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マーケターがセールスを経験してAIビジネスの大変さを痛感した話

こんにちは、LeapMind Inc.でマーケティングを担当しているMARINA(@m__sb04)です。
今回の記事は、「LeapMind Advent Calendar」の23日目です!🎄🎅

わたしはこのAI業界に入ってインターンから数えると2年半近く経つのですが、広報→マーケというキャリアを歩んできたので、実はセールスの経験がほとんど無く、恥ずかしながら実際のお客さんのリアルな声を聞く機会があまりない状況が続いていました。

ただ、マーケティングをする上では、顧客目線、課題ドリブンで施策を打つ必要やセールスと多く連携して動く必要があり、「実際にお客さんはどんな課題を持っているのか」「どのような観点でプロジェクトを進めるのが大変なのか」「何がボトルネックとなって失注してしまうのか」などなどを実際に知っておかなければ、いくら市場や競合を調査しても共同研究のような特に汎用性が低い場合、あらゆる場面で机上の空論をすることになってしまい、適切な施策を打てていないのでは?という課題を持っていました。

特にAIビジネスはまだ顧客自身の課題が明確でない場合が多く、潜在的なニーズを汲み取ってアプローチする必要があるため、このアプローチを取れば良いという確実性の高い正攻法を生み出せておらず、個々にカスタマイズする必要のあるものが多い現状です。(他と違って何が難しいのかマーケ視点の話はまた今度したいと思います。)
ということで、今回3~4ヶ月ほどセールスを経験する機会をいただくことになりました。

セールスをする前に、今回自分が把握したいと考えていたのは以下の3つ。

① お客さんがどのような課題を持っているのかをなるべく多く知る
特に技術力のある会社はプロダクトアウトになりがちなので、他社とのソリューションの差別化を図るにも、新たなソリューションを考えるにも、何をするにもお客さんの課題を知る必要があると日々痛感していました。これは1番知りたかったことです。
また、マーケとして営業にリードを渡していた側なので、どのようなリードだと良いのかということを自分の手足で知る手がかりを探したいというのもありました。

② リードタイムが長くなってしまう原因を探す
緊急度の高いもの(なぜ今このタイミングでやるべきかが明確になっているもの)というのは割と少なく、プロジェクトの期限が決まっていないので受注までズルズルと延期してリードタイムが長くなってしまうという課題がありました。しかし、商材的にリードタイムは長いものなんだ、仕方ないと認識だけして、どのタイミングでどういう理由で進まなくなるのか、といったところを突き詰めきれていなかったので、本当はもっと短縮できるのかもしれないという仮説がありました。

③ セールス業務の何が大変なのかを把握し、体系化できる部分があれば仕組み化する
セールスのみんなが大変そうというイメージが強かったものの何故大変なのかというのが十分に分かっていなかったので助けようにも助けられなかったという過去の背景があります。
また、私がお客さんの課題を吸い上げきれなかったのには、上手く組織内での情報共有ができていなかったからだと考えており、そのお客さんの声をどうやって蓄積する仕組みを作るか、という部分を考えて作りたいというのが大きかったです。(この蓄積する仕組みはまだまだ模索中です。)

ということで、上記を踏まえつつ、今回、実際にAIビジネスのセールスをやって体感した3つの大変さマーケターがセールスをして良かったことを順に書いていこうと思います。

AIビジネスのセールスをやって体感した3つの大変さ

■ 契約までに随所に止まるポイントがある(②, ③)
リードタイムが長くなってしまう理由、これです。
まず、営業をする際に、以下のような流れで進んでいくのですが、
それぞれで止まってしまうポイントがあります。

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サンプルデータ受領

AIビジネスでは、実際に実現可能なのかという検討を行う際に、基本的にデータの確認は必須です。しかし、NDAを結んだのち、データは郵送で送られてくることもあり、受け取るだけで1週間すぎるなんてことは当たり前です。(むしろデータが事前にあるだけ全然良く、いただけるだけありがたい。)事前にデータがない場合には、撮影するところからスタートするため1ヶ月以上要することもあります。

そもそもデータを外に出すということに抵抗を感じる人は少なくなく、サンプルデータを送付して見てもらおうという気持ちになっていただくために営業が密にコンタクトをとり、お客さんとの関係を構築するというのは非常に重要ですが、期間面では、この期間を見据えてアプローチをかけるほかなく、どちらかというと少量のデータでも取り組めるような手法を使えるようにするなど営業的改善というより技術的改善で短縮するくらいで、必要な期間だと感じました。

