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三上留実
2024年8月3日 11:36
Ⅰ.プロローグこいぬのしっぽのようなすすきが、ゆらゆら揺れていました。こぐまのルディくんはぼうっと、木陰に立ちすくんでいました。視界の端っこを、金色のひかりが通りすぎたような気がします。太陽は少し斜めに傾いで、濡れたような空気をぼんやり照らしていました。待ち合わせをしていたこいぬのカイくんが、小走りでこちらに向かって来るのが見えます。連日のように、ふたりはとある噂を耳にしていました
2024年8月3日 11:38
Ⅳ.大きな時計塔みんなが辿り着いたのは、大きな時計塔の前でした。ひかりのオコジョは少しそわそわしていました。「6時に着けばよかったはずだけど、」いくら待っても時計塔の時計の針は、5時59分から動きません。ルディくんもカイくんも、今までとは違うひかりのオコジョの様子に心配しました。「大丈夫?」ひかりのオコジョは何かを決心した様子でした。「仕方ない。時計塔の中に入ろう」真っ暗な時
2024年9月29日 14:37
その村では、動物たちはみな、ボンネットをかぶるしきたりになっていた。ボンネットとは、紐のついている帽子である。古くから婦人が好んでつけていた帽子だが、赤ん坊をドレスアップしたい時につけることも多い。顎の下で紐を結ぶことで帽子を固定する。風が吹いても、帽子が飛ばされることはない。一様にボンネットと言ってもいろいろなものがある。個性の表現としてつけている動物も多かった。よく晴れたその日、ひつじさ
2024年9月29日 14:42
村の誰もが、またいつもの通り雨だろうと思った。でも白い雨は夜になってもやまなかった。一日経っても、二日経っても。とうとう白い雨は一週間降りやまなかった。産婦人科病院では、雨粒が窓を叩く音を聞きながら、ボーダー·コリーさんは頬杖をついていた。ひつじの赤ん坊を見守る役目を任されていたのだった。少し考えごとをしはじめたとき、病院の黒電話が鳴る。「はい、もしもし。産婦人科病院です」それは、聞
2024年9月29日 14:45
白い雨はとつぜんやんだ。そのあたたかい風が吹いた朝、どこからともなく黒い羊の群れがやってきた。薄く靄がかった牧草地を、もくもくの毛を踊らせて駆け巡ってくる。それは、大量の羊毛の発注に怒った、遠くの村から来た羊たちだった。群れの中の一頭の羊の背中の上で、ひつじの赤ん坊はすやすや眠っていた。ひつじさんは、小高い丘の上からその光景を眺めていた。それは、まさにひつじさんが夢で見た黒い羊だった