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いろんな繋がり方があっていい


月に一度だけ。

有料老人ホームに入居している母親のもとへ足を運ぶ夫。
買い物に必要なお小遣いを届ける。


義母は、来年米寿を迎える。
ホームでの生活も最初の頃は大変だったけど今は特に。
時々、転倒などによる怪我はあるが、血圧も落ち着いているし、精神状態も安定している。今のところ、認知症などの症状もないので介護用の手押し車があれば自力歩行もなんとか。
毎日関わって下さるスタッフの支えがあるからこそ、施設での生活も守られている。
介護スタッフの方が付き添って下さる買い物が、義母の活力にもなっている。

夫がお小遣いを届ける相手は施設のスタッフ。
面会はしない。

先日、あるnoterさんの記事を読んで、コメントしようかと迷って……結局やめた。

施設に入居している高齢のお母さまとの関係を記事にしていた。
面会に行く前の日は気が重くなる…
と書かれていたのが、胸にズン..ときた。

以前の夫と一緒だ。
毎週末、せっせと面会に行っていた夫もそうだった。


息子なら行くのが当然。
母親だから子どもに何でも言っていい。
だって親子でしょ。
お互いそんなふうに思い込んでいたから。

世間体とか、周りの人からどう見られるか…とか。
なるべく、スタッフに迷惑をかけないようにと、母親の不安定な気持ちをどうにかしようと必死だった。


ぼくがいなければ、母親がかわいそう…そんな気持ちを母親から植え付けられていただけ。
昼夜問わず、母親から届くメールに振り回され、疲弊していた。
見かねた私がアドバイスをするが、全く耳を貸そうとしない。
次第に夫は追い詰められて行く。

その頃ちょうど、義母がある事件を起こし、このままでは施設に居られなくなるかもしれない…という窮地に追い込まれた。
そんな折、ひとりの看護師さんからアドバイスをいただく。


『息子であるあなたが何もしないことが、一番良い』


夫は混乱した。

母親に何もしなくていい…
一体どういうことなのか…
じゃあ、どうすればいいのか⁇と夫は苦しんだ。

毎回、緊急を要する事でもないのに母親からの携帯に反応していた夫。
向こうも呼べば、すぐ来てくれると思い込んでいる。

何もしないことの意味がわからない夫は、一体どうすればいいのか判断できず、母親からの携帯に怯えた。
それから面会は私が同伴で行くことになった。


義母の方も面会のたびに私が同伴だとわかると「早く帰って!」と言わんばかりの態度を示す。
それを何度か繰り返すうち、少しずつ夫の携帯が鳴ることは減っていった。
やがてコロナ禍に突入。
施設のスタッフから、義母自身が定期的に買い物をすることを提案されたのもそんな時期だった。

義母が介護スタッフの付き添いで、買い物を楽しむようになったのはそれからだ。
化粧品から嗜好品に至るまで、近所のスーパーやコンビニで好きなものを選ぶ。
施設での生活に変化が訪れ、それと同時に親子の繋がり方も変わっていく。


今はスタッフを介して義母の近況を聞くだけ。
夫はそれでも、時々どうしようもなく不安になるようで、いろんな節目のたびに母親に会わなければいけない…と思ってしまう。

そんな時は、必ずスタッフに胸の内を聞いてもらう。母親に対する気持ちを直接聞いてもらうことで夫は落ち着くのだ。

『今は安定しているから大丈夫ですよ。』


スタッフのそのひと言が、夫にとっての安定剤。


親子の間にスタッフがいてくれることでどんなに救われただろう。
夫婦関係にもプラスの影響をもたらしてくれた。


昨年末、スタッフから手渡されたクリスマスカードには義母の顔写真と自筆で書かれたメッセージが添えられていた。

夫が欲しかった言葉はなく、そこに書かれていたのは、まさに母親からの要求だった。赤いクリスマスカードにそぐわない内容だが、しっかりした筆圧であの人らしいメッセージ。
一生懸命に伝えようと、何度も消しゴムで消して書き直したあとが残っていた。

「ぜんぜん変わってないんだな…」

そう言って夫は肩を落とした。


先日、離れて暮らす長男から、孫の写真付きカレンダーが届いた。
年賀状の変わりに作ったから、ばあばにも渡して…と。
義母にとっては、ひ孫の成長が楽しめるカレンダーだ。

月に一度の訪問日。
夫は母親に直接手渡そうと悩んでいたが、スタッフと相談して結局やめた。
お小遣いとともにそのカレンダーを預けた。

『きっと喜ばれると思いますよ』

受け取ってくれたスタッフの言葉どおり、素直に喜んでくれたらいいけど。

たとえ、こちらの思うようなリアクションでなくてもいい。そんなことは想定内だ。関わることをやめてから、こちらの感情を揺さぶられることもなくなった。親子を繋いでくれる人達がいてくれるから。

届ける相手がいる間は、こちらの想いを伝え続けよう。
支えてくれる方々に感謝しながら行けるところまで行ってみよう。






最後まで読んでいただきありがとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします😊




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