見出し画像

日本語の間と空気を存分に感じる〜ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」

松たか子に松田龍平、そして脚本が坂元裕二とくれば「カルテット」!!と条件反射してしまうけれど、違う。新しいドラマはフジテレビ。

※以下ネタバレも含むので、「録画したまま見てないし、これから楽しみたい」または「ネタバレ好きじゃない」方はご注意ください。また見逃し配信はTverでは明日まで無料。毎週火曜夜9時放送中。

とわ子と三人の元夫

まずは序盤、大豆田とわ子(松たか子)について紹介される。いわゆるお1人様が平気なシングルマザー。社長に就任して間もない会社はこだわりの注文住宅が人気の「しろくまハウジング」。社長になったことで、うっすら孤独感も噛み締めるけれど、まずまず恵まれている仕事環境。

ただ、別にこれから1人で生きていく、愛なんていらない、と決めたわけでもなく、調子の悪いお風呂や、外れそうな網戸と格闘している時なんかは、ふと誰かと一緒だったら、と考えてしまう日もある。

そんな大豆田とわ子は3回離婚歴があり、当然3人の元夫がいる。何かにつけて周りをうろちょろする元夫に未練など一ミリもないのだけれど、何だかんだと頼られてしまうとわ子。

まずは1番目。田中八作(松田龍平)。最初の夫にしてとわ子の1人娘の父親。優しいし、器用なたちだけれど、何となく女にだらしない、のかな?

そして2番目。佐藤鹿太郎(角田晃広)。2番目の夫でフォトグラファー。悪い人じゃなさそうだけど、三枚目? ちょっと残念なキャラクター。とわ子に一番未練がありそう。

そして最後、中村慎森(岡田将生)。しんしんって可愛い名前だな、なんて思ってると足元を救われる。とわ子の会社の顧問弁護士だけど何かと細かくて理屈っぽくてうるさい。弁護士としては有能、かと思うけどちょっと空気読めないところあり。憎まれ口を叩くけれど、実はとわ子に未練あり?

このクセモノ揃いの3人。とわ子の方には未練はないけれど、顧問弁護士だから慎森には顔を合わせる機会は多いし、八作は何より娘の父親、なぜか鹿太郎は周りをうろちょろしてくる始末。連絡など取りたくはないけれど、必要に迫られて、話をする事になる。それは先日亡くなったとわ子の母親にまつわる事情だった。

とわ子の、恋?いきなり?

母親を失って、家族と呼べる人は娘だけ。ふっと孤独が忍び寄るとわ子の目の前に、何と漫画の主人公みたいなヒーローが現れた!(斎藤工)。

映画みたいな、漫画みたいな、ドラマみたいな(いわゆる嘘みたいな)出会いをし、青春みたいに夜中ずっとメッセージを交わして取り付けたデートは、とわ子にとっては久しぶりのワクワクな予定。

真摯な彼と素敵なレストランでデート、この後観に行くのは映画「最高の人生のはじまりと見つける幸せなパン」

胡散臭い、寄せ集めすぎる、そんなにトピックスだらけのストーリー、確実に胸焼けするぞ、と思っていたら案の定。彼がいわゆるデート詐欺師であることが発覚するのだ(よく行くレストランなのだろう、店員がそっと告げ口のグッジョブ)。

ヨレヨレのとわ子に襲いかかる次なる試練は仕事面でのトラブル、ようやく片付いた頃には夜も開けた、あぁ疲れたな、空を仰ぎ見るとわ子に訪れた次なる試練は・・・ズブズブ泥まみれのわたし。

そんな時に声をかけてきたのが八作。とわ子の元夫、弱ってる時に最も会いたくない元夫という人種。ただ一番気楽な仲であるのも事実。

1番目ととわ子

八作に導かれるように思わずついていってしまうとわ子。用意されていたのは、あったかいお風呂、そしてふわふわのタオル。思わず湯船で高らかに鼻歌を歌い上げるほどにとわ子は身も心もほぐれていくのを感じてしまう。

風呂上がりには「柳川風うどん」が目の前に。そう、八作は勤めていた会社を辞めて友人とともにレストランを経営していたのだった。そっか、この人は優しい人だった。とわ子は懐かしく思いながら、うどんをすする。

ここからの2人の会話が私、この日一番染みました。海外のドラマなどを見ているとぶつかるのが「文化と言葉の壁」。ネイティブを心得ていらっしゃる方が字幕を読むと独特な言い回し、字幕に収まらない長ゼリフ、文化的なことを背景にした表現、単純な言葉遊び、日本語に直すときに分かりやすくが表現によっては気になるってこと確かにあるに違いない。
その分、日本語は本当にストレートに何もかもが一度にじわんと染みてく感じが、まさに心にしみじみと分け入ってくるのだ。

