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【対談】vol.3 過剰な責任感を脱いだら、やるべきことがわかった。変わる学校現場の最前線

みなさん、こんにちは。LX DESIGN公式note担当者 小島と申します。
LX DESIGN代表取締役の金谷が、「少し先の教育業界を創る」をテーマに様々な方と対談する、この企画。今回は、埼玉県戸田市立美女木小学校の教頭を務める、勝俣武俊先生との対談です。

埼玉県戸田市は、プロジェクト型学習の推進や、産官学民との連携による最先端の学びの導入など、先進的な教育改革で話題を集めている地域でもあります。そんな中、美女木小学校ではたびたび『複業先生』をご利用いただき、外部人材を活用したユニークな取り組みを行なってきました。学校現場の最前線で今、何が起きているのか? 学校という場に新しい風を取り入れる秘訣は? 二人が語ります。

「板書をひたすらノートに書き取るのは変」が普通?

――そもそもお二人は、どんな経緯でお知り合いになったのですか?

勝俣:3年くらい前でしょうか。教育業界の人たちが集まるワークショップがあって、その参加者同士として出会いました。初対面の印象は…なんか軽いなって(笑)。私は知り合いもいない中、緊張していたんですけれど、智くん(金谷)は気軽に話しかけてくれたよね。

金谷:僕も初対面の人ばかりで不安でしたよ。でも、ワークショップのような「仕事以外の非日常」で生まれる縁って貴重だなと思うんです。対等な関係を築けますよね。だから、「素敵だな」と思う人にはちゃんと声をかけようと思って。武ちゃん(勝俣先生)に遠慮なく話しかけたね。

勝俣:そのワークショップの中で、すでに金谷さんは「社会と学校を繋げたい」と、学校における外部人材の活用の可能性を話していました。ワークショップ後、事あるごとにメッセンジャーで連絡があって「こういうアイデアはどう思う?」って意見を聞かれたんですよ。一方的に連絡がきて。不定期のやりとりが続いたあと、『複業先生』のサービスが本格的に始まったと聞いて「これはとてもいいサービスだな」と。今回、学校が求めるタイミングとも合致したので、私のほうから金谷さんに「やろう!」と声をかけました。

――なぜ『複業先生』を、美女木小学校に活用したいと思ったのですか?

勝俣:教員だけで学びのすべてを提供することに、年々限界を感じていたからです。埼玉県戸田市は、子どもたちが主体的に課題解決に取り組むために、PBL(※)を取り入れた授業づくりを推進しています。課題解決型の学習において、メンターの力は絶大です。たとえば子どもたちが何かアイデアを言ったとき、教員だけだと「そのアイデアはいいね!」と応援することはできても、具体的なサポートには限界があります。しかし、その場にエンジニアの方がいれば「そのアイデア、アプリで実現できるよ。じゃあ今、つくってみよう」なんて会話が生まれる。子どもたちも「えっ、本当にできるの?」と前のめりになりますよね。子どもだけでなく教員たちも含めて、「できないかも」といった固定概念が簡単に崩れていく。

学校と社会って、想像以上にかけ離れているんです。授業スタイルひとつとっても、板書をノートに書き取る形式がいまだに続いている。でも、例えば民間企業の人がその場を訪れたら「いちいち手で書き取る作業は無駄では?」と不思議に思うのが自然です。「そうか、社会の感覚だと普通にそうだよな。何か改善できないだろうか」と先生たちが違和感なく気づけるのも、総合的な学習(探究)やPBLに外部のメンターを招く利点だと考えました。

※PBL:Project Based Learning。児童が自ら課題を発見し、解決策を考える過程で様々な知識を習得していくことを目指す学習法。

企業の社長から褒められて、児童たちの表情が変わった

――最初は、教職員向けのICT研修で『複業先生』とのコラボレーションを実施されたとか。

勝俣:はい。プロのクリエイター10名に来ていただき、グラフィックデザインツール「Canva」について教職員が学ぶワークショップを実施しました。その後は、生徒向けの授業でもたびたび『複業先生』を活用しています。小学校5年生のPBLスタイルの授業でも、『複業先生』を通じて外部の方にお力添えをいただきました。

――実施してみて、どんなことが印象に残りましたか?

