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「記録」ではなく「記憶」。人の感性・感覚を画質に落とし込む、LUMIXの「主観的な絵作り思想」とは

こんにちは。

今回はLUMIXのエンジニアチームに「LUMIXの絵作り」についてお話しいただきます。

これまでにも「絵作り思想」という言葉は、いくつかの記事の中でご紹介させていただきました。

例えば、LUMIX magazineで初めて投稿された記事にもこのような一文が添えられています。

私たちが抱くフィロソフィー(哲学)の一つに「生命力・生命美」と言う絵作り思想があります。LUMIX G9 PROから本思想に基づきカメラを開発してまいりましたが、その結果、多くのクリエイターから「忠実な色を写す」「雑味がないクリアな発色」と評価をいただきました。

今回の記事では、そもそもLUMIXの「絵作り」とは何を定義しているのか、また、定義された絵作りに対してエンジニア達はどのようなアプローチをかけていったのか。

そういった、現在のLUMIXが表現する絵の根幹について、皆さんにも知っていただきたいと思います。

LUMIXの絵作り、それは「主観的」。

Panasonicはカメラメーカーとしての歴史は浅く、並み居る他社メーカーに比べ最後発と言えるでしょう。しかし当社には、デジタルカメラ黎明期以前からビデオカメラやプロ用映像機器を開発してきた経験があり、画像処理技術のノウハウが蓄積されていました。

つまり、絵作りを司るセンサーやエンジンと言った「デジタル技術」については長けているメーカーだったのです。

そんな当社が「絵作り」を考えたとき、付随して「画質」についても考えてみました。

ちなみに、当時絵作りについて共に考えていた有志メンバーは「絵作りの思想構築プロジェクト」と呼ばれていました。

画質は大きく分けて以下の2つに分けて評価されます。

客観的評価:ノイズや解像度といった数値で表せる指標
主観的評価:色合いや質感表現といった感性的な指標

LUMIXでは後者の「主観的に評価される色合いや質感表現」を「絵作り」と定義しています。

「主観的評価の絵作り」は、個人の感情や趣向により影響を受けるため曖昧さがあるとも言えるでしょう。だからこそ、写真や映像表現の印象を決め、カメラメーカーの重要な個性に成り得るとも考えています。

「記録色」から「記憶色」への変遷

デジタルカメラ市場に参入した当初、私達は「観たままを忠実に、被写体の色やコントラストを再現する」こと、つまり記録色に重きを置いていました。

しかし開発を進めていく内に、「空の青や山の緑の深さを、人の感覚や感性に基づいて表現する」こと、つまり記憶色であることが大切なのではないかと考え始めたのです。

この色表現は、3次元色コントロールと呼ばれる技術を画像処理エンジン(ヴィーナスエンジン)で処理しており、明度に応じて色相や彩度を高精度に調整することで実現しています。

記憶色を取り入れた絵作りは私達としても大きな挑戦でしたが、この試みは徐々に実を結び、クリエイターからのLUMIXの画質に対する信頼や評価へと繋がっていきました。

現場からの圧倒的信頼を得る「絵作り思想の統一」

プロの現場では必要に応じてカメラやレンズが様々に入れ替わります。しかし、機種によって表現される色や質感がバラバラだと現場確認での仕上がりや後工程にも影響が出るため、課題や不満を感じられているとの声が挙がっておりました。

カメラは、フルサイズであってもマイクロフォーサーズであっても、そして世代が変わろうとも、絵作り思想が統一されていれば、カメラが表現する作品に統一感を持たせることができます。

絵作り思想に指針を持たせたことは、LUMIXが表現する絵作りの統一にも繋がり、クライアントワークから作品制作まで幅広い現場で活躍するクリエイターから信頼を得ています。

「生命力・生命美」という思想

LUMIXは、「生命力・生命美」という思想を掲げています。

写真とは、言うまでもなく「静止画」「平面」ですが、そうした写真の背景にある命の営みや時の流れまで感じられる。そんな絵作りへの思いを言語化したものです。

命の営みが感じられる写真とは、生き物が今にも動き出しそうな躍動を感じ、息づかいが聞こえてきそうな錯覚を覚えるもの。そして、時の流れが感じられる写真とは、季節の移ろいや、そのモノが歩んできた歴史を想起させるもの。

命の営みや時の流れまでを表現する「生命力・生命美」という絵作り思想は、デバイスの進化やフォーマットの変化に応じて、今も尚継承されています。

次からは、実際にLUMIXの絵作り思想を具体化するために、エンジニアが起こしたアクションについてお話しします。

クリエイターの感性を紐解き、画質設計に落とし込む

現在、LUMIXは多くのクリエイターから「濁りのない白、キレイな黒が撮れる」「複数のLUMIX機を現場で使っても色味に差が出なかった」「息を呑むようなグラデーションが表現されている」というお声をいただいています。

