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名前のない距離 ~ショートショート~
いつもの談笑。あほみたいな話で笑っていたのに、急に君は言った。
「いい機会やからさ、決まった人作ろうと思うねん」
へえ、と返した声は平静だったろうか。ひやり、と冷たい液体が内臓を撫でた気がした。
君と私、ふたりの関係に名前はない。だからかな。君は平然と、うん、と言い話を終わらせる。
ここで、探るように私を見てくれたらまだ救われるのに。もしかしたら、踏み込む勇気を持てるかもしれないのに。
私は黙って飲み物を啜る。
「恋人ってさ、どれくらいの頻度で会いたいもん?」
「人によるんちゃん」
「俺毎日はしんどいねんよなー。1週間に1回とかどう?」
「うん、いいんちゃう?」
だから、なぜ、私に同意を求めるのか。私の希望なんて関係ないくせに。
なんて、訊きたいけれど訊けない。この関係を壊してしまうのが怖いせいもあるし、進むのが怖いのもある。
世の中に溢れる『脈ありサイン』なんて、嘘っぱちですよ、女子のみなさん。
君は私のどうでもいいLINEに疑問文を返してくるし、いつだって距離は近い。他の誰といても何人でいても、君はまっすぐ私の目を見て話す。私の好物を覚えてプレゼントしてくれる。
でもまあそんなの、なんの意味もない行為よね。
「やっぱ彼女欲しいなー」
ここにいるよ、なんて言えないし言わない。
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短すぎるショートショート。
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