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「没個性」から「ブランドを牽引する存在」へ。 LUMIXのレンズが歩んできた進化の軌跡。

こんにちは。LUMIXのレンズ開発チームです。

この度、2022年10月20日(木)にLUMIXのフルサイズ対応単焦点シリーズにおいて新しいラインナップが発売となります。その名も「LUMIX S 18mm F1.8」です。

これまで24mmから85mmまで4本のラインナップが揃っていたF1.8単焦点シリーズにおいて、最も広角となる5本目の単焦点レンズになります。

これらの単焦点シリーズを始め現在では、Leicaの認証を得た「LUMIX S PRO 24-70mm F2.8」、S5のキットレンズでありながら既成概念から逸脱した画角を持つ「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」、描写力と最大撮影倍率0.5倍のマクロ撮影が人気の「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」など人気のレンズを輩出しているLUMIX。

しかし実は、過去の歴史を辿るとLUMIXのレンズは没個性とも言える、日の目を見ない時代を長く潜り抜けてきているんです。

今回の記事では新レンズの発売に際し、LUMIXのレンズ開発チームが歩んできた歴史と、開発チームの面々が愛着を持つレンズ達、そして新発売される18mmについてご紹介させていただきます。

「ボディの付属品」と扱われていた時代

DMC-GF1C

これまでの記事でも他部門からお話しされていたかと思いますが、Panasonicはカメラメーカーではなく家電メーカーとしての系譜を辿ってきています。そのため、Panasonicがカメラに参入したときも家電的なマーケティングのもと販売していました。

目まぐるしく変化するカメラ市場に対して、しばらくの間、私たちは迅速かつ柔軟にマーケティングを適応することができていませんでした。その理由に、私たちPanasonicが大きくは家電メーカーであることが挙げられます。
(中略)
お客様のニーズとカメラのスペックが合致し、ある程度の値ごろ感があればお買い求めいただけるだろう、と思っていたんです。
結果、機種毎にターゲットやコンセプトが分かれてしまい、いつの間にかLUMIXブランドは「誰向けのモノか、よくわからないカメラ」になってしまいました。

コンデジから始まり、世界で初めてミラーレスカメラを世に生み出した私達は、認知を広げていくためにもエントリー層に幅広く訴求するような視点で活動していました。

レンズ交換式のミラーレスカメラと言えど、まだその当時にはコンデジの延長線上のような感覚もあって、高解像度の単焦点レンズや上位モデルのラインナップはブランドの戦略的にも求められていなかったのです。

では何を開発していたかと言うと、その時折で発売されるカメラに合った標準ズームレンズばかり開発していました。当時の人気だとGFシリーズが代表的で、新しいモデルが出るとそのデザインに合った標準ズームレンズを開発。当時は標準ズームが何本も乱立しているような状態だったのです。

ただ、それでカメラの売り上げは好調でした。当時を思い返しても戦略的には間違っていなかったと思いますが、今に比べるとレンズには個性のない時代だったと言えます。

戦略的に仕方がないとはいえ、優先されるのはボディでレンズは「ボディの付属品」のような存在。カメラとレンズの価値には差がありました。実際に当時は、同じLUMIXというブランドを掲げているにも関わらず、ボディの開発部門とレンズの開発部門の部屋には物理的な壁もあり、距離がありました。

「今は同じスペースでコミュニケーションを取って働いています(笑)」

レンズが進化した転換点


DMC-GH3A

そんなLUMIXのレンズですが、2012年にある転換点を迎えました。それが、動画機として注目を集めていたGHシリーズの3世代目、GH3の発売です。

元々は「静止画も動画も撮れる1台2役のファミリー一眼」がコンセプトだったGHシリーズですが、センサーの大きさや交換式レンズによって「背景がボケた動画撮影ができる」と人気が高まっていきました。

GH2で本格的に動画ユーザーが増え、GH3開発時には「もう一段階上のランクのレンズが必要」という空気感がチーム内に漂いました。当時のLUMIXは大三元レンズすらありませんでしたから、ようやくキットレンズ以上のレンズが開発できると盛り上がったように思います。

というのも、戦略上不要だったから開発していなかっただけで、当社にはLeicaとの共同開発で得たノウハウや技術があり、上位モデルのレンズを開発することに対して技術的なハードルは高くなかったんです。ようやくLUMIXのレンズとして開発できる、そんな舞台を得た感覚でした。

フルサイズへの参入、そしてリブランディングを経て

もう一つの転換点、それはフルサイズへの参入でしょう。

これが2019年のことです。こう振り返ってみると、LUMIXのレンズは10年単位で転換点を迎えていますね。

ミラーレスカメラとしては世界初、しかしフルサイズとしては最後発のLUMIXは、フルサイズ参入時には既に他社の高性能なレンズラインナップが揃っており、簡単に言えば「ライバルだらけ」だったわけです。

既にフルサイズに参入している各社のレンズはいずれも解像感が高く、ボケ感も綺麗。これまでマイクロフォーサーズを主戦場としていた私達にとって、フルサイズは各社と横並びで見られる課題がありました。

