コーディネーターはスワンボートに乗って Ⅲ④ § En la mezo de la vojaĝo : In the middle of the journey §
マルコが係留施設の手続きを先に終えてくれたおかげで、俺達はスムーズに入港。更に、いい感じの店を見つけておいたよ、とマルコは俺達を誘導。到着したのは俺のいた世界でいうところのレトロ喫茶風の店。朝食&休憩となった。
俺とチェルボはカウンター席に。マルコは、散歩がてら辺りを見てくる、と言って、ジュースをテイクアウトして飛んで行き、フリーコックとブランカは窓辺の日当たりの良い席についた。座るなりブランカは、これって経費だよね、と言って、バンバン注文をし始めた。フリーコックは、いいぞォ好きなだけ食べなさいよォ、と言って、ニコニコとブランカと向き合っている。余計なことだけど、フリーコックはブランカのことが好きなのでは? と思ってしまった。ヤツラの恋愛事情なんて本当にどうでもいいんだけど、なんとなく。
「マサキは何にする? これなんか、どうだろう。ほんのり甘くて食べやすいと思うが」
俺の対面に座ったチェルボは、プルンとした指先でメニュー表に描かれた絵を示した。どこからどう見てもホットケーキだけど、そう見えるだけで、実は謎の肉の輪切りが重なったものかもしれない。そう思いつつも、チェルボを信じて注文。
カメレオンみたいな風貌の、ギョロ目の店員が運んできた食べ物は、味もホットケーキに似ていた。違うな、と思ったのは、シロップの味。美味しいんだけど、今まで口にしたことのない、独特の風味と甘み。
もしこれがハチミツ的な作られ方をしているのなら、咲いている花的なものが違うから味に違いが出るんだろう。どんな花なんだろう、どんな作り方をしているんだろう。と考えて、手が止まる。
今、俺
ちょっと興味わいてなかったか?
なんてことだ! 今のは、なんだコレなにで作られてんだよ食って平気か? と疑問を芽生えさせる場面のはず。まさか俺は、この世界に馴染み始めているのか? この世界を受け入れようとしているのか……
「……ウソだろ」
「どうした、不味いか?」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
心配そうなチェルボ。視界の端に、フリーコックとブランカの姿。テーブルの上には何枚もの皿と、何杯ものカップが並んでいる。
「アレ! アレのこと。アイツら、どんだけ食ってんだよウソだろ、って」
「いつものことだ。ふたりともエネルギーをやたら無駄使いするからな」
「なんかわかる……って、さっきまで寝てたんだぞ?」
「夢の中でも大騒ぎしてるのかもな。経費は多めに持ってきたから大丈夫だ」
「さすが。つーか社長はいちおフリーコックだろ。アイツが一番しっかりしなきゃなんないのに」
「社長とは思ってないだろうな。キャプテンとは言っているが」
「子どもか」
「子どもと言えば、そうかもしれないな。ずっと変わらないよ、アイツは」
「チェルボはフリーコックと付き合い長いの?」
「幼なじみなんだ。学校の先輩後輩で、遊び仲間で、親友だな。ちなみに、フリーコックが後輩。さらに下に、マルコがいる」
こっちの世界にも学校があることにも驚いたけど、チェルボとフリーコックの関係にも驚いた。あのお調子者と子どもの頃から一緒だなんて。きっと、ずっと面倒を見てきたんだろう。お疲れ様。
「みんな、アーロの出身なんだな」
「そうだな……自分とマルコは、少し事情があってだが」
「事情?」
「まあ、そのうち話そう」
そのうち。そう言われて、俺はいつまでここにいるんだ? と考えてしまった。互いのプライベートを話せるような仲になってしまうのは、良いのか否か。
「マサキ? どうした」
「あ、いや……フリーコックって、昔からあんな感じ?」
「そうだな。お調子者で賑やか過ぎて、叱られることも多々あったが、憎めないヤツだ。だから、ブランカもあれだけ懐いてるんだろうな。微笑ましいよ」
懐いている、微笑ましい。チェルボには、そう見えているのか。俺はアイツらがギャンギャン騒いでいる姿しか知らないから、そうだね素敵な関係だね、と肯定はできない。
「ブランカも学校が一緒とか?」
「いいや、彼女は転職して、うちにきたんだ」
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