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あの頃の私よ、この姿よ見よ。映画「愛がなんだ」

今泉力哉監督の映画「愛がなんだ」を観た。(アマプラで視聴可能)

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山田テルコ(岸井ゆきの)は友達の友達の結婚式の二次会で、同じように所在なさげにしていた田中守(成田凌)通称"マモちゃん"に出会う。それからの生活はマモちゃん一色になったテルコ。仕事も手につかず、スマホ片手にマモちゃんの気まぐれな誘いに待機する日々。
友達から呆れられても、確かな約束がなくても大丈夫。そう思っていたけれど、久しぶりの連絡がきたと思ったらマモちゃんの隣にはヘビースモーカーで酒飲み、ガサツで肌荒れもひどい女すみれ(江口のりこ)がいた。

これ、テルコを見ていて青春の古傷が痛むひと多いのではないだろうか。もしかして今まさにそういう状態の人も。

冷静に見るとわかる。ああテルコちゃん、マモちゃんは絶対あなたを選んだりしない。大人の恋愛だって、ちゃんとケジメってものがある。適当に会いたい時だけ呼び出して、用がなくなったらじゃあねって手を振ってくる。寂しい時に温めてって手を差し出してくるけど、ちょっと嫌なことあったら途端にポイってされる。それに素直に準じているから、文句言わないからあなたには価値があるんだって。

だからちょっと反論したら、ほら冷たくなって連絡も来なくなったでしょ?

あぁあの頃の私に言ってあげたい。来るか来ないかわからない約束に、帰りどきがわからなくなってあと10分、あと30分ってずるずる待ってやっと会えたのに、時間ないからってすぐ帰される。会社の人に見つかりたくないからって助手席でもひやひやさせられる。しばらくぶりで会いにいったのに、気合い入れた格好も化粧も髪型も全然見てくれない。挙句に、未練たらたらに漬け込まれて、変なもの売りつけられた。

渦中にいると気持ちがわけわからなくなる。好きだから、大好きだから、おかしい態度も連絡取れないことも何もかもいいようにしか考えられない。自分で自分を大切にできないのに、褒めて!見て!好きになって!って、その人からされること言われることを必死で噛み締めていい味だねって微笑んでいる。

ついにテルコは思う、「マモちゃんになりたい」

愛とか恋とか何だよ。そんなのふわふわ浮ついた能天気なお遊びでしかなくて、挙句にみんな現実見て冷めてんじゃん。それに引き換え私はずっと夢の中。地に足が付いた芯のある女とか、なりたいわけじゃないしね。

そんなテルコに呆れながらも、友達として一番心配している葉子(深川麻衣)。彼女自身、愛人として男に人生を捧げている母親を冷めた目で見ていて、恋愛に臆病な一面が垣間見える。

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そんな葉子を慕う仲原くん(若葉竜也)は、テルコと同じく曖昧な関係に甘えているカメラマン。彼は葉子の癒しでありたいと献身的に尽くすが、偶然話すことになったすみれからの一言で、ふっと自分の姿を冷静に考えてしまう。

テルコと共に、寂しい隙間を何とか埋める手立てを考えあぐねて過ごしてきたけれど、葉子に寄り添うことはお互いのためになっていないのではないか。

そう、仲原くんは多分限界に来ている。相手が幸せならそれでいいじゃん、愛ってそういうもんじゃん、って誰かが言ってた。その言葉にすがって言い聞かせてきたけど、多分自分はそうじゃない。誰かに指摘されると自分のぽっかりと空いた穴にびゅうびゅうと風が吹き込まれるみたいに、報われない気持ちのほうを考えてしまう。

付き合うって何だろう、責任をとるって何だろう、そもそも愛って何だ。

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テルコはそれでも守る。マモちゃんに呼び出されたら駆けつける自分、マモちゃんがキスしてきたら拒まない自分、抱きしめられたら抱きしめ返す自分、もちろん帰れと言われたら帰るし、来いって言われたら行く自分。エゴは出さない、マモちゃんのしたいようにさせる。それが自分なのだと信じている。

行く宛のない彼女の気持ちは、マモちゃんが優しく微笑むすみれさんごと宙に浮いてふわふわしている。誰もが自分本位で、誰もがワガママ。愛ってそういうもんでしょ。他人がどうこうできるもんじゃないし、他人が何を言っても届かない。

そう、愛ってそういうもの。

テルコは今日も誤魔化している、缶ビール片手に酔っ払った頭でマモちゃんが幸せになれれば、それでいい、と所在ない気持ちを無理矢理カタづけている。

私のどうしようもない恋は、ある日突然神の啓示みたいに「アホらしいな、これは」とうっかり気づいて終わりを告げた。途端にすごく楽になった。
虚しい想いを抱えるのは息苦しいものだ。でも無理に手放したら息もできないくらい酷くなることを予感しているからそれもできない。自分で決めないとダメなのだ、こればかりは。

恋に落ちるのは一瞬で、気づいたらそうなっていた、なのだけれど想いを断ち切るのは、気づいたらとか、いつの間にかは通じない。自分でちゃんとケリをつけなければ、また元に戻ってしまうだけなのだ。

手放したい恋、疑問に思う恋、忘れられない恋の渦中にいる人にはぜひ見てほしい。今のあなたの姿が俯瞰で見られるに違いない。

※画像は映画.comさんのHPよりお借りしました




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