やさしい人　＃やさしさにふれて

　やさしい人ね、とよく言われるけど、僕はその度に困って曖昧に笑うんだ。だって僕は、全然やさしくない人間だから。

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　小学生の頃、まあありがちだけど、僕はいじめられていた。痩せてメガネをかけていたから、っていうのがきっかけだったんだと思う。中学生になっても、一部でそれは続いた。だってほとんど同じ小学校から来てたんだもの。だから僕は息を殺して生きていた。

　変わったのは高校生になったときだ。だれも僕を知らない環境に行きたかったから、同じ中学から志願者がいない高校に出願した。合格発表を見たとき、目の前がぱっと明るくなった。僕の人生はこれからだ、と思った。

　高校デビューってやつだ。ダサいメガネなんてやめてコンタクトにした。相変わらず痩せてたけど、身長も伸びていたからなんとか恰好がついた。髪の毛のセットを覚えた。
　入学式の日にはお腹が痛くなったけれど、想定していたよりはずっと簡単だった。僕には友達ができた。

　そこで、僕は決めたんだ。嫌われないようにしよう、孤立しないようにしようって。だから、周りの人のしてることに気をつけて、みんなのしてほしいことを見つけるようにした。悩んでる人の話を聞いて、その人の欲しい言葉を探した。僕と一緒にいてよかったと思ってもらえるように、おもしろい話ができるようになった。

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　僕は、全然やさしくないよ。だってほら、自分のためだもの。
　ん？　君顔色悪いね？　寒いなら上着貸すよ、ほら。ん？僕？話してるとちょっと暑くなってきちゃったんだ。ほら、これ着てよ、おねがい。