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【俳句】ティータイム 秋から冬へ


     猫舌にココアをのせて山粧ふ    梨鱗

    
   紅葉もみじ
          
           黄葉もみじ
      
       もみじ

秋の季語ではあるけれど
木々の色づきには遅速があって
ソメイヨシノなら9月の初め、
ハナミズキも10月を待たずに紅葉する。

紅葉の足取りは、町中に立つ街路樹より
かえって山々の方が遅かったりする。
初冬のこえが聴こえそうになったころ
ようやく色づきはじめて、お?
常緑樹の山懐に点々と、明るい差し色。

一日ごとに気温の低くなる季節は
一日ごとに時間の速度が遅くなる。
それは気のせいかもしれないけれど。
あたたかな飲み物を口に含めば
体内を巡る血の速度は
いっそう速まるかもしれないのに
一口でまた一秒、時間が秒針から置いていかれる。
こういう仲間外れは、きらいじゃない。

常緑の樹が多くを占めるこの山だけど
その緑は、季節ごとにちがう。
秋の緑ともちがう色だと気づいた時から
山はとつぜん無口になる。
この大地が隆起する前にいた海の色、
そんな錆びた色をして
人間の一分一秒の向こう側にいる。
甘い味も好いけれど
ほろ苦いさが恋しくなるのは、こういう時。


      ドリップの一滴の波山眠る



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