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「フルサイズを超えるマイクロフォーサーズ」を目指したエンジニア達の話

ーー 今回の記事では、先日公開された『歴代GHシリーズの企画担当が答える「GH6に5年かかった理由」』に引き続き、フルサイズを超えるマイクロフォーサーズ機に挑戦したエンジニア達にフォーカスを当てて、その裏話をご紹介します。

受け継がれてきたモノづくり企業のDNA

Panasonicは創業以来、家電を筆頭に様々な「モノ」を作ってきました。

その歴史の中で培われた「利用者の生活を快適にしたい」「使いやすい商品をお届けしたい」というモノづくり企業のDNAは、LUMIXにも受け継がれています。

LUMIXは、新シリーズを開発する際には必ずあらゆるクリエイターの現場に足を運び、現場での課題や要望の声に耳を傾けています。今回のGH6においても、撮影からポストプロダクションに至るワークフローのなかで見えてきた改善案を拾い集め、機能やスペックとしてGH6へと落とし込むことで、新たな進化を遂げました。

ここからは、各担当からGH6の開発に際してこだわった機能や視点をご紹介します。

マイクロフォーサーズでフルサイズ画質の領域へ

左:関東 弘明氏(センサー開発担当) 
中:岡本 晃宏氏(画質設計担当)
右:大須賀 恭輔氏(ソフト設計担当)

GH6は「マイクロフォーサーズ機でありながら、フルサイズに迫る画質を目指す」という目標で開発に取り組みました。

センサー面積が約4倍も大きいフルサイズと同等の画質を実現することは、従来の考え方では到底為し得ません。そのため、デバイス自体の構成を一から変えたイメージセンサーや画像処理エンジンを新規開発しました。

「ダイナミックレンジブースト」を例に挙げると、これは「低ISO回路から出力する飽和優先画像」と「高ISO回路から出力する低ノイズ優先画像」を合成してダイナミックレンジを拡張する機能ですが、これを実現するには既存のデバイスに比べて、膨大な情報処理が必要になります。

この情報処理を「車で荷物を運ぶ」ことに例えると、「車の台数(画素数)の増加」と「車の積載量(ビット幅)の大型化」をしながら「法定速度(読み出し速度)の高速化」もするようなもので、ほぼすべての要素の性能を同時に底上げしたセンサーやエンジンを開発する必要があったのです。

それは5年も要する困難な道のりでしたが、デバイスの大幅な高速化と同時に、感度・飽和・ノイズといった基本性能も向上させることができ、ハードウェア・ソフトウェアの両面における土台が整ったことで、従来のマイクロフォーサーズではできなかった性能を実現することができました。

雪国で目の当たりにした「白の世界」を再現する

LUMIXは「生命力・生命美」という明確な思想を掲げ、LUMIX全機種において統一した絵作りができるよう開発しています。

感性から来る主観の領域を「絵作り」と捉え、その感性に一歩でも近づくために技術者がクリエイターの撮影現場に同行させていただき、撮影者が意図する表現を、技術者自身も五感を通して吸収してきたのです。

例えば、ある撮影では極寒の北海道や八甲田で、車中泊をしながら過酷な現場に同行しました。その現場では「雪の白色や質感から肌を刺すような寒さが表現できているか」「白の中の白のグラデーションが描写されているか」が重視されていることを気づき、現場で体験した感性に照らし合わせながら技術者が画質設計に落とし込みました。

このように新センサー・新エンジンによる基本性能向上と蓄積されてきた画質設計のノウハウをGH6にも活かし、マイクロフォーサーズでありながら最大13+ストップという広いダイナミックレンジを実現しています。

心地良さを感じるノイズ感とフルサイズに迫る解像度

広いダイナミックレンジにより豊かな階調が実現されましたが、写真家が「この表現はフルサイズだからこそ」と感じる要素を更に分解すると、階調だけでなくディテールの情報量が豊富という特徴がありました。

マイクロフォーサーズはフルサイズに比べてノイズが多くなる為、ノイズリダクションを掛けることでディテールが消失しがちなのです。

そこでGH6では、新エンジンにより画像処理テクノロジーを進化させ、ディティールを残しながらノイズリダクションをかけるアルゴリズムを新規開発することで、静止画・動画ともに高精細な描写を徹底しました。

併せて、マイクロフォーサーズの弱点とされる動画の高感度画質も改善。

ある程度ノイズが残っていても、見る人が心地いいと思えるノイズの質感を意識しています。

ソフト処理としては複雑な工程を幾重にも重ねる大変な作業でしたが、画像解析による数値評価だけでなく、主観評価も重視し、最後は絵作りメンバーの総意によって判断して、納得の仕上がりになりました。

このようにして完成したGH6は、進化したセンサーとエンジンの性能を最大限に引き出した画質設計が狙い通りとなり「フルサイズにしか表現できない」と考えられていた領域に辿り着けたと考えています。

小型軽量ボディに積まれた最新性能

フルサイズ画質に迫るGH6ですが、マイクロフォーサーズである以上「小型サイズによる機動力」は妥協できない要素です。高性能な小型カメラを実現するために課題となったのは「放熱構造」「手ブレ補正機構」「チルトフリーアングル機構」でした。

ストレスフリーな撮影を実現する空冷ファン

北川 裕次郎氏 (外装設計)

動画撮影は負担が大きくオーバーヒートしやすいため、ハイスペックな動画モードを搭載したGH6では強力な放熱構造が必要になりました。そこで解決の要になったのが「空冷ファン」です。

