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視覚優位vs聴覚優位のコミュニケーションについて。

この記事で、人の認知特性(外からの情報や知識を認知・理解・記憶・表現するプロセス)にはいくつかのタイプ(視覚優位・聴覚優位・言語優位)があるという話をしましたが、「発達障害vs定型発達」に限らず発達障害者同士あるいは定型発達者同士であっても認知特性が異なるもの同士が会話をすると、お互い「何でこれが伝わらないの?」というフラストレーションを覚えることがあると思います。自分はわかりやすく説明しているつもりなのに相手から「何か回りくどくて難しいんだよね」と言われて戸惑う経験をした人も少なくないでしょう。

ここで、かつての上司と私との間における理解のギャップの話をしたいと思います。私は視覚優位タイプですが、当時の上司は聴覚優位・言語優位タイプでした。
上司はASDの診断は受けていませんが、自他ともに認める「自分中心に考える」タイプであり場の空気を読まず持論を延々と主張して相手を困らせることが多かったので、ASDのスペクトラムに入る人だったかもしれません。旧帝大の工学博士でありかつ法律系の士業の肩書も持つ、いわゆるハイスぺ型ASDと言っていいと思います。

自分の業務に関する資料をPowerPointで作成し、上司に内容確認を依頼したときのことです。資料は一目で内容が伝わるように、図やグラフ、矢印を多用し文字はできるだけ少なく抑えました。
私「このように資料を作りましたので、見ていただけるでしょうか」
上司「うん、じゃあこの内容を口頭で説明して
私「(えっ?見ればわかるじゃん!何でいちいち説明しないといけないの?)」

私は口頭で要領を得た説明をするのが大の苦手(子供の頃は授業中に指名されるとパニックで何も言えずに泣いてばかりでした)なので、わざわざ口頭で説明をしなくても見れば内容がすぐ理解できるように資料を作っているのに、それでもなぜさらに口頭で説明が求められるのか納得がいきませんでした。私が苦手とする口頭説明のスキルを試して指導するつもりなのだろうかとすら思いました。

しかし、ある時職場の雑談で「出張の時に道に迷うか?」という話になった時にその上司は「僕はダメなんだよねぇ、地下鉄の駅を出た途端方向がわからなくなってしまう」と苦笑気味に話しているのを聞いて、「へえ、男の人でも方向音痴とかあるんだ」と意外に思ったのですが、上司のように言語能力が高く頭からスラスラと論理的に説明できる聴覚優位・言語優位タイプは逆に視覚優位者が得意とする地図を読んだり方向を把握するのが苦手というのはありうることで、視覚優位者である私と話の進め方に度々食い違いが出てしまうのもそのためなのだろうと納得しました。

同時処理型は「起承転結」より「結論→理由」を好む

認知タイプの別の切り口として、情報の全体像を認識してから細部を把握する「同時処理タイプ」と情報の一つ一つを順序だてて連続処理する「継次処理タイプ」というのがあります。一般的に視覚優位者は同時処理型が多く、聴覚優位者は継次処理型が多いと言われています。

同時処理型の私はまず結論から始め、その後その結論に至った理由に話を進めるような説明を好みます。ADHD由来の衝動性も加わり相手の話に対し「早く内容を理解したい」「早く話の全体像を見たい」という欲求がとても強いです。
ところが継次処理型の上司は一つ一つ話のステップを確認し最後に結論に至るという説明をすることが多かったのです。既に自分の中の結論は決まっているのにわざわざ「何故あなたはそう考えたの?」と相手の主張の細かい部分を一つ一つ反論でつぶしていき、最後に自分の結論のほうが正しいという空気に持っていくことを好んでいたようでした。
これは私にとってはとてもストレスの溜まることで、「言いたいことがあるならさっさと言え」「結論があるならそれを先に言え」と内心毒づいていたものです。

今から思うと上司は言葉できちんと筋道を立てて説明する/されるコミュニケーションを好むので、私のように細かい説明を端折っていきなり結論だけポンと相手に投げつけるやり方をストレスに感じていたかもしれません。

私が当時の上司との関わりで一番学んだことはお互いの認知特性の違いを認めること、すなわち
自分にとって一番楽に理解できる方法が、他の人にとっても理解しやすいとは限らない
相手がどのような説明や話し方を好むかを常日頃から観察する
ということでした。結局はASD当事者の永遠の課題である「他人に関心を持つ」ことから始めることがコミュニケーションを円滑に進めるカギなのかもしれませんね。

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