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社長氏との会話(2)

サムネイルは、AIに、村田蔵六を描いて、とお願いしたもの。いい感じだけれど、全然違う。

まだ勤め始めて間もない頃は、事務所は閑散としていて誰も寄りつかず、社長氏と話すことは殆どなかった。
たまに事務所に来た社長氏と、話すことはあっても、揚げ足取りばかりする人で、例えば
「○○ですよねぇ」
というと
「そんな訳ないよ。何言ってんの、馬鹿じゃないの」
と返してくる。
本人曰く、
「当時は野良猫だった」
とのこと。
今は結婚して、奥様に飼い慣らされて、丸くなった。

嫌な人だなぁ、と常々思っていたが、事務所にいれば、会話しないわけにはいかない。
下らない話だと、馬鹿にされる。
そこで、元ネタは漫画でありながら、内容は高尚に思える話をした。
村田蔵六、後の大村益次郎は、元は片田舎の村医者だったのに、時代の流れに押し流されるようにして、戦略の才を発揮し、明治維新で大きな役割を果たした人である。

村人に「暑いですね」
と挨拶されると
「夏は暑いのが当たり前です」
と答える非常識なエピソードも有名だが、緒方洪庵の適塾でトップになるほど頭が良く、あちこちの藩に招かれて科学的な指導をした。
醜男だけれど、シーボルトの娘であるイネとの秘めた恋があったのではないか、という憶測があって、司馬遼太郎の小説「花神」にも、二人の人生が時折交わる様が描かれている。

というような事を語っていたら、社長氏がおもむろに、自分の鞄から「花神」を取り出した。
あの時ほど、驚いたことはない。未だに驚いている。

社長氏は、上野での彰義隊との交戦について語り始めた。
違う。
萌えポイントが、私とはズレている。
確かに、遠眼鏡で戦いの様子を見ながら、
「あと○時間で戦いは終わります」
などと言い当てたエピソードはすごいけれど。

「AI、大村益次郎を描いて」

※大村益次郎(村田蔵六から改名)は、額が突き出ていて、火ふきダルマ、というあだ名をつけられていたというから、AIが描いてくれる画像はどれも本物からほど遠い上に、リクエストを出せば出すほど、酷くなっていくので、「大村益次郎」で検索していただいた方が良さそう。

「AI、額が広くてぎょろ目の侍を描いて」

村田蔵六は、最期に、襲撃されて重傷を負った。東京から大阪へ、イネが駆けつけて看病するが、敗血症で死去。
入院して、足の切除手術を受けたというから、他にもたくさん医者はいる環境だったのに、わざわざ遠方から駆けつけたということはやっぱり、イネには蔵六に対する思慕があったはず。
司馬遼太郎も、そこに重点を置きながら「花神」を書いたんだと思うんだけれど、イネの存在は、社長氏にはあまり認識されていないようだった。

その後も社長氏は、蔵六の話が出るたびに、彰義隊の話をするようになったけれど、戊辰戦争はまだ漫画には出てきていないので、適当に流している。

漫画「風雲児たち」の作者、みなもと太郎先生はその後亡くなって、彰義隊との交戦が漫画で描かれることは、ついになかった。
歴史物でありながら、ノリツッコミ満載の、吉本漫才風の独特な漫画で、他の誰かが続きを描くことは難しいだろう。
非常に残念。


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