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本との出会いを求め、私は今日も本屋に行く

先日、この本を読んだ。

荻窪という土地で、「Title」という本屋さんを営んでいる辻山良雄さんの、サラリーマン時代から個人で本屋を立ち上げるまで、そしてその後を綴った「どうやって本屋を作り、今どうやって維持しているか」を紐解いた後進にもわかりやすく説明した実用書兼エッセイだ。

今は紙の本はネットで買える時代。電子書籍の台頭もあり、町の本屋はどんどん閉店に追いやられている。それは大型書店も例外ではない。

先日も、静岡駅前で広々とした売り場面積を誇っていた戸田書店(葵タワー内)が閉店。在庫を抱え、整然とした売り場を持ち、日々発売される様々なジャンルの書籍を捌いて販売し、来店するお客様のニーズに応える書店。スマホ片手にクリックすれば翌日には自宅に配送される、あるいはスマホ自体に収まってしまう現代の「読書スタイル」に打ち勝つには、本屋さんには実物を手に取れるからこそ、売り場が実在するからこその差別化が求められる。

欲しい本がはっきりしていて、中を確かめるまでもなく購入意思があるとするならば、ポイントがつく、出かけなくても良い、というネット販売にどうしても軍配が上がってしまう。

ただ、なぜ人は本屋に行くのか。それは「本に出会いたいから」に他ならない。

・気になっていた雑誌の隣に置いてある書籍にふと目が留まった
・表紙が目に止まった文庫本を何気なく手に取ったら、どうしても読みたくなった
・本屋さんがオススメと書いてあったので
・そう言えばこれ気になってたんだった

という経験はないだろうか。本屋はお目当ての本の有無はもちろんのこと、そのついでに新しい出会いがある、場合があるものだ。

そしていつからだろうか。この本を書かれた、「Title」さんのように、町の本屋とはまた一線を画す、こじんまりとしているけれど個性があふれていて、オーナーのコンセプトが感じられるこだわり本屋さんがちらほら登場し始めた。

そのさきがけ、そして頂点に立つと私が勝手に思うのが、京都にある「恵文社一乗寺店」。ここは京都駅前や四条など賑わいを見せる界隈からは電車を乗り継いでしかたどり着けない、一乗寺駅近くに店を構える。

バスで行ったとしても、決してアクセスが良いわけではない。

ただ「わざわざそこを目指して行く」という高揚感も手伝って、初めて行ったときには「けいぶんしゃ」と書かれた古びた看板を見ただけで感動した。行く前から期待は充分膨れ上がっていて、実際に訪れた際にもその期待を裏切らない、佇まいや品揃えに震えた。
棚の間をくまなく歩き回り、普段訪れる書店とはまた違う配列に唸る。見たことのないリトルプレスに心が躍る。じっくり時間をかけて回りたい、そんな店構えなのだ。

近いところで、名古屋の「ON READING」さんもぜひ挙げておきたい。

こちらは地下鉄の駅からはアクセスはいいものの、名古屋最大の駅である名古屋駅からは15分ほど電車に揺られる必要がある。

ただこちらも雑貨と本がバランスよく並べられていて、見るのに飽きないし、店奥で時折行われるエキシビジョンも興味深いものが多い。これを目当てに訪れたことも数回ある。

何より街の雰囲気が良いし、このお店が入っているビルがこの本屋さんにすごく合っていて発見するなり非常にテンションが上がる。同ビルに入っているカフェもぜひ一緒に立ち寄りたい。

そして大阪にある「toi books」さんも近くに行った際には覗いておきたいところ。

こちらも駅から決してアクセスが良いとは言えないけれど、味のあるビルの中、奥の奥にたった5坪。新旧織り交ぜたラインナップが取り揃う。ベストセラーだけじゃなく、面白くてちょっと特別なものが読みたい、と言ったクセのあるものを求める方のニーズにもさらっと答えてくれる懐の深い書店のように思う。

そして「町から本屋が消える」という現実に対し、憂いているばかりではなく新しい試みとしてチャレンジをし続けている本屋「誠光社」さんも頼もしい存在。

こちらも間口が決して広いわけではないけれど、店内はギュッと詰まっていて本たちが肩を寄せ合っている印象。一度だけこちらで行われたコラージュのエキシビジョンに行きたくて訪れたけれど、こじんまりとした展示でとても良かった。

この誠光社さんも、本の著者「Title」の辻山さんもおっしゃっているように、書籍の流通経路や慣習にはおいそれと個人が手を出せない高い壁が存在しているとのこと。

ある程度売上として見込みたいのが、売れ筋である新刊と定期的に発行される雑誌の類。それ以外にオーナー独自の目線で選んだ本や定番のジャンルのものを仕入れるとなると、まとまった仕入れ資金と出版社に繋がる取次のルートを開拓しなければなかなか難しいそうだ。

この辻山さんはもともとリブロという大型書店チェーンで会社員として働いたという実績がある方で、その辺りの流れについては知識がある方だった。

そう言えば、辻山さんも働いた経験のあると語っていた名古屋パルコにあったパルコブックセンターは昔は大好きな場所だった。

行けば必ず面白い本に出会える。

その確信があり、毎回ハズレなしに面白いものに出会えた。近所の本屋では決してお目にかかれない類の本がザクザク見つけられた。

買い物やコンサートなど、名古屋に行くたびに必ず立ち寄る時間を確保していたものだ。ただ後半のほうはちょっと雰囲気が変わってきて、他の大型書店に似通ってきたしまったという残念な記憶もある。

本屋が好調で、売り上げが右肩上がりだった時代には品揃えにある程度の自由度は認められていたのだと思うが、情勢が厳しくなればなるほど、挑戦よりもより確実な方を取らざるを得なくなる。

辻山さんは、リブロでは一番の面積と売上を誇る池袋店が撤退するタイミングで会社を退社し、自然な流れで書店を営む道を選択する。

限られた資金の中で四苦八苦する模様や、書店を立ち上げる時に失敗したとところ、用意しておいた良かったもの、工夫すれば金額を抑えられるところ、余すところなく書かれていて、読み応えのある一冊になっていた。

文庫の増補版にはオープンしてから5年経過した様子も付け足されている。

立ち上げまでを本で追体験したこともあり、今度東京に行ける日が来たのならば、立ち寄りたいお店候補のひとつに付け加えようと思う(併設のカフェも気になる)。

本屋に行くのが好きな私でも、やっぱり時折ネット通販に頼ってしまう。本屋の袋が有料になってしまったこととこの自粛ムードが不振の向かい風にならないと良いけれど、と願うばかりだ。

こんな風に本屋立ち上げの話を淡々と読み進めていたら、随分昔に買ったこの本を思い出した。

「カフェをはじめたくなる本、カフェをやめたくなる本」

出版が2002年と書いてあるから、かれこれ20年くらい前の話だけれど、本棚をあたったら出てきた。この本だけは捨ててないと思ったんだよな。

カフェブームの象徴店の一つ、表参道「デザートカンパニー」のオープンからクローズまでを綴った本。

改めて読むと、日本で最初にタピオカミルクティーを出したカフェなのだとか。時を超えてまた別の形でブームになっているメニューがある。感慨深い。

次はひと頃のカフェブームについて語ろうと思う。青春ど真ん中だった故に、思い出もたくさんある。

乞うご期待。

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