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映画『事故物件 恐い間取り』は「ホラー好き」ではなく「心霊番組好き」向けの映画だと感じたという話

■はじめに

 こんにちは。花倉みだれです。
 今回は映画「事故物件 恐い間取り」を見てきた感想を残させていただきます。
 原作は事故物件に住む企画をやっているお笑い芸人の松原タニシさん著作のノンフィクションレポ「事故物件怪談 恐い間取り」で、映画版はGoingでお馴染みジャニーズの亀梨和也さん主演のドラマ(フィクション的な意味で)となっています。

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 上が原作の本。下が映画のパンフレットです。

 

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松原タニシさん。松竹芸能HPより。亀梨さんかなり寄せてきているのはなんとなく見て取れます。


■恐いの?

 TVCMもありプロモーションでの露出は非常に多いのですが、目にする範囲ではほとんどが正統派ホラーと認識されたそうな演出をされています。
 ホラー映画が好きな人も苦手な人も気になる「怖さ」については、プロモーション通りの怖さを期待するとちょっと違うものになるだろう、と感じました。それなりにビビりやすい性質を私は持っていますが、主観で言えば全く怖くなかったと言い切れます。
 ただ、だからといって駄作だと言いたいわけではありません。

■ハイコンテクストなカルチャー・演出

 私がこの映画を見てすごく率直に感じたことを口に出してしたり、あるいはシーンシーンの演出やシナリオのつなぎやリアリティや部分部分を切り取って論評してみたとしても、それはとてもレビューとしては観点がズレてしまうと感じました。率直に言えば私はこの映画がターゲットとしているユーザーではなかったのだろうと思います。

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『ときめきメモリアル』(KONAMI)から藤崎詩織ちゃん。

 ピンク髪の女は現実に存在しねぇ! とか
 前かがみで腰で手を組んで微笑む女は存在しねぇ! とか
 散々これまで萌え豚ユーザーとして言われてきたことを、別ジャンルの人々に対し言う側に回るわけにはいきません。だって、そんなの知ってて楽しんでるんですからね!

 『事故物件』が対象としているユーザー層というのは、ズバリ「心霊番組好き」なのだと想像します。テレビの心霊番組的な文脈の上に立つ描写が非常に多いです。
  例えば、いわくつきの物件に住んだところ「オーブ」が画面に写り込んだことがキッカケで劇中の主人公は芸人として足がかりを得る……というエピソードがあります。

 暗いところでホコリが光に当たってゴミがカメラに入り込む現象を心霊現象として騒いでみている心霊番組あるあるらしいのですが、私は妻と結婚するまでこの単語を知りませんでした。逆に「え、オーブだよ? 知らないの? えっ……あのオーブをご存じない??」と言われるくらいこの類に知見のある人たちの間では定番の言葉や表現らしいのです。
 重要なポジションのサブキャラクターに木下ほうかや高田純次などをキャスティングしているのも、重厚なホラーとしての体裁よりも、親しみやすさを重視したTV番組の再現ドラマの延長線上に置きたいという制作陣の意図を感じます。

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『事故物件』公式HPより

 理屈は合わないように見える心霊現象の発生条件、胡散臭い霊媒師や除霊方法、やや安っぽい印象が否めないCG演出、やや都合のいいように動いているような気がする登場人物たち、「怖いものに積極的に関与する人は破滅する」というふわっとした方向性……。
 これらも全て『2時間かけた心霊系モチーフの実話というていの再現ドラマ』と捉えると納得感や豪華感があるのかなと思います。
 「オーブ」は入り口で、数件回る事故物件で起こる心霊現象の数々も「心霊番組好き」には馴染みが深そうな、どこかで聞いたことのあるようなエピソードの焼き直しという印象が非常に強いです。ただ、その筋向けなのであれば逆に定番の宝庫とも見れるわけで、マイナスポイントとは必ずしもなりませんね。
 ちなみに、原作と映画はお笑い芸人というキャラクター性と事故物件などの要素を借りつつも、話としてはオリジナルとのことです。この辺りの関係性すら再現ドラマ系エンタメとして捉えるのが恐らく正解なのかと感じました。
 ポイントとしては「心霊番組好き」=「ホラー好き(怖くなりたい)」なわけでは必ずしもないということでしょうね。

■ハイコンテクストなタイトルをマス向けにプロモーションすること

 というわけで、非常にニッチで文脈的に理解するのが難しい映画というのが私の結論なのですが、売り方は非常にマス向けです。主演はあの亀梨さんですし。ものすごく亀梨さんテレビ出てましたし、CM多かった……。
 対象ユーザーの満足度はそれなりにある一方で、ミスマッチも激しく発生していて評価は芳しくないところに落ち着いてしまうのではないかな……と想像します。
 一方で、ニッチな文化側としては、下手な解説を行わないままマス向けに売り込んだ結果「触れる機会がなかっただけの潜在的ユーザー」をいくつか掘り起こすこともきっとできたのではないかと思います。気になるから調べる、調べた結果ハマる……というサイクルが生まれるとしたら心霊番組業界としては良い投資となることでしょう。実際どうなのか私が知る由もないのですが。
 ほとんど妄想ではありますが、身を切って大義を持って制作・配信を行っているのだとしたら、テレビ関係の体力ってすごいなぁ……みたいなことを感じさせる映画でした。

 疑問に思うところがないわけではなかったのですが、ちょっと冴えない感じの亀梨さんはそれもカッコイイし演技も違和感ないし、無駄な体験だったという感覚は全然なかったですし、ネガキャンしたいわけでもないですよ!

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