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高規格道路の支柱だけが建つ愛おしさ

 徳島県南部で計画されている高規格道路「牟岐バイパス」は、南海トラフ巨大地震を想定し、津波浸水区域にある現在の国道55号に依存しない新たな国道を造ろうと、2004年度に事業化され、2013年度にようやく工事に着手したが、国交省によると、2020年度末時点で事業の進捗状況は49%に留まり、私がいる牟岐町には、県立海部病院の北と南に、高規格道路の支柱がそれぞれ2本、ぽつねんとある。

 中途半端に建てられたまま放っておかれたこれらの支柱は、実はとても愛おしい人工物だ。何かを訴えかけているようにも感じる。実際に見てもらいたい。

休耕地に建設された高規格道路の支柱=牟岐町中村

 夕方、日が完全に暮れる間際に撮影した写真だ。建設時期は不明だが、コンクリート壁に滲み出る黒い汚れは、長い時間の経過を窺わせる。
 何もない静かな空間に現れた巨大な人工物。宇宙から飛来した隕石のようでもあり、畑を守る番人のようでもあり、異様だが、好感が持てる風景だ。支柱があることで、空間が全体的に引き締まっている。支柱がなければ、田舎の寂しい風景に過ぎないだろうが。

道路脇に建設された高規格道路の支柱=牟岐町中村

 続いての写真は、海部病院へと向かう道の脇に建つ支柱だ。1枚目の写真を撮るのに夢中で、すっかり日が暮れてしまったが、まだかすかに明るい空に支柱の影が浮かんで、くっきりとその輪郭が現れている。
 やはりこの写真も、支柱がなければ、どこにでもある自然の風景に過ぎないが、支柱が存在することによって、不気味さが加わる。
 支柱の説明をする前に見てもおもしろいかもしれない。中央に浮かぶ影の印象が違ってくるかもしれない。角張っていて、自然のものではないとわかるが、家でもないだろうし、いったい何だろう、というふうに。

 高規格道路の支柱は、牟岐町以外にもある。支柱によって、語りかけてくるものが異なるので、様々な顔を撮影しに近々出かけてみようと思う。

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