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韃靼人の奢り


パリ生活の2ヵ月め。


私は フィレンツェの
フランス文化会館経由で申し込んだ
語学学校のホームステイ先を出て


オペラ座近くの日本食店にあった掲示板の
広告アノンスで見つけた部屋に引っ越し、


モンマルトルのうしろの
Lamarck-Caulaincourtラマルク・クランクール
(↑メトロの駅の名前。18区)
というところに住んでいた。


(関係ないですが、私がパリに住んでいた当時は
この言葉のスペルのどこかに
「œ」か「æ」の文字を使っていたと思うのですが
いま調べても出てこない…   なんで?)


午前中の語学学校以外はすべて自由時間 
という、夢のような生活。


街歩きは大好き♪


毎日、暗くなるまで 
パリのいろいろなところを歩き回った。


ある日 土曜日で学校はないから
家でのんびりと朝を過ごし、
お昼近くに家を出た。


学校へ行くときはメトロでまっすぐ向かうのだけど
休日は散歩がメインだから、メトロには乗らず
モンマルトルの丘を 歩いて登る。


私が住んでいたところからモンマルトルへは、
絵画のモチーフでも描かれている
〈コタン小径こみち〉Passage Cottin という、
細くて長い階段を上がったり、


Chansonnierシャンソニエ (シャンソンを聴かせる店)
として有名な
Au-Lapin-Agileオ・ラパン・アジル〉という店の
横の坂道を昇ったりしながら、


サクレクールの裏側は観光客も多くないので
休日らしい のどかな空気を吸いながら、
文字通り 散歩をしながら、
ちょっとした運動にもなるコースだった。


サクレ・クール寺院の前に出ると、
パリの街が一望できる。


お天気の日はまた格別だけど、
その日は パリに一番似合う
グレー色の曇り空。


こんなに曇り空の似合う街って他にあるのかな。


フィレンツェの
青い空に映えるオレンジ色の屋根とは対照的だけど
住んでいる人に聞いたら 
パリは1年のうち、60%くらいは曇り空だ 
と言っていたので(当時の気候)


パリの屋根の色に
あのブルーグレイを選んだフランス人のセンスは
さすがだな と思う。


初めて 曇りの日に散歩に出て
灰色の空にきれいに映える 
白い壁と、青鈍色あおにびいろの屋根の
パリの街並みの美しさを見た時は
「わぁ… 空の色と調和してる」
と思ったし


モンマルトルの建物が肩を寄せ合うように並ぶ
どこか可愛らしさを感じる路地裏の風景には
「あ ユトリロだ」
という言葉が、心に浮かんだ。


ユトリロって、見えてるものを
そのまま描いてたんだな って
すぐに実感できた。


街なかで 大好きな
荻須高徳おぎすたかのりの絵を思い起こさせるような色彩にも
よく出会った。


今日の空は グレーというよりも 
ダークグレイに近いから
もしかしたら、あとでひと雨来るかな? と
バッグの中の折りたたみ傘を
何となく手でさわる。


景色に気を取られて転ばないよう 
足元に気を付けながら、
階段を 人々の群れに交じって降りて行く途中


「雨が降るかもしれませんね」と 
後ろから 声をかけられた。


「ええ、たしかに」 
そう答えながら もう一度 
天気が心配になって、空を見上げた。


………てか、誰?


少し驚きながら (←遅(ー ー;)
振り返って見てみると、


声の主は
柔らかな色合いの灰褐色はいかっしょくの髪と
明るい色の瞳を持つ
若い男の人だった。


フランス人に見えるけど、
他の国の人にも見える。
日本にも、こういう感じの顔の人はいる
といった感じの…


敢えて例えるなら
河相我聞かあいがもんさん、だったかな?
(‘98年だったので、当時の例えで失礼します…)
あんな感じの 垂れ目気味のお顔を、
皮膚や髪の色の薄い
西洋人要素で再現したような見た目。
カール・セーガン博士のお顔にも、似ていたかも。


その人は 驚いて見ている私に向かって
明るい笑顔で
「ハロー!」 と言った。 


(ちなみに ここまでと これ以降も
この日の会話は英語in Englishでした)


「ハロー・・・」
たとえ知らない人でも 
ご挨拶は、きちんと返すのが礼儀。 
世界共通。


「フランス語を話しますか?」
「いいえ、ほとんど…語学学校に通っていますが」
「どこの国のかた?」
「日本人です」


階段をいつの間にか並んで降りながら、
何となく会話が始まっていた。


「私はタタール人です」
「は?」
Tatarタタール!」


タタール人て……


だったん人とか言う、あの、
『韃靼人の踊り』 の ダッタン人?
(突然ですが ボロディンの『Prince Igorプリンス イゴール
けっこう好きです♡)


え、あれって、
現実社会に、
現代社会にまだ、本当にいたの?


〈伝説の〉とか、
〈失われた民族〉
とかじゃないんだ!? (←無知★)
まじ!?


あーゆーりありーたたーる?
いえす、おふこーす! (何でひらがな)


思いがけない出会い&出来事に、
感動が 身体の深いところから 
ずずずずず とき上がってくる。


タタール人……
滅多に、お目にかかれないひとだ。
聞きたいことがたくさんある!


