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不幸だなんて誰が決めたの ~ショートショート~

「またあかんかった!」
 叫んだのは、私。26歳のいい年した大人が自宅で電話に向かって喚いているわけだ。電話の向こうにいる10年来の友人は、私の台詞に苦笑を返してきた。
「またかよ~。ほんまあほやな」
「もういやや! なんでどいつもこいつもこうなんの!」
 私はつい先日の合コンで会った男と、いわゆるイイ感じになっていたところだった。ところがそこで、ぷっつりと連絡が途切れて、今に至る。
 男にフラれて、――フラれるほどの仲にもなっていないのだけれど――、とにかく関係が駄目になってこの友人に泣きつくのは、いったい何度目なのだろう。最初は見栄とか虚栄心とかそういったものが邪魔して、駄目になったなんて人に言えなかった。ぐじぐじと言い訳を考えて、自分でも自分を騙して強がって、でも結局終わりは終わりでしかないわけで、屈折した気持ちを持て余していた。
「すぐヤるからやん?」
 電話口から笑う声がする。
「いやだってまあ、楽しいし、求められたら嬉しいやん?」
「それがあほなんやて」
 私は所謂、『すぐ寝るオンナ』。そして『すぐ寝るオンナは愛されない』、という世のスタンダードを地でいっている女だ。
「はー。結構あの人好きやったのになあ」
 笑って傷ついていない振りをするし、案外平気だったりもするのだけれど、やっぱり堪えるのは確か。だれでもいいんじゃなくて、その人だからそうしたのに、ってなるからね。うん。本当は、結構好きになりそうだった。けれどもう、本気で思い入れないようになってる私のココロ。全部が表面を撫でるような感覚しかなくて、傷なんてもうどこになるのか見えない。
 それは確かにちょっと楽だけど、ちょっと虚しい。
 その虚しさから、私はいつも目を逸らす。見ていいものか分からないから。
「こないだ結婚した友達がさー」
「うん?」
 急に話が変わっても、この友人はちゃんと付いてきてくれる。
「わたしは計画通りに結婚できたから幸せ! この歳でまだ結婚できてないし彼氏もおらんって不幸まっしぐらやん! って言うてきて」
 電話口から笑い声が響く。
「確かにさー、社会基準で言うとこの歳って結婚適齢期やからなー、って思ったりもするんやけど」
 息継ぎして珈琲を一口含む。友人は笑いの残る気配で、そのまま話を聞いてくれている。
「そんなん誰が決めてん! って思ってさ。余計なお世話じゃ! みたいな」
 再び笑い。友人はたぶん夜ごはんの準備をしているんだろう。カチャカチャと音が聞こえる。その音の合間に、笑ったまま声がした。
「そんなん言うて、でも結局悩んでるんやん」
「そうなんですよねー! 結局世の風潮とかに流されてちゃっかり流されるんですよねー! どうやったら彼氏できるんかなー!」
 友人のツッコミに本音を返して、私も笑う。
「けどまあ、悩んではいても、それが不幸やなんて誰が決めたん、って話よな」
「それ! 落ち込むけど、私たぶん不幸ではないわ。それなりに楽しいし」
 ならええんちゃう、と返す友人の声は暖かい。男から返事がなくても、1回きりの関係で終わっても、私にはこうして話のできる友人がいるわけだし、これからも私はきっと懲りずに男と会うんだろう。
 
 数年先に、私は後悔するのかもしれない。そうかもしれないけれど、もしかしたらこういう経験をしてなくても後悔するかもしれない。
 人生は、『かもしれない』ばっかりで、どうせ何してもきっと後悔するから、それならやれることやっとこうと思うわけ。そうしてたら、いつか私なりの幸せを掴めるかもしれない。それも『かもしれない』話だけど。

 不幸になるかは私次第。今の私が不幸だなんて誰が決めたの。

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こちらからお題を拝借いたしました。
【台詞で紡ぐ 10のお題】「不幸だなんて誰が決めたの」
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