提案

本当に技術的に実現可能なのかというのを社内のエンジニアやPMと相談しながら進めつつ、お客さんは何を成果として求めているのかなどを何度もすり合わせながら提案を進めていきます。
しかし、ヒアリングが甘いとお客さんが何を課題として持っており、現状はどのような工数でどんなフローで行っているのかを把握できず、技術的に可能かどうかすらエンジニアと議論できません。そもそもAIの特徴として精度をこの程度出せますと断定できないということもあり、期待値の調整なども大変です。ただ、この期間は、やり方次第でもっと短縮できる領域であると感じました。

(他に提案が大変な事項としては、自らモデルを作成したり、他のベンダーと取り組んだりして既存のモデルがあるのでFPGAなど特定のデバイスに圧縮してコンバートだけしてほしいという要望が多くありますが、学習の段階でモデルの圧縮などを行わなければ、我々の手法の場合、精度を維持できないため難しいのですが、もう一度モデルを作りましょうという方向には予算の関係などで取り組みが進められないなどの問題など弊社独自の問題により提案のハードルが上がることもあります... )

価格合意/稟議

価格を協議する前に先方の社内決裁を行っていただくのにかなりの時間を要します。割と単価の高い商材であればどこの営業も同じだと思いますが、担当者レベルで決断できることはほとんどありません。確実に上に社内稟議を上げる必要がでてきます。ただ、この担当者と決裁者でAIへのリテラシーの差が大きい、そもそも社内決裁を進めるフローが多くてどうしても時間を要してしまうなど様々な要因で最低でも2週間近くはかかってしまいます。
ここも、この期間を見据えてアプローチをかけるしかないとは思いますが、どんな資料があるとより早く進められるかなどを一緒に考えることが大事だと思いました。

契約内容交渉

契約書の内容を確認し、著作権などの知財が絡んできます。何を納品して、どこまでを著作権付与し、利用権までに留めるのか、を社内で検討したのち、お客さんとすり合わせ、社内外の法務の方々と先方の担当者と相談しながら慎重に進める必要があります。ここは、お互いが納得感をもって進められるようにすり合わせるための資料や契約書のテンプレートを作るなどして改善中ですが、どうしてもSIerのビジネスと違ってすべてを納品するということはできないという前提の共有をしなければいけない大変さがあります。

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AI・データの利用に関する契約ガイドラインよりhttps://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001.html

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事業会社に向けた AIベンチャーとの共同開発に関する手引きよりhttps://www.nedo.go.jp/content/100891671.pdf

以上の流れを読むとわかると思うのですが、社内の法務やエンジニア、PMはもちろん、先方の法務や決裁者、現場の方など多くの方々と連携し、巻き込んで動かしていく必要があり、あらゆる段階で契約までの時間が伸びてしまうのを防ぎつつ、お客さんが実行したい内容とスケジュール感に落としていかなければならず、非常に難しい部分かつケースバイケースなものが多く、そもそもセールス業務の流れを把握したり、業務内容に慣れるのに精一杯でした。

また、最初考えていたリードタイムが長くなってしまう原因を探すというのは把握できましたが、具体的な改善案に落し込むこととなぜ早く取り組まねばならないのかという部分を提示するのは難しく、諸々の契約手続きを早めるのもこちらで改善できる領域外のことが多く大変だと感じました。(なのでどの案件に注力するのかなどリードタイムを含めた上での営業戦略を作るという方向性になるのが必然と思います。)

■ 実運用を見据えて考えれば考えるほどAI以外の部分で考えないといけないことが多い(③)
技術面でいうと、データ収集の際に、どのようなカメラで撮影するのか、どういう環境/画角/解像度で撮影するか、どのようなシチュエーションを含むようにするか、照明はどうするか、そもそも業務フローや既存のシステムとつなぎ込むためにシステム設計はどうすれば良いのか、運用の際にはどのようなアプリケーションやGUIで動かすのか、などなどAI以外の部分を検討しなければいけません。

このあたりは自社ですべてカバーできるといいかもしれませんが、カメラに強い会社さんとパートナーを組むなどパートナーの拡充への動きや過去の案件のナレッジの蓄積/共有ができる仕組みを整えるなどが必要となってきます。(ただ、全部セールスがやるのは大変)他にも、もしPoCの後、実際に製品に組込み量産しますとなった際に、ライセンスの形態はどうするのか、なども個別に考え交渉する必要があります。

