天使になった少女|ショートショート
高所恐怖症の少女がいた。少女は一軒家に住んでいたが、2階のベランダすら怖くて行くことができなかった。
ある夜、彼女の肩甲骨が疼き、次の朝には真っ白い翼が生えていた。少女は驚き慌て、母に報告した。母はため息をつき、気の毒そうに言った。
「あなたは半分天使なの。いつかいつかと思っていたけど今日だったのね」
少女は泣き、学校を休んだ。入学したばかりの高校では友達もいなかったから、誰も少女を心配したりはしなかった。
その夜のごはんは赤飯だった。
少女の翼は雲を目指したがっていた。けれど少女は高いところが怖かった。
大きな翼のせいで、少女は今まで着ていた服が着られなくなった。変わった、宗教画の天使が着ているような服を、どこからか母が持ってきて少女はそれを着た。
翼は日に日に思い切り羽ばたきたいと欲するようになった。少女は泣いて抵抗したけれども、それは本能だった。
ある満月の夜、子供部屋の窓からそれを眺めていた少女は、どうにも我慢ができなくなって、窓の桟に足をかけた。白い服の裾がひらひらと風に揺れて、少女を急かした。
少女は翼を広げて、一歩空に踏み出した。風が少女を包み込む。力強く翼を羽ばたかせ、満月の明るさが導く先へ彼女は飛んだ。小さくなっていく夜の街並みに、彼女ははじめて自由を見た。
少女が高いところを怖がったのは、いつか降りることが怖かったからだった。もう降りなくてもいい少女には、高いところを恐れる理由がなくなった。
彼女は今、雲の上で暮らしている。たまに地上にやってきて母にあれやこれやの話をして、母のあれやこれやを聞く。
そして雲の上に戻り、雲の卵を食べる。
【完】
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