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社会運動デモで世論は変わるか(論文紹介)

答: BLMでは変わった

元論文: Dunivin, Zackary Okun, et al. "Black Lives Matter protests shift public discourse." Proceedings of the National Academy of Sciences 119.10 (2022).

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2117320119

デモ、抗議活動の成果と歴史

デモは市民が取れる民主主義の歴とした意思表明の手段であり権利です。世界中でこれまでに数え切れないほどのデモが行われ、研究者たちはその成果を記録として残してきました。例えば反ベトナム戦争への抗議が公聴会を増やしたこと、黒人の公民権を求める運動がホワイトハウスにおける議論を増加させたこと、反酒運動が法律の修正につながったことなどが挙げられます(参考文献は論文を参照)。

デジタルメディアと社会運動

近年では、このような社会運動は常にデジタルプラットフォームとともにあります。以前紹介したレビュー論文でも、デジタルメディアは民主主義における市民の議論参加を促す効果が確認されてました。

本研究では更につぶさに、BLMを事例として、デモ活動によって世論がどうシフトしたかを定量的に記述しています。具体的には、2010年代に起こったBLM関連の事件と、Googleなどのオンラインデータを照らし合わせ、これらの関係性を分析しています。

2010年代にBLM関連の単語使用は顕著に増えている

まず、ここではBLM関連の単語(White Supremacyなど)と、伝統的に差別関連で使われてきた単語(Diversityなど)を比較します。ソースはGoogle Books、Google Search、News Mediaです。どのソースでも共通して、BLM関連の単語の単語使用量は急激に増えています(図右)。この結果は、伝統的な差別関連の単語と比較しても変わりません(図左)。

デモがあった直後は"Black Lives Matter"の検索量が増える

ここでは改めて"Black Lives Matter"という単語のGoogle検索量を時系列に追います。下図では、抗議があった日(下図赤線)に、検索量(緑線)が増えていることがわかります。さらにそのインパクトは抗議後も続き、しかも抗議があるたびに検索の絶対量が増えていることがわかります。(抗議活動参加者(黒線)が前回より増えていないときでも、検索量は増えています。)

抗議活動があるたびに、BLMの検索量は増える

デモがあるたびに検索量は増えていく

「検索量がデモの度に増えていく」ことを定量的に示しているのが下図です。ここでは、主要なデモが起こるたびに関連単語の検索量がどれくらい積み上がっているかを定量化しています(定量化手法は論文を参照)。これを見ると、概ね2010年代はBLM関連の単語の検索量が長期的に増えてきていることがわかります。

BLMへの関心はGeorge Floydデモの後も持続

特に「デモ後も関心が持続している」という主張を定量的に示したものが以下の図です。この図では、横軸がジョージ・フロイド事件の後に検索量どれくらい増えたかを示しています。これを見ると、他の象徴的な単語に比べ、"Black Lives Matter"の単語が一段と検索量が大きくなっていることがわかります。

BLM反対派の単語はBLM程は増えていない

BLM活動は、BLM反対派の人々から黒人優遇策だとして批判が起こりました。その主な主張は「黒人以外の命も重要だ」というものです。その代表的な標語が"All Lives Matter"、”Blue Lives Matter”、"White Lives Matter"ですが、ここでは最後の分析として、それらの単語と"Black Lives Matter"を、Twitterのハッシュタグの量で比較しています。

結果は下図です。確かに2015年ほどを堺に、反BLM系のハッシュタグも急激に増えています。しかし、これらはBLMよりは一桁以上小さく、存在感としてBLMには敵わないことがわかります。

まとめてみた所感

Twitterが出現してからもう20年ほど経つようになり、「ハッシュタグ・アクティビズム」という言葉が象徴するように、社会運動はソーシャルメディアとともにあることが一般的になっています。またそれは同時に、過去の社会活動の影響やトレンドを、定量的に分析できるようになってきたということです。本研究のように、長期的なデータを取得することは、今後も社会科学に対して重要な示唆を出していくことができる思われます(なのでTwitter Academic APIは残ってほしい。。)

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