見出し画像

アルバトロス

 今月から新学期が始まった。

 初日からいきなり検査で授業はつぶれたけれど。相変わらずの0コロナ対策。そのくせ密なわりにマスクもしてないし、ただいたずらに学生の貴重な勉強時間を奪っているようにしか見えない。

画像1

   私も毎月毎月給料のことで落ち着かず、いいかげんうんざりだ。

 先月までは離婚前の苗字だったので、私の口座の名前と契約の名前が違うのが理由で海外送金してもらえず、裏技で知人経由で給料をもらっていた。

 今月からは契約の名前も口座と一致するし、問題なく海外送金かと思ったら、国際部の人が振り込んでこない。催促したら、手数料かかるから先に手数料を振り込めとわけのわからんことを言ってきて、「そんなもん給料から引けや」と伝え、なんとか振り込ませることはできた。

 しかし今月からは給料20%カット。
 学期末にまとめて振り込むと言ってきた。

 おそらく中国の経済状況が悪いのが原因だろう。
 0コロナを目指す中国は、検査検査でお金がかかる。
 この20%カットに英語の外人教師なんかは憤慨してたけど、中国人の先生たちは勝手に天引きで国への強制的奉仕が義務づけられているとも聞いた。
 授業を審査した結果問題なかったら残りを振り込むと言ってるけれど、それも中国の経済状況次第なんじゃなかろうか。

 それに審査なんてどうとでも言ってケチつけることできるやんけと思っていたら、突然同僚の中国人の日本語の先生から連絡が!

 自分の研究か何かに必要だから、私のオンライン授業に参加して授業を録画させてほしいという。

 まあ、世話になってる先生だし、いいですよ~と言ったけれども、なんかこれ潜伏調査じゃね?と実は少し怪しんでいる。

 というのも、私は「啓蒙先生」と呼ばれているだけに、わりと人生について熱く語ったり、卒業生も含めて悩める若者たちの相談に乗ったりもしている。

 別に中国政府を悪く言ったことはないし、クラスには共産党のスパイが潜んでる可能性もあるとかなり昔に言われたこともあり、実際共産党に入ってる子もいるので、その辺は以前から気を付けている。

 ただ、このコロナになって、就職先も決まらず不安だったり、鬱になったりいじめにあって休学する学生もいたりで、ケアすることも多かった。

 四年生の最後の授業でも一人の学生に頼まれて、「ビジネスメール」の授業ながら、将来や幸福について説いた。

画像2

画像3

画像4

 もういらすとやさんにはお世話になりっぱなしである笑

 私は自分の生き方や考えを伝えているだけだけど、私に影響受ける学生も少なくないし、まさかの思想改造とか思われての審査なのかと多少びびる。

 なにせ、授業を見学させてくれとか録画させてくれとかいうこの先生に、私はずっと嫌われてると思っていた。

 私は何でもはっきり言うので「アメリカ人みたいですね」と言われたことがあるし、なんかチャットしてもそっけない感じだったし、まあ嫌いというよりは苦手なのかなと思っていた。

 大体私に「頼み事があります」とかこれが初めてだし。
 給料減らされた新学期早々、すべての授業に参加して録画してるし、怪しい……。

 しかしだからといって、授業内容変える気はない。

 そんなわけで作文授業でもテーマにしたのは「アルバトロス」。

 これは異文化体験ゲームで、このアルバトロスの感想を作文に書けという課題。

アルバトロスは架空の国。

画像5

 これだけの情報だと、この国は男尊女卑の国だと思うだろう。

 学生たちもそうだった。

 しかし実はこの国では土が神聖なものとされている。
 その土に直接触れることができるのは女性だけ。だから地面に正座することができる。

 食事を男性が先に食べるのは毒見のため。おいしくて安全なものだけど女性に食べさせる。だから女性が男性の後に食べる。

 つまりこの国は女尊男卑の国なのだ。

 誰しも自分が所属する文化の価値観を基準としている。つまり誰しも最初から偏見を持っている。まずはそこに気づくことが大事。自分化と異文化がただ違うということを知ること。それをいいもの、悪いものとするのもあくまで基準となっているのは自文化の価値観であり主観であるということに気づくこと。

 そのように気づいた学生は少なく、ほとんどが「男尊女卑」についての意見。ただ一人、前学期いじめに苦しんでいてケアした学生は、私の言いたいことがわかったようで他とはちがう内容を書いていた。

 おもしろいのがその感想もまたあくまで中国の中での考えだったこと。

・女性は男性より弱いです←男は男らしく!を強調する風潮の影響だろう

・中国は男女平等の公平な国です←雇用の不均等を書いている女子も別にいたけど

・古代の中国は男尊女卑がありましたが、今はありません←地域によっては今もあるで

 しかもこの意見はほとんど女子。

 男子は、「女尊男卑」もよくないという意見が多く、理由が、女ばかり優遇されたら男の不満がたまり、国内紛争になるからというもの。

 まあこれに関してはそれぞれの考え方にどうこう言うつもりもないし、ただ作文発表して感想を言い合うだけにした。

 テーマは「異文化理解」なのだけれど、どうも「男尊女卑」がテーマになってしまっている。

 そこでもう一つ話をした。

『日本は鯨を食べる文化だった。それに対して動物愛護団体が批判した。

 イルカを食べていた地域もある。それもひどいという声がある。イルカは知能が高く優れているからだという人もいる。

 中国は犬を食べる。なんてひどい国だという人もいる。

 私たちは牛を食べる。でもある国では牛が神様で、例えば道路の真ん中に座り込んだら、どかすこともできず、道路は渋滞する。

 きづいてほしい。その動物の名前もあり方も良いも悪いも人間の価値観の中で勝手に決めているのだと。国がどうとか関係なく、そもそも人は偏見をもつものなのだということを。

 だからこそ大事なのは、優劣をつけるのではなく、ただちがうのだというそれだけを知ること。自分の価値観とちがうものがあっても、あなたが批判する要素はまたあなたも批判される要素にもつながるのだということを』

 正直、こういうことを中国の学生に言っていいのかどうかはわからない。

 しかし、私にとって日本語を外国人に教えるということは異文化交流でもあり、異文化理解は避けて通れないと思っている。

 ただ日本語を教えるだけなら、日本語の知識さえあれば誰でもできるんだろう。でもそんな授業は私の授業ではない。誰の心にも記憶にも残らない授業なら受けない方がいいとすら思う。

 私の中にはいつも人生の恩師の言葉があり(学校の先生ではない)、「今日、自分が言った言葉が学生の人生に影響を与えるかもしれない」と思って授業をしている。さらに今は亡きエスペラント語の師匠の「年寄りは若者のために生きねばならぬ」も心に刻まれている。

 来年はもう続けていないだろう。

 まあそう思ってるから、授業の録画でもなんでもすればいいと思ってる。本当に研究に使うのかもしれないし、そうじゃない裏の思惑があったとしても、私の生き方ややり方を変える理由にはならない。

 まあほとんどがくだらないこといって一人で笑ってるだけなところもあるし、教科書なんて捨てろ!ぐらいにオリジナルの授業をしているし、作文授業でも会話、ビジネスメール授業でも人生論、会話授業でもゲームかエンタメ。はっきりいって「非常識」なのかもしれない。

 もう好きに審査しりゃいいよ。
 自分が楽しめなきゃやってても意味がない。

 最初から最後まで授業を録画していた先生からのチャット↓

画像6

 怪しい……

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?