見出し画像

【エッセイ】#23 読書中毒者のその後

 私は読書が好きだ。
 とはいっても、読書をはじめたのは、ここ7年ほどのことだ。

 それまでの人生においては、ほとんど本は読んでこなかった。仕事に必要な文献、専門書などは読んできた(読むというより字引程度に流し読みだが)が、小説やエッセイなどを読み漁るようになったのは、いい年のおっさんになってからだ。

 読書をはじめたきっかけだって、読書家から見ればひどいものだった。
 当時、ギャンブルを辞めようと思い立ったものの「では、暇な時間や、家にいて何をするか?」が大きな問題だった。しかも、これまでのギャンブルに多くお金を費やしてきたので、手元に残ったのはいくばくかの現金。
 こんな状態で時間を潰すのはYoutubeくらいしかなかった。

 そんなただの時間つぶしで見始めたYoutubeでビジネス系インフルエンサーを見つけた。
 サラタメさんだ。
 彼はブラック企業に勤めていたが、転職してホワイト企業に勤めることに成功し、さらにはYoutubeで発信をしているという。「ブラック企業から転職~」という、フレーズに惹かれ、彼の番組を視聴していった。彼の番組のほとんどは、本の要約。軽快な語り口で本の概要を話していく姿に少しの興味を当時の私はもった。
 
「じゃあ、ちょっと本でも読んでみるか」
 そんな軽い気持ちから、本を読もうと思った。だが、現実はそんなに甘くはない。本はギャンブルと比べれば安価ではあるが、一冊約1,500円。ギャンブルで明日の仕事中の昼食さえもどうしようかと悩んでいる私には悩ましかった。
 そんなとき、妻がいう。

「え、某古本屋チェーン店で買えばいいんじゃない?」
 寝耳に水である。
 確かに失念していた。某古本屋チェーンといえば、名は知っていたが、そこで本を買うことは私にはなかった。ゲームやCDを購入するイメージしかなかった。
 早速に最寄りの古本屋チェーン店に向かう。店内に入ると、そこは天井近くまでの本棚にびっしりと詰め込まれる、本、本、本。本の津波が押し寄せるとはこのことではないかと思うほどの圧力に私はその一歩を踏み出すことに躊躇していた。

 そんな中、見つけてしまう。100円で販売されている本を。
 なんということか。本がたったの100円で売られているのだ。
 表面が若干、変色しているところを除けば、小説、エッセイ、文学書、自伝、スポーツ、歴史、新書などなど、どんなジャンルの本も100円なのだ。つまり、本一冊を15分の1の価格で手に入れることができるのだ。某古本屋チェーンよ。こんなにも幸せな空間を提供してくれてありがとう。
 
 早速に5冊ほど、興味惹かれる手ごろな本を購入。小脇に本を抱えて急ぐ自宅までの道が、まるで中学2年生の頃に「あの本」を道端で見つけ、隠しながら自宅へ向かうようであった。

 自宅に帰り寝室にダイブする。休日の昼間、妻はリビングでスコーンをコーヒーで流し込みながらお気に入りのYoutubeを見ている。わざわざ妻の自由な時間を阻害する必要もないので、私だけの初の読書時間を楽しみたかった。

 まずはベタに小説っと、一冊を取り出す。これがいけなかった。いや。はじまりだった。
 よく「違法薬物やめますか? それとも人間やめますか?」というフレーズがあるが、今から読書をはじめる人に私はいいたい。「読書はじめますか? それとも薄い人生おくりますか?」と。
 
 それほどに私は、人生を読書に変えられてしまった。いや。読書によって人生をある意味、浸食されてしまったので、もはやいいのか、悪いのか判断がつかない状況にまで来てしまっているのが現状ではあるが……。


 話を戻そう。
 私はこの日、購入してきた5冊の本を一日で読んでしまい、翌日にはやはり100円の本を5冊購入していたのだ。たったの一日で中毒を引き起こす読書というものは、なんとも恐ろしいモノなのだろうか。
 世の中にあふれるさまざまな麻薬やギャンブルと比較してもその中毒性に関してはトップレベルなのではないかと思う。こうして、私は翌週、翌々週の休日には某古本チェーンで10冊、15冊と100円の本を買うようになっていった。
 
 気が付けば、1年ほど経過していた。私の読書熱は冷めることなく、むしろ加速していっていた。通勤用のカバンの中には常に3冊の本が入っている。
 その日の気分によりザッピング読みをしていくのだ。通勤時は、エッセイスト、昼休みには、殺人者、家に帰るころには武士など、それらの本の登場人物に自分を重ね、その物語の中に入り込んでいる自分がいた。

 そうなることが当然のように、呼吸をするように、昔からそうであったように、私は空いた時間をすべて読書につかい、夢遊病者のように本の世界に耽っていった。
 
「ってか、本を買うのを禁止!!」
 妻からの一言だ。
 そういわれても仕方がない。むしろ当然だろう。
 毎週、20冊もの本を購入。それが、積み重なるのだ。ざっくりと計算しても35週、20冊を購入し続けると700冊。これが家の中に置かれる。

 当然既存の本棚はいっぱいになり、増設した本棚からも溢れる。さらには、寝室の床に本が所狭しと置かれるさまはまるで、ちょっとした図書館だ。

 妻から本購入禁止をいいわたされた私は、そこから再読をはじめる。だが、一度読んだ本田。再度感動したり、学びがあったりとするものの、初見に比べると読書スピードが段違いに上がってしまうのだ。
 
 そうなると、中毒者の禁断症状のように文字という、文字に渇望してくる。本当に気持ち悪いよね。本や活字に飢えて、なんでもかんでも読み漁るってもはや異常者。


 さてさて、この読書中毒者がその後、どうなっていったかは、こちらの本の中で紹介しております。

 よかったらよんでみてくださいな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?