メタモルフォーゼ

ぼくは海をみた。
それもよくある玄武岩と花崗岩が入り混じった黒い砂浜の海ではない。
白い砂浜の海だ。
美しい海だ。
透明な、だから碧い、
サンゴの死骸の細かく砕かれた、そこに横たわる壮大な海。

ぼくはその海に飛びこんだ。
泳げる。そう、泳げるのだ。
息つぎだってしなくていい。

透明だから、何もかもが鮮やかにみえる。
チョウチョウウオは黄玉のようにきらめき、イソギンチャクは魚たちを誘うふわふわのベッド。

ぼくは、それはもうとまらない歓びに、どこまでもどこまでも、海を泳ぎつづけた。

「あれはなんだ」
海と空のはざまにカラカラと音を立てるゴールド、反射、ふりそそぐ宝石、ダイヤモンド、クラッシュする、散らばる破片。

そのまま一つのひかりに集中する。

急にぼくは涙を流した。

そうか、ここは雨にうたれた花弁の中だ。
息ができるのも、きっとそのおかげだ。
頭の中がごちゃごちゃになったのは、
ぼくの中の海に、ゴールドが音をたてはじめたからだ。

その気配は、夏の訪れにとてもよく似ていた。

泣くだけ泣いて、花弁から滴る雫とともに地面におちたとき、それは穏やかな心もちでぼくは目をさました。


「ああ、夢だった」

とても長い夢だったような気もするし、とても短い夢だったような気もする。

呼吸のように必要だった夢のような気もする。

そうだ、必要だった。

ぼくは頷いてみせて、布団からからだを起こす。

それは七月の朝、碧い瞳のせみが透明な翅をふるわせたときだった。

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