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駅伝するにゃ〜

生後3週間(推定)で、まろにえ橋の近くで母猫とはぐれてしまった仔猫。
7月の暑い日、アスファルトの道路の真ん中で身動きできなくなっていた。
命がけで歩道に走ったけれど、この子は歩道の段差も昇れないほど小さくて、拾い上げたら掌にのるほどだった。

近所の動物愛護団体のおばさまに相談すると、
「お願い!飼ってあげて!みて。こんなに可愛い。うちはね、大型犬が一匹に大きな猫が2匹。おまけに、私も歳だから、この子を最後まで面倒見られる自信もないのよ。お願い!」
猫ちゃんのミルクをもらって帰り、スポイトで飲ませて。
動物病院に連れて行って、うちの子になった雄猫。 
教えてもらった通りに、トイレを作ると、粗相もしないお利口さんだ。

まろにえ橋で保護したので、「マロ」。
marronとか、麻呂とか書いてみたけれど、マロがしっくりくる。

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小さくて、お出かけの時にはゲージに居てもらわないと、ソファの下の僅かな隙間で寝ていたり、クローゼットの奥に潜り込んでいたり、見つけるのが大変!

そんなマロも大人になった。
猫は、人間の年齢でだいたい2歳くらいの理解力がある、と聞いた。
本当かどうか、調べたことはない。
しかし、手前味噌だがマロは進化した猫だと思う。

夏の日に、ベランダに出ていたのを忘れて、鍵を閉めて寝てしまったことがあった。翌朝、窓を開けると、大きな植木鉢の上で寝そべりながら、こちらを訝しげに見ていた。
「ごめん!!」という間も無く、スッと開いたサッシの隙間から部屋に入り、
スタスタと歩いて行った・・・かと思いきや、振り向いて、
「にゃにゃにゃにゃー!!にゃー!」
少し歩いて、また振り返り
「にゃにゃー!」

怒っている・・・。
ごめん、ごめん!と謝っても許してくれない。
しばらくの間、呼んでも見向きもしない。

動物病院に行った後もそうだった。
私が先生に加勢して押さえつけたせいで、怒って部屋に入ってこない。
本当に敷居の前に座って、上目遣いに見ている。
いつもは、一緒に眠るのに、絶対に入ってこなくなって、もう1週間がすぎた。

「マロ、怒ってるの?」
「にゃー!」
「だって、しかたなかったのよ。許してよ。ごめんね。」
「・・・・・。」

私が呼んでも振り向かなくなったのに、マロと相性の悪い娘が呼ぶと返事をするのだ。絶対に怒っている。

そして、美味しいご飯が出てくるまで、にゃーと言ったら聞かない。
マロの頑固さには、みんな屈服してしまうのだ。



驚いたのは、箱根駅伝ファンの私がテレビで箱根駅伝を見ていた時だ。
先ほどまで、横に寝そべっていたのに、ずるずる後ろに下がっていた。
振り向いてみると・・・。なんと!
これは本当の話だ。
首のベルトを頭に襷掛けにしていた。

マロ!すごい!今、戸塚中継所だよ!
すましている。

顔の良い位置に黒子のような模様があり、イケメン(と飼い主は思っている)なので、間違いなく『◯◯◯◯の神』になるだろうな。


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寒い夜には、にゃ〜と言って、ベッドにもぐり込んでくる。
ねこ湯たんぽ。

背中に顔を埋めると、いつもお日様の匂いがする。
ああ、いい匂い!寝ているマロに鼻をくんくん、すりつける。

口の横の美人?黒子と緑色をした目。
こんなに可愛い子はいない。

しかし、ある時、知り合いに言われた。
「雑種なんだ?なんだかんだ言っても、血統書つきの子が可愛いよ。」
私は、怒った。
涙目になって。
「同じ命よ。何が違うの?」

その話を思い出したのは、息子の友達が猫を飼うことになった、と聞いた時だ。
彼は、不登校になって家にいた。息子の大事な友達で、二人はLINEを通して、猫の話で盛り上がっているようだった。
その子のお母さんから、後になって猫を飼った時の顛末を聞いた。

「あの子のために、猫ちゃんを飼おうと思ったの。上の子はペットショップで見てきて、横文字の名前の猫を欲しがったのだけど、あの子がぽつりと呟いたの。

『僕は、命をお金で買いたくないんだ。』

って。それで、車で保護猫ちゃんがたくさんいる施設に探しに行ったの。
生まれつき、背中の曲がった子猫がいてね・・・。あの子、どうしてもその子が欲しいと言って聞かないの。

『みんなにはわからないかも知れない。でも、僕にはこの子を愛せるんだよ。
この子が欲しいんだよ。』

って、泣くの。
でも、私、もしもその仔猫に何かあったら、あの子を支える自信がなくて・・・。それで、なんとか理解してもらったのよ。
いつも言葉数の少ないあの子が、そんな風に心の中を見せることがあるんだなって、帰りの車の中で泣いてしまった・・・。」

そうだったんだね。
保護された猫ちゃんも、血統書のある猫ちゃんも、どちらもかけがえのない命だよね。どんな子も命の重さは一緒なんだよね。
どちらがいいとか、悪いとかではない。
どんな個性を愛するのか。

彼が、夜中にお母さんを起こして、
「辛い。もう死ぬしかない。」
と言っていたことを知る私は、命の重みについて、暗い部屋の天井を見ながら、様々なことを考えていたのだろうと推察した。

私もね、寝ながら天井を見て、眠れないことがあったのよ。
でも、柔らかい命を抱きしめて、フワフワした猫毛に顔を埋めたら、
幸せな気持ちになれる種類の私たち。
優しい気持ちに、猫は敏感だからね。

うちのマロは、怒ると怖いけれど、私が泣いていると心配そうに顔を見上げて、
ずっと側にいてくれる。
この子が人間だったとしても、絶対にイケメンだ。
温かい、ちょいワル親父なのである。

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