見出し画像

「オレンジ色のひと」ー詩―シロクマ文芸部#花火と手企画応募

花火と手が 差し出された日の
出来事は決して 忘れない
あの人にあったのは
夏の夕暮れ時だった
ボクは 小川の岸にすわり
ボンヤリと 黄金色の水面を
飽きずに 眺めていた

赤とんぼが 夕焼けを
切り裂きながら 飛んでいる
そのうちの一匹が
ボクの肩口に 止まった気がする
首を回してみたが 何もいない

周りは オレンジ色に染まりだす
突然 水面が 紅色に光り
その人が ボクの横に座ってた

ツバ広な ストローハットを被り
ブルーのバックリボンは 風になびく
柔らかなコットン地の
オレンジ色ワンピースが 夕陽に似合う

「こんばんは 今日も終わっちゃうわね」
ボクの方を見ずに その人は突然 喋りかける
ちょっと 戸惑いながら 頷くボク

「夏も 南に帰っていく。
私も もうすぐ 南へ旅するのよ」
その人は 白い歯をキラキラさせ
ルージュの唇で 笑い ボクの目を見る

「バカンスに行くんですか?」とボク
「そうね 故郷への戻りたいの」

そういうと 白く長い指で
ボクに花火を 差し出してくれた

「ねぇ お願いがあるの
一緒に 花火遊びしない?
一人花火は なんだか寂しくて・・・」
ボクはまた 唐突を驚きながら
笑って うなづいた

あの人が 持っていたのは
線香花火の ようだった
火をつけると 夕陽色を巻き込んで
小さな火花が 小刻みに燃え上がり
火の粉が 水の上を うれし気に走る
不思議に 煙は上がらない
七色に光の粒が 細かく
次々と 空中で踊る

あの人の瞳には
花火の舞が 映っている
気が付くと 赤とんぼの群れが
集まってきて 周りを ツーツーと飛ぶ

花火は 終わらない
いつまでも 夕陽を追いかけるように
燃えて 輝き続ける
日没が迫る頃 やっと花火が燃え尽きる

あの人は 深いため息をつき
「ありがとう。 これで
この夏も 華やかに 彩ることができたわ
また 来年の夏も 会いたいわね」と
静かな口調で つぶやく
小川のせせらぎが 子守歌を
小さく歌い始めてた

直後に ブーーンと小さな羽音がして
あの人の姿は 暗闇に消えてしまった

ボクは 花火の燃えがらを
握りしめていた
よく見ると それは 小さな扇子で
赤とんぼが ススキの穂に
止まっている絵がかかれていた

扇子は ボクの部屋に今もある
何年経っても 色あせることがなく 
貰った時の儘の 夕陽色だ

小牧幸助さんのシロクマ文芸部#花火と手」企画に
参加させていただきました。 小牧様どうぞ
よろしくお願いいたします

#夏の思い出 #シロクマ文芸部 #花火と手 #小牧幸助さん
#賑やかし帯   #詩 #Poetry #lyric #抒情詩 #赤とんぼ
#線香花火 #立山  剣


この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いいたします。いただいたサポートはクリエーターとしての活動費、制作費に使わせていただきます