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【快挙】「チバニアン」は何が凄い?「地球の磁場が逆転する」驚異の現象がこの地層を有名にした:『地磁気逆転と「チバニアン」』(菅沼悠介)

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一躍その名が知られるようになった「チバニアン」は一体何が凄いのか

「チバニアン」とは何か

2020年1月17日に「チバニアン」という名称がニュースで大々的に報じられた。それが何なのかよく分からないという人も、千葉県にある岩肌の映像と、そこに人々が集まる様子を覚えているのではないかと思う。なんだかよく分からないが、千葉県のあの岩壁に「チバニアン」という名前がついて有名になったらしい、というぐらいの認識の人も多いかもしれない。

本書は、そんな「チバニアン」が何なのかを説明する1冊であり、その説明の過程で「地磁気逆転」という想像を絶する現象を紹介することになる。

さて、まず「チバニアン」に関する基本的な情報を整理しておこう。これは、約77万年前から約13万年前までの地質年代を示す正式名称だ。地質年代というのは、地球の歴史上における時代の区分のようなもので、「白亜紀」「ジュラ紀」「三畳紀」などは有名だろう。そして、それぞれの地質年代の特徴を最も示す地球上の場所を1つ選び「模式地」として認定するというルールがある。

そして、約77万年前から約13万年前までの地質年代の特徴を最も色濃く反映する地層として千葉県の岩壁が選ばれ、「千葉県」に由来する「チバニアン」という地層年代が誕生した、というわけだ。日本由来の地質年代の名称は初めてであり、また、地質年代の名前の多くが地中海沿岸地域に由来していることもあり(つまり「模式地」が地中海沿岸地域から選ばれているということ)、世界的に見ても快挙だと言っていい。

では「チバニアン」にはどんな特徴が記録されているのだろうか。それが、先ほど名前を出した「地磁気逆転」である。実は候補地としてイタリアの地層も挙がっていたのだが、それを押しのけて千葉の岩壁が選ばれたのは、「一番最近起こった地磁気逆転の証拠が刻まれている」という点が最も大きいのだ。

そのような繋がりから本書では、「地磁気逆転とは何か?」について詳しく書かれていく。

「地磁気逆転」とはどんな現象か?

本書の著者は、最終的には「チバニアンの申請タスクチーム」に所属することになるが、元々は「古地磁気学」の専門家だった。地磁気逆転も扱う古地磁気学の研究を行う中で千葉の地層にたどり着き、それがきっかけでチバニアンとも関わることになるのである。

では「地磁気逆転」とは何だろうか?

まず「地磁気」の説明から始めよう。我々が現在の地球で方位磁石を使うと、「N極」が「北」を指す。当たり前だろう。これは、地球全体が大きな磁石のようなものだからだ。北極の近くに地球のS極があるからこそ、磁石のN極が北を向くというわけである。

このように、地球を「大きな磁石」と捉えた時、その磁場のことを「地磁気」と呼ぶ。

これを理解すれば、「地磁気逆転」はその言葉通りの意味でる。つまり「地球の磁気が逆転する」ということだ。もし今「地磁気逆転」が起これば、北極の近くがN極になるので、方位磁石を使った場合には「N極」が「南」を指すことになる。

この「地磁気逆転」は、地球上で何度も起こったことが分かっている。少なくとも過去250万年間に11回は発生しているという。そして、その直近の「地磁気逆転」の記録が「チバニアン」に残っている、というわけだ。

地磁気逆転は未だに謎の現象だそうで、本書には、

現代のスーパーコンピューターを使っても、地球ダイナモの完全な再現は成し遂げられていません。そのため、いまだに地磁気逆転のメカニズムの詳細は謎に包まれています

と書かれている。だからこそ、「地磁気逆転」という現象が過去に地球に起こったという主張は、なかなか受け入れられなかった。本書では、その歴史を丁寧に掘り起こしていく。

「地磁気逆転」は科学の世界でなかなか認められなかった

本書では、「地磁気逆転が認められるまでの歴史」を、なんと「磁石の発見」から始める。地磁気逆転に直接関わらない面白いエピソードも様々に描かれるのだが、その辺りの話は是非本書で読んでほしい。それから「ダイナモ理論」と呼ばれる、地球内部で何が起こっているのかを記述する理論体系が生み出される過程が描かれる。しかし、ダイナモ理論だけでは地磁気逆転には辿り着けない。

一方、それとはまた別に、「古地磁気」と呼ばれる研究対象についても触れられる。先ほど「地磁気」について説明したが、地層や岩盤に刻まれている「過去の地球の磁場の状態」を「古地磁気」と呼ぶ。

松山基範は、この古地磁気の先駆者として知られる人物だ。先ほどから「チバニアンには一番最近の地磁気逆転の記録が残っている」と書いてきたが、その「一番最近の地磁気逆転」につけられた名前が「松山―ブルン境界」であり、松山基範の名前が使われている。

松山は、様々な溶岩の残留磁化を測定する研究を行っていた。そして、「その溶岩が存在した年代」と「その溶岩の残留磁化」を比較することで、「過去に何度も地磁気逆転が起こっている」という事実に気づく。しかしこの考え方は、当時なかなか受け入れられなかった。地球の地磁気が逆転するなど、あり得ない現象だと思われていたのだ。しかし、科学者で文筆家としても知られている寺田寅彦がその研究に関心を持つ。そして寺田寅彦に勧められて論文を投稿することになったというわけだ。

この松山の論文は、「地球の地磁気の極性が時代ごとに変化していること」を最初に報告した論文として、今では科学史上のマイルストーンとして評価されている。しかしやはり、松山の研究に注目が集まるのには時間が掛かったそうである。

さて、「松山―ブルン境界」のブルンの方も紹介しよう。こちらも人名である。松山は「過去に”何度も”地磁気逆転が起こったこと」を最初に示した人物だが、このブルンこそが、「地磁気逆転という現象がかつて地球で起こったことがある」と最初に提唱した人物なのである。

彼らが主張した「地磁気逆転」という現象がなかなか受け入れられなかった背景には、磁気や磁性に関する詳しい知見が欠けていたからという理由もあるのだが、やはり、あまりにも斬新な主張だったことが大きいだろう。確かに、普通の磁石のS極とN極が勝手に入れ替わることなどない。地球が「大きな磁石」だとしたら、そんな現象がどうして起こるのか、認めがたいと感じるのは当然だろうと思う。

「地磁気逆転」が認められた2つのきっかけ

地磁気逆転が受け入れられるようになったのには、2つの理由がある。それには「大陸移動説」と「海底の地磁気」が関係している。

「大陸移動説」の話からしていこう。

ウェゲナーが主張した「大陸移動説」についてはご存知の方も多いだろう。かつては大陸が現在とは違う配置にあり、それが長い時間を掛けて移動したことで現在のようになった、というものだ。ウェゲナーのこの主張はあまりにも大胆で、その斬新さ故になかなか認められなかった。

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