会話の妙、一字一句(ではないかもしれない)

ヨレヨレで泥まみれになってしまったとわ子は洋服を一旦洗い、乾くまで八作の家で待たせてもらうことになった。

その間に風呂に入り、うどんを食べるわけなのだけれど、「乾いたかな」「まだ乾いてないんじゃない」「もう乾いたよね」とどちらからともなくどちらも言い出している。けれどその度に、何となくもう片方が話を始めて何となく会話がスタートし、また帰るのが先に先に伸びてしまう。結果的にとわ子はこの日、八作の家に泊まることになるわけだけれど、この流れが実に面白かった(正確に拾ったつもりですが会話に誤りがある場合はお許しください)。

とわ子の乾いたんじゃないかな、に八作「そっちは(最近)どうなの?」と淡々と切り出す。とわ子は色々あったこともあって、まぁね、そんなにうまくいかないよねみたいにゆるく、良くも悪くもない現状を返す。そして八作の膝枕に寝落ちしてしまった瞬間パッと意識を取り戻した。その間数秒。

見上げた先に1番目の夫の顔がある。八作がそこでそろそろ乾いたんじゃないの、と切り出す。そうするととわ子が「布団がね、」と話し始めた。

とわ子「見たの、風で吹っ飛んだの」。いきなり何を、戸惑う八作。

とわ子「あ、布団が吹っ飛んだって」

八作「(笑)・・・いつ?」

とわ子「お母さんのお葬式の帰り」

八作「・・・・」

とわ子「布団が吹っ飛んだんだよ」

八作「そうだったんだ」

とわ子「うん、ダジャレって現実に起きることあるんだね」

八作「そっか」

とわ子「うん」

八作「ありがとう、教えてくれて」

とわ子「良かったのかな、教えちゃって」

とわ子はこの前ダジャレみたいなことが起こったんだよ、本当に起きるんだね、と言っている。終始そのことを言っている。けれど、本当は八作に母親が亡くなったことを伝えている。八作の「そうだったんだ」は母親が亡くなったことに対するものだけれど、字だけ見れば布団が吹っ飛んだことに対することに見える。

2人の会話に何ら緊張感がなく、何のかしこまり度もなく、気負いなく何気なく温度は伝わっている。

改めて伝えていいものかどうか、とわ子は母親の死をまだ少し実感できていない状況ゆえに余計にわからなくなっていた。ただ、母親は八作のこと、他の2人の元夫のことも息子のように思っていた。だからいつかどこかで、3人に伝える、きちんと供養する、その糸口を見つけなければ、そんなことをぼんやり思いながら日々を過ごしてきただろうことが伺える。

そう。これぞ、日本ドラマの醍醐味。

会話がすれ違っていないようで、微妙に変化して、落ち着くところにふっと沈んでいく感じ。本当に、いい。

そして八作もお返しにとわ子に伝える。とわ子の母親から言われていたことを。ただし、とわ子は眠ってしまって聞いていなかったけれど。

これからのとわ子

個性的な3人の面々と、ちょっとしたとわ子の現状を伊藤沙莉のナレーションが淡々と包んで物語は終わる。

とわ子の癖の強い友達として市川実日子が出演。そしてラストでは元夫の目の前にそれぞれ訳ありっぽい美女が3人現れる。んー、恋の予感?

どんなふうに今後が展開していくのかわからないけれど、別に1人でいると決めたわけではない、仕事のできる女として社長にまで上り詰めたけれど、それで目一杯幸せかって聞かれるとそうでもない、かもしれない。けど仕事はちゃんとやるし好き、けどそれだけに全てを捧げるってわけでもない。

結婚に夢はもうなくなっているだろうけど、唯一の頼れる家族を亡くしてちょっと気持ちがすうすうしてきた1人の女性が、一時は結婚を覚悟した男たちに何やかやと振り回されながら過ごしている、そんな日々を描いていく、のかな。

もちろん女の幸せは結婚だけではない、仕事だけでもない。仕事も恋もなんて、流行りの恋愛ストーリーでもあるまいし、そこまで力が入りまくっているわけでもないんだけど、やっぱりないよりあったほうがいいよね。でも仕事も恋もしたいなんて欲張りだな、なんて女じゃなきゃ言われないことでもあるよね。

肩肘張って、必要以上に色気出したり、必要以上にパワフルでなくても女は幸せになれるんじゃない?そんなテーマが見えてくると楽しくなってくるかも。

個人的には岡田将生演じる慎森がこじらせすぎて一周回って可愛い気がする・・・あくまでも個人的には。

※画像は公式HPよりお借りしました



この記事が参加している募集

サポートをいただければ、これからもっともっと勉強し多くの知識を得ることに使います。