しかしそこに至るまでの道のりでは、現在では統一・浸透している絵作り思想をカメラに落とし込むための、開発エンジニア達の泥臭い努力がありました。

少し前に記事でも触れていましたが、本記事では「主観的評価の絵作り」を形にするためにエンジニアが起こしたアクションについて、より具体的にお話しさせていただきます。

極寒の大自然で見た絵作りの光明

クリエイターは、極めて感覚的で抽象的に「表現」を語ります。開発時には多くのクリエイターにヒアリングを重ねますが、正直なところ言葉だけでは理解できないことがたくさんありました。

そこで私達エンジニアは、クリエイターの撮影現場に同行し、五感を研ぎ澄ませ、その感覚を現場で体験し理解するようにしています。

ある現場では雪山での撮影に同行しました。

現場は-20度の極寒。撮影の多くは夕方か明け方で、車中泊で移動しながら行われました。明け方は私達サラリーマンにとっては完全な勤務時間外ですし、日々開発にいそしむエアコンでコントールされた快適な環境とはかけ離れた、過酷なものです。

別の現場では、悪天候によって飛行機が着陸できず、空港に引き返す事態にも遭遇しました。天候が相手では人間の力ではどうしようもないと諦めて待つのかと思っていましたが、列車が運行していると分かるやいなや、寝る間も惜しんで撮影地に列車移動。同行させていただいた方は移動中の停車時間でさえも、外に出て雪化粧を施した列車や線路を撮影されていました。

このように寝食や撮影現場を共にすることで、彼らが表現しようとしている世界、そしてその熱量を体感することができたのです。

同行した白銀世界の撮影では、絵作りの基本である白という色の奥深さを学びました。

濁りのない白で撮る、白の中の白のグラデーションを表現できるように拘った画質設計はプロからの評価も高く、今もLUMIXの強みとなっています。

同時に、厳しい自然環境の中でカメラが正常に機能するか、寒さにかじかんだ手での操作に不便はないか、時間との闘いであるマジックアワーでの撮影で操作性のお困りごとが無いかなど、絵作り以外の部分でも得るものが多い、大変貴重な機会になりました。

人の感性や感覚を画質設計に落とし込む

いくつもの現場に同行させていただき、そこで掴んだ色彩や質感の感覚を画質設計に落とし込んでいくために、まずその「感覚」を数値化する必要があります。

イメージセンサーと画像処理エンジンを駆使し、いくつものパラメーターを微調整しながら、クリエイターの作例とこちらで用意した各機種のサンプルを比較して、グラデーションやディテールなどの要素をメンバー間で議論していきました。

実際に写真を捉えるのは視覚です。しかし、現場で感じた風の強さや香り、味、肌で感じる温度など、五感に訴えるものが写真から感じられるか?ということを見極めながら、画質設計に落とし込んでいきました。

写真から立ち込める湿度とは

フルサイズ市場参入時に、ある写真家から「マイクロフォーサーズとフルサイズの違いは、湿度感を感じるかどうか」という指摘を受けました。

霞が掛かった様な、消えゆく表現の事を湿度感と表現されていたようですが、やはり実際に目にしなければ具体的に何を指しているか分かりません。

実際に体感するために奈良の山奥へ雲海を撮影しに赴いたのですが、自然環境が相手だと思う通りに撮影が進まないことも、現場の厳しい現実。

そのため、こちらのケースでは写真家から「一番湿度感を感じる写真」をお預かりし、徹底的に分析することにしたのです。

分析した結果、湿度感とは「階調の滑らかさ」と「ディテールの情報量が豊富」という特徴があることが分かりました。

階調やディテールは数値化され、膨大なデータから画質設計に落とし込むことで、今日の「LUMIXの絵作り」を支えています。

ーーこのような試みの結果、LUMIX初のフルサイズ機「Sシリーズ」は完成しました。

絵作り思想に沿った画質設計とセンサーサイズの大きさの恩恵もあり、非常に豊かな階調表現で、消えゆくような湿度感を描けていると自負しています。

・現場に同行し、クリエイターの感覚を五感から吸収した
・プロの写真家が感じる「湿度感=階調とディテールの情報」を分析した
・クリエイターや写真家の感覚を数値化し、画質に落とし込んだ

このようにして、LUMIXの絵作り思想は具現化され、技術の進化に合わせながら今もなおカメラに落とし込まれています。

クリエイターの「主観=感性」を具現化したカメラ

最後まで読んでいただきありがとうございます。

LUMIXの絵作り思想は、主観的な評価に左右される色合いや質感表現に重きを置くことで、「クリエイターが感覚的に捉えていた被写体の魅力」をより一層引き立たせるカメラへと進化させました。

その進化は、多くのクリエイターの皆様のご協力はもちろん、ユーザーの目に見えないところで泥臭く活動するエンジニア達の努力があったからこそでしょう。

次回のLUMIX isでは「話題のあのレンズ」にもフォーカスを当てながら、レンズの光学設計に光を当て、開発チームや企画チームの面々から話を聞きたいと思います。

次回更新にも、ぜひご期待ください。

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