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歴代GHシリーズの企画担当が答える「GH6に5年かかった理由」

こんにちは。PanasonicでLUMIXの企画を担当している香山です。

今回は、私が担当したGH6について、発売までの5年の歳月の中でどのようなことにこだわり、取り組んできたのか、お話しさせていただきます。


5年の沈黙を破ってお手元に

GH6は、その前モデルとなるGH5からおよそ5年をかけて2022年3月に発売された一台です。5年という歳月は決して短くなく、その間にLUMIXがフルサイズ市場にも参入していたことから「LUMIXはマイクロフォーサーズを諦めたんじゃないか」とお言葉をいただいたこともありました(笑)

実は、GH6の開発自体はGH5発売前から始動していたんです。それでも皆さんのお手元にお届けするまでに5年を費やしたのは、フルサイズ市場に参入したからこそ見えてきた「その領域でしか実現できない映像表現」をどうしてもGHシリーズで叶えたい。「マイクロフォーサーズでフルサイズの映像表現に近づき、超えたい」という想いが芽生えたからなんです。

そもそもGHってどんなカメラなの?

GH6に対して私達、商品企画と開発メンバーがどのようなこだわりを持って取り組んできたのか。それをお話しするためにも、まずは簡単に「GH」というシリーズの歴史についてお話しさせてください。

GH1:写真も動画も綺麗に撮れるミラーレスカメラ 
GH2:フルHD60fps対応ミラーレスカメラ
GH3:ALL-Intra/IPBのMOV形式に対応
GH4:世界初「4Kが撮れるミラーレスカメラ」
GH5:世界初「4K60p動画が撮れるミラーレスカメラ」

私は2009年に発売されたGH1から、歴代GHシリーズの商品企画を担当して参りました。GH開発当初は「静止画も動画も撮れる1台2役のファミリー一眼」をコンセプトに企画を進めていましたが、そんな思惑とは裏腹に、GHは「映像制作に適したカメラ」として徐々に世に浸透していきました。

今ほど動画撮影が当たり前ではない時代に、コンデジや家庭用ビデオカメラに比べてGH1/GH2はイメージセンサーが大きくレンズ交換もできることから、「背景がボカせる」ことにより映像制作の現場でも注目を浴び出したのです。

印象的だったのは海外で行われた映像制作業界のブラインドテスト。「映画制作にも使用されるような高価なカメラよりGH2の映像が優れている」と評価され、局所的ではありましたが、小さなデジタル一眼がシネマカメラと同じ土俵に上がることができた瞬間でした。

ハッキングされていったGH2による転換期

これは私達としてはどう話していいものかというのもあるのですが(笑)

今より10年ほど前、2012年頃に、映像制作市場でGH2のハッキングが横行したことがあります。映像ビットレートを高め、発売時より高画質化した撮影をするような方が界隈に増えていったんです。

もちろん、当社としては、それらは保証範囲外の話であり容認するものではありません。が、「家庭用に販売していたカメラによる本格的な映像制作」といった想定外のニーズがあるという気づきを得ることができました。

ここからGHシリーズは、ファミリー向けからプロユースにターゲットを変更し、GH3以降は「一眼による本格的な映像制作の世界へ挑戦する」方向へとコンセプトの軸を移していったのです。

このコンセプトの考え方が脈々と受け継がれ、GH6へと繋がっていきます。

GH6において私達が情熱を注いだ要素

GH6を開発するにあたり、5年の歳月をかけ、特に力を注いだ性能・特長が以下の4点になります。

マイクロフォーサーズを超える光と影への挑戦 (ダイナミックレンジ)
時代に合った映像表現に寄り添う(スローモーション)
クリエイターの自由度を高める(取り回しの良さ)
仕事でも趣味でも扱えるコストパフォーマンス(ターゲットに合った価格帯)

一つずつご紹介していきましょう。

マイクロフォーサーズを超える光と影への挑戦

GHシリーズはマイクロフォーサーズ機です。フルサイズよりもイメージセンサー面積の小さいフォーマットであることに対し、私達は「小型という理由以外でマイクロフォーサーズを選んでもらう」ためにはどうすれば良いかという想いを持っていました。