心の中で感動の嵐が吹き荒れていても、
あまり顔には出ていなかったと思う。
ぽけっ😯 と口が
半開き状態だったような気がする…
タタールという、
あまりにも意外な言葉を聞いたせいで。


おりも折、ぽつっ と雨が落ちてきた。


「やっぱり降ってきた!
マドモワゼル、良かったらあそこで話しませんか?」


モンマルトルの階段を降りきった公園の前に、
カフェがある。


私は 今日は散歩に出ただけで、
人との約束も、時間に追われた用事もない。
異論なんかあるはずもなかった。


窓に近い席に座を占めると
短く話し合い、
その人は 二人分のカフェオレを頼んでくれた。


タタール という言葉は 
今まで音楽や文学でしか、
耳にしたことがありませんでした。
タタール人のかたにお会いしたのは、生まれて初めてです!
貴方の生まれ育ったところは
いったい何処で、どんなところなんですか?


好奇心でいっぱいの私の目は、
そのとき 輝いていたかも知れない。


その人の生まれ故郷は、
アルタイ山脈のふもとだと言った。


自分達はチンギスハーンの子孫で、
タタール人であることを
とても誇りに思っているという。


「チンギスハーンの子孫だから、
フランスまでは遠路えんろはるばる、馬で来たんだよ」


本当か嘘かはわからないが、
世界は広いから、そういう人もいるかもな と
とりあえず思った。


「生まれ故郷には、自分のような顔の人(白人系)もいれば
あなた(私)のような顔をした人もいる。
あなたを見て、故郷のことを思い出して 
とても懐かしくなったので、
話がしたいと思ったんだ。」


いろいろと話をしてくれた中で
印象に残っているのは、
その人は トルコ語を聞くと
何となく意味がわかる と言っていたこと。
「習ったことはないので、自分でも不思議なんだけど」 
と言いながら。


フランス語はパリへ来てから習ったけど、
フランス人に 
フランス人と間違われるほど、
まったく外人アクセントのないフランス語を 
自分は話しているらしいんだ。面白いでしょ?
と言っていたこと。


私も問われるままに、
日本のどの町で生まれたか とか、
パリに来る前はフィレンツェにいたことなど、
自分のことを少し話した。


そういえば Non-Japaneseの若い人って、
「この街に来る前はどこにいたの?」という質問を 
よくし合っている気がする。
旅行だったり、
留学(各国間の大学で相互留学システムがある)だったりで
けっこう、あちこちの国を 
頻繁ひんぱんに行き来してる人が多いからだと思う。


その人との会話は とても楽しかったので
パリにいた間、その人とは
時々会って話をした。


アルタイ山脈の麓にあるという故郷の写真も 
見せてもらった。 
少し色がせかけた写真たちだったけれど、
木漏れ日のきれいな 
林の中のような 自然の風景が 
とても印象的だった。


でも 
なにか理由があったんだと思うけど その人は
「あなたの故郷の町は、なんていう名前なの?」とか
「パスポートはどこの国の?」といったような
国や国籍に関する質問には、


「僕はタタール人で、騎馬きば民族。 
馬で移動するから、パスポートなんかないんだよ」
と言って
話の流れから たぶん二度ほど聞いてみたと思うんだけど
はっきりとは答えてくれなかった。


理由をいま 想像してみると
もしかしたら彼の、民族としての誇りに
無遠慮に触れてしまうような質問だったのかも知れない。(?)


その人と会って 
カフェに座って 飲み物を頼むときは、
彼はいつも私に
I invite youご招待します!」と笑顔で言い 
必ずご馳走してくれたので、


(私が払おうとしても そのたび
片手を軽く私に向けて 首を左右に振り、
ニコニコと笑顔で この言葉を繰り返す)


パリのカフェで
カフェオレや 
Jus d’orangeジュドランジュ (オレンジジュース)は よく
〈韃靼人のおごり〉で いただいていた。





オチは以上です。(^ ^;





ネタじゃなくて、実話です!





エキゾチック♪

ボロディン<イーゴリ公>より『韃靼人の踊り』





↓  日本語字幕付き (サムネイルがあまり良くないのでURL💦)
演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団 踊り: 谷桃子バレエ団だそうです。

https://youtu.be/0w9crmZT-C0?si=ffEqFH7nAfbBaDmH

他にもいろいろな衣装や舞台の動画がありますよ♪


🌟藤澤ノリマサさんによる Pop-Operaアレンジversion

ライブ動画の方が音がいいかも↓

https://youtu.be/hhe49or68-I?si=vLuNSceogIvse4DA


🌟これ音楽も映像もとても綺麗なんだけど、歌い手さんも作品も詳細不詳です。
ゴメンね⭐︎ (キリル文字読めない😢) 

この映画、日本語字幕付きで観てみたい…♡

🌟追記
  ……などと呟いていたところ、なんと!
竹の宮さんがこちらの映画の情報を調べて、
教えてくださいました♡
興味のある方、詳細はぜひコメント欄をご覧ください♪

竹の宮さん、どうもありがとうございます🙇‍♀️



*こちらも興味のある方へ。パリ関連記事です:




書いたものに対するみなさまからの評価として、謹んで拝受致します。 わりと真面目に日々の食事とワイン代・・・ 美味しいワイン、どうもありがとうございます♡