その中で、LUMIXとしての個性や魅力の置き所はどこかと議論した時、「立体感を感じる質感描写」というLUMIXの原点、そして「他社が作ってないものを作ってやろう」というモノづくり企業らしい精神が掲げられたのです。

スペックには表れない質感表現

LUMIXは現在、「生命力・生命美」という思想を掲げています。そして実は、立ち上げ当初にも「ありのままの質感描写」というスローガンが掲げられていました。言葉や、言葉が持つ解像度は変わってきていますが、根幹にある想いはそう変わらないんですね。

中の人がこういった言い方をすると憚れるかもしれませんが、LUMIXのレンズには「スペック(数値)には表れない描写力」があります。そんなもん感覚じゃないのかと思われるかもしれませんが、実際に「主観的評価」で構成された絵作りがLUMIXの描写なのです。

画質は大きく分けて以下の2つに分けて評価されます。
 客観的評価:ノイズや解像度といった数値で表せる指標
 主観的評価:色合いや質感表現といった感性的な指標
LUMIXでは後者の「主観的に評価される色合いや質感表現」を「絵作り」と定義しています。

湿度感からなる立体感、ピント面から奥行きまでの滑らかなボケ味、色収差の抑制など。

これまでマイクロフォーサーズでは「小型化が最優先」とされてきた中で、フルサイズに参入することでその技術力を描写性能へと発揮することができました。

 最後発のLUMIXだから作れたレンズ

フルサイズとして最後発の LUMIXでしたが、ライバルが多いという状況はある意味ではヒントも多いように思います。

他社が王道としていることに対して「でもユーザーって本当に王道(=デファクトスタンダード:市場的に標準とされている基準)を求めているのか?」「ユーザーのニーズを見極められているのか?」「王道から少し外れた製品もユーザーに求められるのでは?」と議論し、様々なクリエイターの元へと足を運ぶことで、画角やデザイン性など他社にはないレンズのラインナップが揃えられました。

レンズ開発チームが愛着を持つレンズ3選

ここからは、レンズの開発チームがこだわりを詰め込んだ、本人達も思い入れを持つレンズ達をご紹介させていただきます。(単焦点シリーズは後程お話ししますので、ここではそれ以外でご紹介します)

LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(小瀧)

LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6

これは、僕が使いたかったから作ったレンズです(笑)

このレンズはS5のキットレンズとして開発が始まりました。

キットレンズって標準ズームの24-70mmが多いじゃないですか。検討の段階で様々なキットレンズを使ってみて、24mmって使いやすいけど身近な被写体である風景やスナップを撮るにはもう少し広さが欲しいと思いました。実際にどのような使われ方をしているのかを調べたところ、広角側の使用頻度が多いことや、意外と50~60mmまでしか使っていないという人が多かったのです。

また、LUMIXは動画にも力を入れており、動画クリエイターからのニーズである、標準ズームの更なる広角化にも合致していました。

「王道スペックからは外れるが、今の使われ方に沿ったレンズを作ろう。」

そういった経緯から、広角側を広げ望遠側を減らすことで、サイズ的にもコンパクトな今までにない「20-60mm」というキットレンズが生み出されました。

あと、「20-60(にじゅうろくじゅう)」って語呂も良いですよね(?)

LUMIX S PRO 24-70mm F2.8(中澤)

LUMIX S PRO 24-70mm F2.8

S PROはLeicaの承認を得て世に出される、描写力に自信を持つ自慢の逸品です。そのS PROで、標準的な画角として多くの方に利用される24-70mmの開発を任されたことはとても嬉しかったですね。ただ、それだけに苦労も多かったです(笑)

出荷基準も高く厳しいチェックを受けているレンズなため、生産ラインにおいても細かな調整をお願いしました。数ミクロンのズレが品質に響く、それだけ精細な作業なだけに現場にも緊張感があります。

頻繁に山形の工場に足を運び、お願いばかりで心苦しい想いもありましたが、企画・開発、そして現場での生産を一気通貫してこだわりを詰められる、ある意味では「モノづくり企業の真価が発揮できる現場」とも感じ、妥協なく進めていきました。愛と情熱を持ってレンズを作れたと感じています。

また、フルサイズ参入以前のレンズではありますが、メンバーの中で一番歴史を知る渡邊さんから「愛着のあるレンズ」としてこちらのレンズが挙げられました。

LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm/F4.0-6.3 ASPH./POWER O.I.S.(渡邊)

LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm/F4.0-6.3 ASPH./POWER O.I.S.

