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マンドラゴラ

澁澤龍彦の「毒薬の手帖」。
ここに、マンドラゴラという植物が出てくる。
人間の形をしていて、引き抜かれるときに悲鳴をあげるとか・・・。

大学時代に、澁澤龍彦が好きな友人が「黒魔術の手帖」などと共に持っていた「毒薬の手帖」を読んだ。
怖いような、少しワクワクするような気持ちで。

マンドラゴラは、魔法薬や錬金術、呪術にも使われる貴重な材料で、不老不死の原料とも言われていたようだ。
ハリー・ポッターでも、薬草学の授業で登場する。

一般に、この植物の発する声は、鋭い軋むような音で、人間さえ、うっかりこれを耳にすれば、とても我慢できたものではないものではない、とか、死んでしまうとまでいわれていた。
犬に引っ張らせて抜く、など方法まで載っているほどだ。


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伝説のマンドラゴラには春咲きと秋咲きの種があり、伝説では春咲きが雄、秋咲きが雌とみなされていたようだ。
旧約聖書、創世記では、恋茄子と訳されているという。


マンドラゴラがあんなに気になっていたのに、しばらく忘れていた。
兵庫県あわじ市にある農業公園「淡路ファームパーク イングランドの丘」でマンドラゴラの花が咲いたニュースを見たのは、いつだったか。

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もっと毒々しい花を想像していた・・・。
開花してみると、花はそんなに匂わないが、葉っぱからコンソメ味のポテトチップスのような強烈な匂いがする、という記事だった。
ポテトチップスの匂い、で私の想像上の毒気が抜かれた。
花が咲いた状態で抜かれたら、さくらももこ「コジコジ」のあたまばなくんみたいだな・・・と思ったのだ。



グリム兄弟の『ドイツ伝説集』(1986年)には、マンドラゴラについてとても詳しい話が載っています。それによれば、マンドラゴラ(別名アルラオネ)は絞首台の下に生えるとか、金曜日の日の出前に掘るとか、根を赤ワインで洗い風呂に入れて肌着を着せて小箱に入れておけば、未来のことを教えてくれて、富を手に入れることができるとか、持ち主が死んだらどうするかなど興味深いことが書かれています。



肌着を着たマンドラゴラを想像すると、面白くなる。
顔はお爺さんなのに赤ちゃんみたいだ。
お風呂に入れて肌着を着せてあげるのか・・・。


現実世界のマンドラゴラは、元々地中海地方に自生するナス科マンドラゴラ属の多年草だそうだ。
古くから、実際に祈祷師が儀式を行う際にしばしば使っていたそうで、マンドラゴラの根の強い毒性で、ある種のトランス状態を引き起こしていたのかもしれないという。


「毒薬の手帖」という本の解説は、昔のまま澁澤ワールドだけれども、今と昔ではマンドラゴラへのイメージが変わった。
そんなことを呑気に考えていていいのか・・・と我にかえる。
すでに毒気にやられた後のようだ。


殺人というタブーにふれる行為において、殺人者を最も魅了し興奮させた手段は毒を用いること……毒薬には妖しい魅力が満ちている。それは殺す者と殺される者の間に、劇的シチュエーションをもたらす。数ある殺人のなかでも、「毒殺」こそが犯罪の芸術なのだ! 毒薬と毒殺事件をめぐる異色のエッセイ集。


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