勝俣:2つあります。1つは教員研修での、教員たちのリアクションや表情。みんな「新しいことを学ぶのは楽しい!」といった表情をしていました。学校の外の人から学ぶという体験は新鮮で、教員同士で研修をし合うのとは異なる刺激があったのだと思います。教員みんなが年齢・立場関係なく「学習者」の立場となって、学ぶことを純粋に楽しんでいました。

もう1つは、子どもたちのプレゼン発表会に、智くんや、複業先生として授業にご協力くださった会社の方たちに来ていただいたこと。みなさんに褒めてもらったとき、子どもたちが本当に嬉しそうな顔をしたんです。私たち教員も、もちろん褒めてるんですよ。でも企業の社長さんに「いいね!」と言われると、全然違う表情をする。教員以外の人に認めてもらう経験が、子どもたちにどれほど影響を与えるのかを目の当たりにしました。

金谷:発表しているとき、子どもたちも先生方も、みんなドキドキしている様子が印象的でした。外部の人たちと一緒に学び合うことを、新鮮に感じてくれているのが嬉しかった。“手触り感”をもって「力になれている」と思えた経験でした。

さきほど武ちゃん(勝俣先生)が話していた、教職員研修で先生方が学ぶことを純粋に楽しんでいたという話。毎日忙しい学校の先生たちにとって、研修は義務になりがちで、楽しそうに学んでいる方たちって実はあんまり多くないと思うんですよ。美女木小学校には、新しいことを面白がる余裕と言いますか、外のものを受け入れられる土壌のようなものがあったのではないでしょうか。校長先生や教頭である武ちゃんが、そうした環境をつくってきたんでしょうね。現場の先生方が、教職員研修を通じて僕らのことを知ってくださり、受け入れてくださったから、子ども向けの授業でもうまくいった。事前に「なめらかな人間関係」を築いていたことも、成功した要因だと思います。

「自分が変えてやる」のエゴイズムに気づいたとき

――最近はニュース等で、学校における外部人材活用のテーマがよく取り上げられています。外部人材を活用することについて、率直にどう思いますか?また、一言で外部人材活用といっても、部活や課外活動などいろいろな場面がありますよね。

勝俣:いいことだと思います。みなさん、困っていないんですかね?今、学校で外部人材を求めているのは、大きくわけると2つの背景があります。1つは「教員の働き方改革」。もう1つは「授業の質の向上」。よく話題になるのは部活の地域移行など、教員の働き方改革の文脈ですよね。地域移行や外部指導者を取り入れるための制度やしくみが整うことに、デメリットはないと思っています。どんどんやってほしい。一方、現場で指導をする私にとっては、授業の質の向上についても切実な問題です。社会全体で子どもを取り巻く教育、そして授業そのものをアップデートしていかないと、もう変化に追いつけないと思う。

――なかなか外部人材が活用できない学校もあると聞きます。

金谷:これはもう両極端で。外部人材の活用には、その学校を取り巻くカルチャーが如実に出るなと感じます。地域の人たちが学校に関わってきたのか。リーダーの立場の教員が、若手の教員とどう向き合っているのか。

僕らは、「自分たちが提供するコンテンツや体験を、いかに先生方が活用しやすい形で届けられるか」と日々奮闘していますが、正直言って僕らにはどうしようもできない要因で、外部人材を受け入れられない学校もある。そもそも「外部人材と一緒に何かやりたい」とは思えない先生方がいたり、日々直面されている課題と「外部人材の活用」がなかなか結びつかなかったり。

――「課題解決型の授業でこんな困りごとがあるから、こんな企業の人たちにメンターとして来てもらいたい」のように、具体的なケースと外部人材の活用が繋がればいいが、そこが結びつかないケースも多いということですか。

金谷:そうですね。あと学校の先生ってやっぱり責任感が強くて、真面目な方が多いんですよ。もちろん元教員の僕も含めてね。…今、若干スベりましたけども(笑)こんなふうに冗談を言ってスベることが許されない雰囲気のところもあって。
だから「できない」「困っている」「うまくいっていない」と、そもそも言えない人たちがいる。言うことが許されない。万が一学級がうまくいかなかったら担任の先生のせい、と言われる環境で、「困っている」と簡単に言えないのはよくわかります。でも「担任の先生のせいじゃない、みんなで支え合うんだ」と、誰かが公明正大に言わなきゃいけないと思っています。自分が背負わなきゃ、自分でなんとかしなきゃと思う人が少しでも減れば、もう少し「困っているので助けて」と言いやすくなるんじゃないかな。

