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アップロード、ヒトミさんの場合

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#離婚調停

アップロード、ヒトミさんの場合(0)

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プロローグ
 閉塞感の漂う時代、たくさんのヒトミさんたちが、片目を瞑って生きています。
 先人たちの言うように、両目を開いて伴侶を探し、片目を瞑って伴侶と暮らし、なんとかなると思っていたはずなのに、なぜだか心が壊れてゆくのです。
 先人たちに、可哀想だと思える間は我慢しろと教わって、同情は愛情と同義語なのかと考えたり、いつかは変わるのではないかと期待したり、優しいところもあるからと思い直したり、自

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アップロード、ヒトミさんの場合(13)

アップロード、ヒトミさんの場合(13)

まだまだ困難が待ち受けている
 しかしヒトミさんの行く手には、まだまだ困難が待ち受けている。
 新横浜駅で降り、ミコちゃんの家に二泊して、借りていたキャリーバッグと冬服を返す。懐かしい我が家のようなミコちゃんの家で、移動疲れを癒してから、段ボール一箱分の荷物を海辺のシェアハウスに送る。
駅まで送ってくれたミコちゃんとハグをして、電車を二度乗り換えて、一時間半ほどで着いた小さな駅前のロータリ

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アップロード、ヒトミさんの場合(16)

アップロード、ヒトミさんの場合(16)

不信感
 前回欠席だった夫は今回は出席していて、先に夫の話を聞くということで、ヒトミさんは弁護士さんと申立人待合室で待っていた。同じ建物に中に夫がいると思うだけで、恐怖心から吐き気がしてきたけれど耐えた。
 
 待合室は混んでいて、苛立ったり切羽詰まったような人々が、各々の弁護士たちと打ち合わせをしたり、どこかに電話をかけていたりしていたが、何も話すことのないヒトミさんとヒトミさんの弁護士さんは、

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アップロード、ヒトミさんの場合(17)

アップロード、ヒトミさんの場合(17)

連帯感
 社会は、優しい人ばかりで構成されているわけではない。そんなことは当たり前のようにわかっていたはずなのに、いまのヒトミさんの心には、人の悪意がダイレクトに突き刺さり、汚い言葉を聞くと指先が震えて冷たくなってくる。五十年と少し、ヒトミさんはこの悪意に満ちた世界で無事に生きてこられたことが信じられなくなってくる。
 
 でもヒトミさんと仲のいい入居者さんたちは、それらをちゃんとわかってくれてい

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