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記憶の片隅に在る言葉たち

「結婚したみたいだよ」

帰る前に大学時代の友人が言った。付き合って4年。別れて5年。哀しくはなかった。彼が幸せでよかった。心からそう想った。

彼は私を一度振った。繋ぎとめて最後は私が振った。あの人にだって同じことをした。どれだけ最低な人間なんだろう。自分だけが傷つきたくないなんて、この世界で一番の我儘だ。だからもう二度と恋なんてしない。

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「心に残り続ける瞬間とか、ふとした時に美しいと感じる景色とか。それは目に見えない人たちからのメッセージなんじゃないかって」

2年前、京都を旅していた時、偶然知った画家さんの展示が東京で開催されたので足を運んだ。ご本人が話しかけてくれた。静かで若い男性だった。知った経緯を話すと嬉しそうに笑ってくれた。作品への想いも熱く話してくれた。

心地よい声だった。ずっと話していて欲しいと思った。次第にこのひとはどんな風に女性を抱くんだろうと考えていた。言葉を必要としない時間を過ごすのなら、素敵な男性だと想った。地下と地上が混ざりつつある私は何処へ。

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「私たちのふつうは他の人たちにとって "ヤバい" んだって。ヤバいって、すごく痛い言葉だったよ。ねえ、私はどうしたらいい?」

そう泣きじゃくったら39.6度の熱を出した。いつも夢に出てくる同級生の男の子が現れた。40歳になったら私は彼のもとへ行く気がした。だって彼はちゃんとお医者さんになったのだ。

私の身体、まだ使えるであろうものたちを、彼は無駄にしないでくれるかもしれない。ぐるぐる回る頭の中でそんなことを考えていたら、安らいでいった。夫はうどんを買ってきてくれた。美味しくて虚しくて、涙がこぼれた。

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