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ASDの「鈍感さ」について。

自閉症スペクトラム(ASD)当事者は「過敏さ」と「鈍感さ」の両方を併せ持つと言われています。
どちらかというと当事者本人は「過敏さ」に悩まされているのですが、それが表情や言動に現れにくいので外から見ると「鈍感さ」のほうが目につきやすいかもしれません。
さらに、「自分に対しては過敏だけど他人の気持ちに対しては鈍感」「感覚は過敏だけど感情は鈍感」など、あまりよい文脈で使われることがないのが残念な所です。

何故ASDは「鈍感」と思われやすいのでしょうか?私自身の感覚と照らし合わせて考察してみたいと思います。なお、鈍感さを持ち合わせていないASD当事者の方も多いので、私の感覚が必ずしもASDに共通のものではないということをご承知おきください。

①多数派の感覚とズレているものが多い

前の記事に私が周りの人たちより体感温度が有意に低いために小学校時代は真夏でも長袖を着ることが多かった話をしました。
おそらく同級生たちは私のことを「こんなに暑いのに長袖なんて随分と鈍感だな」だと思っていたと思います。
さらに日頃無口で表情変化に乏しかったために「基本的に何においても鈍い子」という印象を与えていたかもしれません。
逆に人一倍敏感な部分についても「神経質」「気のせい」「思い込みが強すぎ」とこれまたネガティブにとらえられるため、「たぶん私の感覚が間違ってるんだ」と無理に自分の感覚を抑え込んでしまった挙句、体調を崩すこともあります。
表に出ない「敏感さ」は誰にも感知しえないですから、結局「体調を崩すまで自分の体調変化に気づけない=鈍感」という印象を与えてしまうことになります。

②原因不明の体調不良を「いつものこと」と片づけてしまう

私は物心ついたときから以下のような体調不良に悩まされていました。
・常に頭痛や腹痛など体のどこかが痛い
・特に朝は吐き気とめまいがして食欲が出ない
・10分程度のタクシーや自家用車の移動でも酔ってしまう
・体温調整が下手で少しの気温変化でのぼせたり鳥肌が立ってしまう

母は丈夫なタイプでしたので私が「痛い」「辛い」「吐きそう」と言う度にビックリして私を医者に連れて行ってくれたのですが、大抵は検査しても異常が見つからず医者からは「神経質な性格の子にはありがち」とか「この年頃の女の子にはありがち」と言われて帰されたものです。
一応薬も処方されましたが効いたことは殆どなく困惑しました。

そのうち母も私が「痛い」と言って布団の中でうずくまっているのを見ても「痛いと思ってしまうとそこに意識が集中してしまうから余計痛くなってしまうよ」と言うだけになってしまいました。
医者に行って検査しても異常がないのだから「気のせい」と思われても仕方がないのです。

そのため、新卒から30歳ぐらいまで連日深夜残業や休日出勤を繰り返し、ある日突然過呼吸発作とパニック障害のために会社で倒れて周りを驚かせてしまいました。自分が心身ともに過労状態だったことに気づくことができなかったのです。

ここまで読んで「やはりASDの人は完全に動けなくなるまで自分の体調変化や疲れに気づけないんだな」と思った方も多いかもしれません。
しかし私から言わせると「疲れ」「痛み」自体は感じられるのです。むしろ感じすぎると言っていいかもしれません。その疲れが「元々あったものか後天的なストレスによるものかの区別がつかない」だけなのです。物心ついたときから絶えず体調不良を感じているので、むしろ「体調が良い状態というのがどんなものかわからない」と言えるかもしれません。

定期的に検査を受ける仕組みづくりが有効

前回の記事にも書いた通り、ASDにとって最も説得力を持つのは「データ」や「数字」です。周りがいくら「疲れてるようだよ。少し休んだら?」と助言しても残念ながら受け入れられにくいかもしれません。「自分にとってはいつものことだし」という思い込みがあるからです。

それでも健康診断で血液検査や心電図などに異常値が出てくれば「自分はやはり疲れているのだ」と客観的に体調変化を把握することができます。
私の父は毎日朝と晩に血圧を欠かさず測ります。かかりつけの医者からの指示もありますが、自分で数値が正常であるかを確認して安心したいというのもあると思います。

会社で健康診断を受ける機会がない場合は、献血をするとサービスで血液検査結果がもらえます。コレステロール過多やたんぱく質不足や肝機能の異常の有無を把握できます(貧血であるかもわかりますが、その場合はそもそも献血ができないと思います)。

「疲れた」を「どうせ気のせい」と自ら否定しない

実はこれが本記事で最も伝えたいことなのですが仮に検査で異常が出なかったからといって自分の疲れを「どうせ『気のせい』だよね」と自ら否定しないほうがいいと思います。検査の異常値というのは疲労が極限まで蓄積した状態で初めて現れるものが多いですから、異常値が出た時点であわてて休んでも回復に時間がかかってしまいます。熱中症などの脱水症状の対策が「喉の渇きを感じてなくても常に水分補給をする」であるように、「疲れを感じてなくても定期的に休養時間をとる」というのが実は現実的な方法なのかもしれません。

もっとも過集中がある人だと過集中状態が疲れを上回ってしまうために「疲れ自体を感じない」という状態はありうると思います。私自身は過集中のないタイプですので、このような過集中をどうコントロールするかは他の当事者の方のブログ等を参考にしてもらえればと思います。

若いうちは体力で頑張れますが、頑張りの利かない年齢を自覚したら「疲れたらとにかく休む。疲れなくてもとりあえず休む」を心掛けるのが大事と考えています。

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