当時の話をすると、 交換レンズの企画担当って私1人だったんです。今では複数名で担当していますが、当時は私1人で市場調査や各部門との意見交換をしてレンズを企画していました。

100-400はマイクロフォーサーズ用のレンズです。なので実質、望遠端は換算800mm。フルサイズでこれだけの望遠レンズになるとかなり重量級のレンズになりますが、マイクロフォーサーズだからこそのコンパクトなサイズ感が人気となりました。

しかし、社内決裁が降りるまでは中々厳しいところもありました。なにせ、マイクロフォーサーズで20万円を超えるレンズは当時無く、「今まで世になかった製品」に対しての抵抗感も少なからず合ったのでしょう。

結果的に100-400は、新しいレンズ作りに挑戦していく LUMIXだからこそ実現できたレンズとして人気を得ることができました。

5本目が誕生したF1.8単焦点シリーズ

LUMIX S 18mm F1.8

この度、F1.8単焦点シリーズに新たなラインナップとして18mmが追加されました。18mmについてお話しする前に、まずはF1.8シリーズについてご紹介させてください。

利便性とデザイン性を兼ね備えたレンズ群

元々このF1.8シリーズは「手軽に単焦点の解像感とボケ感を楽しんでもらいたい」という発想から誕生しました。

このシリーズ以前は実は単焦点は50mmF1.4しかなくて、今でもその高い描写力は評価されていますが、大きく重いというお声もいただきます(笑)

 LUMIXが持つデザインフィロソフィーとも相まって、F1.8シリーズではコンパクトかつレンズ径や外観も揃えたデザインで統一させるコンセプトが浮かび上がりました。

これは、特に動画クリエイターに喜ばれるデザインとも言えるでしょう。レンズのサイズが一緒ということは、シーンに合わせてレンズ交換をしてもジンバルのセッティングをし直す必要がありません。

レンズ径が一緒なのでフィルターも使い回しでき、荷物の量や費用も抑えることができます。視認しやすい位置に画角が印字されていますが、よりわかりやすく判別できるよう任意で貼れる識別用のステッカーデザインデータもLUMIX BASE TOKYOのwebサイトからダウンロードいただけるよう準備しております。

F1.8シリーズは、現場の負担を少しでも減らしたい、LUMIXが目指す「クリエイターに寄り添うカメラ」の精神性にも繋がるデザインに統一されています。

18mmF1.8の開発裏話と特徴について

©Viviana Galletta

全長約82.0mmで統一されたF1.8シリーズ。18mmという超広角かつ統一された描写をこのサイズで実現することは本当に大変でした。他のシリーズが簡単だったということも無いのですが18mmは特に「レンズの大きさ」が先に決まっていたからこその難しさがありましたね。

本来は、理想とする描写に対して現実的なサイズ感を計算し、サンプルを作って検証して、と段階があります。しかしF1.8シリーズは「サイズが決まってます」「描写も統一します」「どこまで広角にできますか」という所から始まりましたからね(笑)

で、計算してみたところ「ギリギリ18mmならいけるんじゃないか?」となって。また、18mmをAPS-Cクロップすると28mm相当になり、スナッパーにとっても馴染みがある画角になったりと、様々な側面で「18mm」という画角が誕生しました。

どうやってこのサイズでこの性能を実現したのか、みたいな質問も受けるんですが、これについては本当にもう「気合い」の面が半分くらいですね(笑)光学設計ってスマートな印象があるかもしれませんが、結構根気のいるものなんです…。

©Viviana Galletta

今では動画向けのカメラとしての印象も強いLUMIXですが、18mmは風景写真にもオススメできる一本です。

広角レンズの開放付近で発生しやすいサジタルコマフレアを抑制するように設計しているので、星空やシティースケープなどの光を捉える風景写真にも耐えられます。

動画撮影においても、フォーカスブリージングの抑制に力を注いでいます。ピント送りした際の画角の変化にも耐えられるので、超広角を活かしたダイナミックな映像表現にも役立つ一本になるはずです。

また、被写体に対してレンズから約8cm(撮像面から0.18m)くらいは寄ることができます。

広角レンズはボケづらい、という側面もありますが、18mm F1.8でこれだけ寄れると背景をボカして被写体に注目させる撮影も可能です。

「LUMIXの魅力を最大限引き出すレンズ」へ

たまにチーム内で「レンズってある意味ではアナログなものだよね。」という話になります。オールドレンズが今でも使用できることが良い例でしょう。技術的な進歩はもちろんありますが、レンズが無ければ、どれだけカメラの性能が上がっても写真を撮ることはできないんです。

それほどまでにレンズは、カメラ、そして写真や動画を撮ることにとても重要な存在と言えます。レンズありきでカメラを選ぶ人もいるでしょう。実際にLUMIXのレンズを使いたいからカメラもLUMIXを選ばれたという声も増えてきています。

LUMIXのレンズは年々注目度を高めています。この記事も一つの良い例でしょう。なんせ、少し前まではレンズ開発だけで取材を受けることもなかなかありませんでしたから(笑)

過去にはキットレンズとしての価値しか見出されなかったレンズですが、今ではレンズとしてどのようにシステムの性能を引き出すかというマインドで開発が進められています。

時代に合わせてレンズが持つ価値があらゆる面で変わり、 LUMIXの歴史の中で今が最もレンズ開発に力を注いでいるフェーズです。そして、レンズを含めたシステムとして、LUMIXの価値をどう最大化するのか。この考えはLUMIXが誕生した当初から変わりません。

今回新発売となる「LUMIX S 18mm F1.8」も、エンジニア達のこだわりや想いが詰まった一本になります。LUMIX BASE TOKYOや販売店で、ぜひお手に触れてみてください。

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