マイクロフォーサーズのセンサーサイズでありながらワンランク上のイメージセンサーフォーマットに迫る光と影の表現を実現したい。わかりやすく言うと、GH6をフルサイズのようなダイナミックレンジを持つマイクロフォーサーズ機にしたい。私達メーカー側すら当初感じていた「マイクロフォーサーズだしこんなもんでしょ」という感覚を覆したかったんです。

この想いは、LUMIXがフルサイズ市場に参入していたからこそ抱いたものかもしれません。企画段階でも高い難易度を感じていましたし、開発部門においても実現に向けて多大な苦労がありましたが、5年の開発期間の中で、GH6のダイナミックレンジブーストに辿り着くことができました。

時代に合った映像表現に寄り添う

昨今の映像表現において、YouTubeを筆頭としたSNSはプロ・アマチュアを問わず自身の世界観を形にして発信する場として多く選ばれているように感じています。

そして、スマートフォンの小さな画面で再生されることへの意識が高まっており、より多くの「いいね」を獲得するために、人とは違う映像表現を追求して作られたものが多い印象を受けています。そんな印象的な表現として多くのクリエイターに活用されているのが「スローモーション」です。

GH6では、4K画質で120fps、FHDで最大300fpsのスローモーション撮影を実現することで、手軽に高精細で印象的な映像表現ができることにこだわり開発しました。高精細な映像の高速画像処理を必要とする技術ですので、実は、この実現においても大きな苦労がありましたが、完成した映像を開発メンバーと内覧した際には、大きな感動と、達成できたことへの安堵があったことを覚えています。

クリエイターの自由度を高める

映像クリエイターにとって機材選びにおける「機動力」や「取り回しの良さ」は、欠かせない要素です。一昔前のビデオカメラのようなサイズ感では表現しきれない躍動感や構図の自由度は、交換レンズまで含めてコンパクトなマイクロフォーサーズシステムであれば、容易に叶えることができるでしょう。

しかし、スローモーションなどの新たな映像表現や、高度な映像処理に伴うカメラセットの発熱課題は深刻な状況でした。開発期間中は、まさに「サイズと熱との闘い」の日々だったのです。

その中でもこだわり続けたのは、長時間撮影に耐えうる冷却ファンなどを搭載しつつも、サイズ・重量感はGH5とほぼ同等を維持すること。

これらを実現するためにエンジニアには無理難題をお願いすることになりましたが、彼らは様々なアイデアや取り組みによって要望を叶えてくれました。

仕事でも趣味でも扱えるコストパフォーマンス

現在、映像制作を仕事にしている方はプロダクションの方だけではなくフリーランスや副業の方など多岐に渡ります。個人単位でYouTubeの番組撮影やMV撮影、舞台やウェディングの撮影を請け負う方も増えてきた中で、いくら高性能とは言え高級機材ばかりを揃えることは個人ではなかなか難しいのが現実でしょう。

性能としては進化しつつ、ワンオペで活躍されているクリエイターの方々にも手が届くコストパフォーマンスは現実的な要素として、こだわりを持って検討を重ねた要素でした。

流儀を受け継ぎGHは進化し続ける

クリエイターの皆様はいつも、私達の想定を超える映像表現で応えてくれます。

私達もその歩みに負けず、期待にお応えしていけることを意識してこれまでのGHシリーズを企画してきました。

GH6が発売されるまでの5年間には、壁にぶつかったことも幾度となくあります。

そういった状況に立った時も、私達は改めて「クリエイターに寄り添う」というLUMIXブランドとしての目的を見つめ直してきました。クリエイターの皆様へ現時点で最高品質と言えるカメラを届けられるよう、開発を含めた全員がそれぞれの情熱を持って取り組んでくれたおかげでGH6は実現されたと感じています。

目まぐるしく進歩する時代のニーズに応じ、常に従来の発想を超越する映像表現を可能にするカメラを開発すること。それがGHシリーズのイズムです。

GH6を超える新しいカメラの企画は既に始まっています。皆さんと共に進化していくGHシリーズに、今後もご期待ください。

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