実はフルサイズ機のS1Hで既にファンを搭載する技術はあったのですが、ボディのサイズもありGH6では当初ファンを搭載しない前提でシミュレーションをしていたんです。

しかし自然空冷でGH6の熱量を放熱しようとするとS1H以上の表面積が必要になると判明し、強制空冷ファン搭載における熱解析のシミュレーションを重ね、「C4k60p記録時間無制限」と「正面視でGH5と同等サイズ」の両立を実現しました。

ファン搭載にあたっては、ただファンを載せれば良いというわけではなく、音声記録に対するノイズ影響やファンの回転振動が本体に与える影響なども考慮しており、様々な工夫を重ねた上で最適な部品配置を導き出しています。

手ブレ補正も熱との戦い

左:櫻井 幹夫氏(手ブレ補正制御)
右:杉野 功明氏(手ブレ補正機構)

進化したセンサーは高熱を発するため、センサーが搭載されている手ブレ補正機構可動部にも放熱構造が必要になります。

そして、手ブレ補正機能ではセンサーを上下左右に自由に動かす必要があるのですが、放熱部材を取り付けるとその動きが制限され、手ブレ補正の性能が下がってしまいます。

そのため手ブレ補正については、熱伝導率と機構の動きの最適ポイントを割り出し、手ブレ補正の性能を上げる為に機構をスムーズに動かすことが重要です。

大変な工程にはなりますが、長年蓄積されてきたデバイス・機構・制御の擦り合わせ技術を駆使し、最終的には開発当初の目標である「ボディ内手ブレ補正、DualI.S.2ともに7.5段」というLUMIX史上最高の手ブレ補正と小型化を両立しました。

S1Hから継承されたチルトフリーアングル

チルトとフリーアングルの双方を可能とする機構は、S1Hで既に高評価をいただいていました。

しかしフルサイズ機に組み込まれた機構をマイクロフォーサーズ機に取り入れることはそう簡単ではなく、とはいえGH5の正面視はキープしてほしいと商品企画からも強い要望があったんです。

そこで、GH6にチルトフリーアングルを搭載するための機構を一から作り直しました。

S1H背面

S1Hではチルトの機構を液晶画面の上側に配置していましたが、そのままだと本体の高さが高くなり、GH5のサイズ感にできません。

どうしようかと悩みながら色々な構成部品を立体的に見ていると、GH6には液晶モニターと本体の間にわずかなデッドスペースがあることに気づきました。ファンを搭載することにより、液晶モニターと本体背面の間にどうしても避けられない僅かなデッドスペースが発生していたんです。

GH6背面

そこにチルトに必要な機構を組むことで、本体サイズに影響を与えることなく配置することができました。

フリーアングル機構はS1Hの機構を継承し、従来やや内側を向いていたモニターを180°開くようにしています。これにより側面にHDMIケーブルやUSBケーブル類を繋いだ状態でもモニターが干渉せず、対面撮影での微妙な角度のズレにも対応しています。

クリエイターの「これ欲しい」を一つずつ実装

堀江 悟史氏 (機種リーダー)

「フルサイズと同等の画質」「マイクロフォーサーズらしく小型で高性能」といった大きなテーマの他にも、クリエイターの皆様が活躍される現場からはより細分化された課題や要望をいただくことがありました。読者の皆様にも共感いただけるポイントも多いと思います。

再生したいところだけチェックできる

ある現場にお邪魔させていただいた時、スローモーション撮影で見せたい一瞬を確認するために確認不要なシーンから全て再生していることを目の当たりにし、「区間指定して、繰り返し再生できる機能」が必要だと感じました。

GH6は高速性能を追求しており、4Kであれば120pまで、FHDであれば300pまでのバリアブルフレームレート撮影が可能になっています。高性能な撮影をストレスなく堪能できるよう、リピートで確認したいシーンを、バーをタッチして指定し再生できる機能を追加しました。

ジンバルでもAFで撮影したい

ジンバルで人を追う撮影をする時は顔認識や人体認識を使ってAFを使いたいので、万が一の背景抜けを防ぐためにフォーカスリミッターが欲しいとの声を多くいただきました。

高価な望遠レンズやマクロレンズには、AF時にピントの合う範囲を設定できるフォーカスリミッタースイッチが付いています。

GH6で新たに追加したのは、それと同じ事を全てのマイクロフォーサーズ規格のレンズで制御できる機能です。この機能は、被写体が移動した時の背景抜けを防いだり、動物園の柵などの意図しない被写体にピントが合うことを避けるなど、様々なユースケースで活躍しています。

テロップのための目張りはもういらない

ある現場では、テロップを考慮して画角を決定するために、モニターにテープで目貼りをして撮影していました。

それを目の当たりにした私達は、撮影中に完成形の画角をイメージできる「フレーム表示」という機能に「カスタム」を新たに追加しました。

「カスタム」では、ダイヤルを操作することでフレームマスクの縦横比率を任意に設定でき、位置も簡単に指定できます。テープの代わりにも使え、イレギュラーな画角であっても完成形を確認しながら撮影できます。

他にも要望の多かった「ファイル名がシネスタイルの名前で保存される機能」など、撮影現場の声にこたえるべく、細部までこだわりぬいています。

あらゆる視点で進化した最高峰のマイクロフォーサーズ

最後まで読んでいただきありがとうございます。

GH6はマイクロフォーサーズの限界を超えるべく、センサー・エンジン・内部構成・ユーザビリティなどあらゆる所にこだわり抜いて進化させました。

しかしこれはまだ完成ではなく、ファームアップによる機能強化も着々と開発中です。これからも写真・映像文化の進化に対応し、私達自身も進化を続けながら、現場のクリエイターに寄り添い研究・開発を続けていきます。

今後も進化し続けるLUMIXにご期待ください。

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