母との意思疎通x文字盤x人工呼吸器
呼吸が出来ず、その上一切動けない時の意思疎通の術は二つ
1.唇を読んでもらう (口パク)
2.文字盤で一文字一文字瞬きで伝える
瞬きは基本動作。
「はい」は瞬き一回
「いいえ」は瞬き二回
1.唇を読んでもらう (口パク)
相手が唇を読める場合は、口パクで会話をしておりました。もちろん、私は口パクなのですが、会話の相手は普通に話します。
この時、まずは相手が意思疎通を図ろうと思い、私に問いかける必要があります。
最初は意思疎通の意思から始まるのです。
肉声では、相手がどこにいようが、どの方向を向いていようが、本人が声を出せば、耳に入ったその音で何かを伝えようとしていることが分かります。
あるいは、ただうめき声をあげていても、叫んでも、「何かが必要な事態に陥っている」ということは容易に伝わる。
しかし、声が聞こえない時には、音ではない手段で伝えなければならない。
耳が聞こえないが、身体が動く場合には、手話や筆談が可能である。
相手の方を叩いたり、腕を掴んだり、自分は聞こえずとも、声を出すこともできるだろう。(これも楽ではないだろう。)
しかし、声が出せない上、身動き一つとれないとなると、相手が意図的に本人に「何か伝えたいことはある?」と問いかける必要が出てくる。
想像してみて欲しい。
あなたの後ろに水槽があるとして、その中の魚が口をパクパクした時に気が付くだろうか?
もし、魚が口を開けたか知りたければ、そっちを振り向き、魚の口が見える位置で、魚を観察する必要がある。
しゃべれない人間というのは、これとさして変わらない状態にあるともいえる。
相手が敢えてコミュニケーションを取ろうと思ってくれた時に限って、こちらを見てくれる。そして、十分に近い距離で見てくれる。部屋の反対側やドアのあたりなどの口元が見えないところではなく、ベッドサイドに立ち、私の顔を見てくれた時にのみ、私は言いたいことがあることを伝えることができるのだ。
そして、その相手が唇の動きで一文字ずつ読み取ることができる能力にたけている時に限って、「口頭」で唇の形でしゃべるように言葉を表現できる。
スピーディーにこれを読み取ってくれ、私に話しかけてくれる時には、会話が成立する。
2.文字盤を用いる(あいうえお表を使う)
もう一つの方法が、文字盤を使うこと。
一つは、あいうえお表がプリントされた不透明な板。もう一つは、同じあいうえお表ですが、板は透明。
不透明な板と、透明な板とでそんなに違いがあるのだろうか。
不透明な文字盤も意思疎通を図れるが、手間がかかる。
あ、か、さ、た、な…とどの行かを、相手が指をさしていく。そして、正しい所で、一回瞬きをする。
そしたら、次はその行の字を上から一つずつ指していく。正しい所で、もう一度瞬きをする。
仮に、「ありがとう」と伝えたいとします。
「あ」
あ、(瞬き一回)
あ、(瞬き一回)
「り」
あ、か、さ、た、な、は、ま、や、ら(らの時に瞬き一回)
ら、り(りの時に瞬き一回)
「か」
あ、か(かの時に瞬き一回)
か(瞬き一回)
「か」を「が」にするためには、
あ…ん、「゜」、「゛」(濁点で瞬き一回)
「か」に濁点か、「が」
ここまでで、「ありが…」までが完成する。
この時、親しい間柄や、慣れている人であれば、どのような言葉をよく使うかによって、
「ありがいる?」
「ありがすき?」
「ありがとう?」(ありがとうと言った時に瞬き一回)
という方法もあります。
何か簡単に予想ができない場合、そのまま同様に続きの文字を聞いていく。このように、共同作業で文字を伝え、読み取る。一文字目から最後までを聞き終わったら、次に全ての文字を組み立てていく必要がある。
「最初が【あ】、次が【り】…」と瞬きで伝えられた文字を組み合わせて言葉や文を組み立てます。「ありがとう」となる。
寝返りを打ちたい時には、「ね、か、濁点、え、り」と一文字ずつ伝えるか、「た、い、い」と伝えるか。状況によって違うだろう。
「今日はどんな日だった?」のたった一文でも、
「か→き、や→よ、あ→う、は→は、た→と、濁点、わ→ん、な→な、は→ひ、た→た、濁点、た→つ、た→た」
「きようはどんなひだつた…」
あ~、「きょうはどんなひだった?」
と一つの質問文が成立する。