勝俣:そうなんだよね。今の話を聞いていて、自分の心に深く残っている言葉を思い出しました。私、数年前までは「自分の力で人を変えよう」と頑張っていたんです。学校を変えよう、先生たちを、子どもたちを変えようと。それだけ自信を持って、必死でやっていたとも言えるのかもしれませんが。何なら「子どもたちの才能を、俺が引き出してやる」なんて思っていた。今思えば、エゴイスティックな考え方ですよね。

そんな時に出会った農学博士(農業昆虫学)の瀬戸昌宣さんが、教育について「ひとが育つ環境を整える」とおっしゃったんです。その言葉を聞いて、自分の中で考えが180度変わりました。言葉が心にすーっと沁み渡った。まるで二日酔いの日に飲む味噌汁のように(笑)。私は生き方を間違えていたなと。誰だって他人に「変えられる」のは嫌です。その人が心地よく育つ環境を整える、これが自分のやるべきことなんだと思いました。教員だけでは足りない部分に『複業先生』を導入するのも、今、教頭としてさまざまな取り組みをしているのも、私にとっては人が心地よく育つ環境を整えることなんです。

金谷:身につまされるような話です。僕も半年くらい前までは「僕がすばらしい経営者であるから、すばらしい顧客体験をつくれるはずだ」と思っていた。でも全然違いました。恥ずかしい。うまくいかないプロジェクトがあって落ち込んでいたとき、LXのメンバーたちからもらった縁で道が開けたんです。そして今「自分がすごい」「自分がなんとかしなきゃ」と思っていたときには聞き入れられなかった言葉を、素直な気持ちで聞くことができるようになった。耳のシャッターを開けてもらったんですね。

新たな風は「外部講師の発注」ひとつで吹き始める

――本当は「困っている」と言いたいのに、立場上言えない先生方もいらっしゃいますか。

勝俣:いると思います。私は恵まれていて、外部人材の活用も含めて「やりたい」と言えば、挑戦させてもらえる機会をいただきました。でも、他の学校では管理職に止められたといった話も聞きます。これまでやったことがない、先が見えないから不安ということなんでしょうかね。もちろん、私には見えないけれど校長の立場になると見えてくるリスクはあるのだろうと思うのですが。

金谷:『複業先生』を導入してくださった学校で、学級担任の先生に「講師を選んで発注してください」と言うと「私が選んでいいんですか?」と戸惑われる方がいるんですよ。もう“儀式”と呼べるくらい、よく見かけるんですけど。自分の責任で、これまでのフレームの“外”のことをやるのって緊張しますよね。もし子どもたちが喜ばなかったらどうしよう? 40人いる自分のクラスの子どもたちが、みんな笑顔になるかな?って。それでも、決めて発注する。出前授業の講師を選ぶ、くらいの小さな意思決定を積み重ねながら、徐々に「こういう新しいことをやりたい」と自ら発する人たちが増えていくのではないかと思います。

――今後の外部人材活用の可能性や、LX DESIGNに期待することをお聞かせください。

勝俣:私たちの学校では『複業先生』を通じて、さまざまな機会をいただきました。自分の人脈だけでは出会えない人との縁もいただけた。他の学校の先生たちも、どんどんLX DESIGNさんとつながってほしい。そしてLX DESIGNさんには先生方や学校が変わっていくきっかけをつくってほしいなと思います。もう変化していかないと、学校も先生も苦しいですよ。LX DESIGNさんには、変化に挑戦する先生たちを後押ししてほしいです。

金谷:ありがとうございます。思いを抱えながらも、これまでの環境では新しいことに挑戦できなかった先生方もいると思います。そんな先生たちが、その地域に住む人、今はその地域にいない人、日本だけではなく世界のさまざまな人たちと繋がる機会をつくりたい。そして学校の外の人たちにとっても、自分の思いや好きなことを通じて、教育に携わっていくことのできる世界にしたいです。

取材・文/塚田智恵美

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