■ ビジネス面と技術面の両観点で複合的に考え、お客さんと対話する必要がある
お客さんがやりたいことと成果として求めていることを確実に吸い上げる必要やお客さん自身の課題がぼんやりしている場合には明確化し、ビジョンを描くお手伝いをする必要があります。

時には同時に技術的可能性を考えながらその場でいくつかどう解決するかの候補を出すみたいなことも要求されます。そしてお客さんの課題をどう解決するかを技術的に可能であるという見通し以外に、「いつまでに何をお客さんは成果として期待しているのか」、「それは誰がどう評価するのか」、「それは実際のフローに組み込んで運用可能なのか」を理解できなければ、後々お互いが不幸になってしまいます。(実運用時の目標の前に、社内で企画を通すためのデモを作成するなどいくつかのマイルストーンがある場合が多いですが、どの時点でどのようなアウトプットが要求されているのかを時間軸とともに理解しなければならない場合は多いです。)

AIビジネスでは、契約までに実用化に向けた技術的実現可能性の検討だけでなく、ビジネスインパクトから知財からまで考えるべき事項も多いですが、そのためにはお客さんと何度も対話をしてすり合わせなければいけないということを実感しました。私は最初、自分で提案書を作るのに精一杯でなかなかお客さんと連絡を取る時間を持てずにいましたが、段々Web会議の回数を増やしたりできるようになってきたと思います。

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要するに、単純に物を売るというよりコンサルティングに近いと思いますが、技術的視点とビジネス的視点を持ち合わせて、お客さんの課題を吸い上げ、業務フローなど全体を俯瞰しながらビジネスインパクトを検討しつつ、技術的可能性を推し量り、著作権などの知財も考えて提案し、社内外の多くの人を巻き込み、キーマンを抑える必要があるという難易度の高い仕事だと思います。
新たなプロジェクトを作り成功させ、実用化を推し進めるというのは、セールス特有の非常にやりがいのある仕事であり、大変な分、お客さんと直接関われるので社会に貢献している実感の持てる仕事だと思います。

(ちなみに上記は、業務上大変だったことをつらつら書きましたが、何よりも大変だったことは自分が典型的なコミュ障という人前で何かを話すこと自体に苦手意識を持っていたことです。これは3~4ヶ月では克服できなかったので、これからも課題だと思います。もっと場数を踏まなければということともっとなぜ苦手なのか解像度を上げる作業をやる必要があります。)

おまけ:マーケターがセールスをやってよかったこと

- お客さんのリアルな声を聞ける
- 新たな施策を実行に移しやすくなる
- セールス業務への理解による尊敬とお互いの信頼関係の構築ができる

緊急度の高い課題を持ったお客さんのリアルの声を聞くことで、こんな課題を持っていたのか、世の中ではこんな工程が業務内に存在しているのか、などを認知することができました。一方で、目の前のお客さんに手一杯になってしまい市場感全体を掴むというのは難しく局所的な認知となってしまう(本来そういう役割だと思うので悲観していないです。)ので、セールスのみでもいけないですが、マーケとセールスをかけ合わせればより良い施策や改善策を考えることが出来そうだという感触がありました。

また、セールスの業務フローの全容が大体わかり、どのような資料が事前にテンプレとして存在していれば良さそうなのかなど自分が助けられそうな部分が多く見えたことや、セールスの皆さんへの尊敬度というかこの部分でこの人はすごいなど良い面がたくさん見つけられて仕事がしやすくなったことはとても良かったです。(新たな施策を提案するときに根拠をその役割の人の立場になって言えることはとても重要だと思っているのもあり。)

最後に

- AIビジネスのセールスは営業というよりコンサルに近く色々大変なことは多いけれども新たな市場をつくってビジネスにしていくという過程は面白く、やりがいがあるということ
- マーケターは、お客さんをもっと知る・セールスのことをもっと知る(お互いに信頼関係を築く)には、実際にセールスをやってみるのはおすすめということ
が伝わったんではないかなと思います。
当初から何もわからずてんやわんやしていた自分ですが、@yuki_mimuさんにとてもお世話になったのでここで感謝します。ありがとうございます。

私は、お客さんの声を拾うために営業に同行したり、既存のお客さんのフォローしたりなどなどは引き続きやっていきますが、また、違う役割でお客さんのヒアリングに行っていたりしてそれはそれで面白いことがあるので、また外に出せそうなタイミングになったら書こうかと思います。

少しでもこの記事でAI業界のビジネス側に興味を持ってくれる方がいたら嬉しいです。

では!おわり!

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