このような会話形式だと、とにかく文字数を減らる習慣がつく。同じ言葉なら、短い言葉を選ぶし、濁点のない表現があるのなら、そちらを選択する。
徐々に、要点だけを非常に短い単語や文で伝えるように文体が変化していく。
仮に、「仕事どうだった?」と聞きたい時、
「職場楽しい?」と日常会話としては正直変でも、より短く、より変換が少ない文体をえらぶ。
敬語などは、もはや使わない。
「はい」は二文字。瞬き一回は一瞬の動作。
「はい」は瞬き一回
「いいえ」は瞬き二回
こうして、一文字一文字伝えるのが、誰でも直ぐに文字盤を使えるやり方でもあり、練習が必要ない使い方でもある。親子や友人といったような近しい関係でなくとも、初対面の人や初めて文字盤を使ってコミュニケーションを取ってくれる相手ともコミュニケーションが取れる方法。
透明な文字盤はまさにマジック! 感動の発明品
しかし、透明な文字盤の場合は少し難易度が上がり、慣れが必要になるが、もっとずーっと速くコミュニケーション。
相手と自分の目線が逢う所で瞬きをするのだ。以下にもう少し丁寧に解説する。
患者はずっと「あ」を眼で追う。
相手は、透明な文字盤と自身の目線を動かしながら、どの字が伝えたいのかを探る。
相手と患者の目線が逢った時、それが伝えたい文字の所であったなら、患者が一回瞬きをする。
これを一文字ずつ繰り返すと、「あ、り、が、と、う」と一文字ずつ伝える際に、「あ、か、さ、た、な…」とどの行の文字であるかを伝えるステップを飛ばすことができる。よりダイレクトに伝えたい文字を伝えることができるのだ。
イメージとしては、透明の文字盤では、指であらかじめ伝えたい文字を指しており、文字盤内で相手が指を動かして指に当たった時にどの文字か分かるといった感覚に近い。
こうすると、スムーズな板の動きで、一つの滑らかな動作のみで一文字を伝えられる。
そして、慣れてくると、かなりスピーディーに、そしてスムーズに文字を伝えられる。
母との会話は、透明の文字盤で行った。どんどん慣れてくれて、パチッ、パチッと瞬きで一文字一文字を会話できる程度のスピードでやり取りできました。
とはいえ、例えば10字伝えたとして、一文字目、5文字目と正確に記憶できるだろうか?それも、会話のようなスピードの文の押収になったら、分けが分からなくなってしまうだろう。
最初の一、二文はどうにかなるにせよ、十番目の文の文字を一文字ずつ記憶しており、振り返って文にする時に、混乱してしまうことが増えてくる。しかも、来る日も来る日もとなると、もう前日の記憶と、三つ目の文の記憶と、今聞いた記憶と等々「あれ?」ということが増えてくる。
5文字目「い」、でもそれさっきのだっけ? 今のだっけ? と。
混乱を避けるべく、母は自身の腕に一文字伝えるごとに書き取り、一文の終わりでひらがなで書きだしたその腕に書かれた文を読むというスタイルが定着した。
こうして、最初こそ結構大変だったが、どんどん透明な文字盤をお互いに使いこなすにつれて、どんどん意思疎通のスピードと滑らかさが上がっていった。
どのような言葉を使う傾向なのかももはや記憶されている。
最後の方は、もうツーカー(笑)
楽しかったのだけは覚えている。正確に何を話していたかは覚えていない。他愛無い話しで、今までのように笑って会話していた。そう、透明な文字盤で、私は瞬きで一文字ずつ伝え、母はそれを読み取るという作業が加わっていたのに。
会話が成立するスピードで、それも楽しくね。
とはいえ、このままなら、衰弱し、いずれ合併症で亡くなってしまうという状況は変わらず…
そんな中、日本初の処置を施してくれ、それが効果てきめんだったおかげで、奇跡的に一命をとりとめただけではなく、奇跡的なほど回復しました。
人工呼吸器が外れた当初、自分の声で会話できることがこれほどまでに素晴らしく、貴重で、奇跡のようなことだと実感しました。
皆、積極的に意思疎通を図ってくれており、不自由があまりないように手厚い対応をしてくれていたのですが、それでもやっぱり肉声というのは…神様が人類に下さった奇跡の意思疎通法なのかもしれませんね。
後に読み直して、修正致します。
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