母…私?え?髭生えている?なぜ?
クラスメイトのママたちの間では「爆笑」と「心配」が渦巻いたが、私の教員時代の美術の先生と、そのお母さま(元音楽の先生)に見せたところ、「なんて素晴らしいの!色使いといい、華やかさといい!これはお母さん(私)の明るさとユニークさを子どもながらに表現しているのよ!!!」とお褒めの言葉をいただいた。
このお言葉を有難く受け取り、ポジティブに捉えることにした6年前。彼女の性格と私のイメージを考慮し、彼女の人生が「アーツ」だな…と思い返してみる。
KYHR/SLA
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