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読書感想文「サルデーニャの蜜蜂」

私は、エッセイが好きなのだが、
外国を旅した人のエッセイや、外国で暮らしている人のエッセイを読むことも大好きだ。

ツアーで短い期間に旅しただけでは分からない、
現地の風習や、人々の暮らしについて、覗き見ることが出来るのは、エッセイならではだと思う。

本屋さんでたまたま出会って惹かれた本があった。

内田洋子さんという方が書かれた、
「サルデーニャの蜂蜜」という本だ。

イタリア暮らしが長く、ジャーナリストでもあった著者による、現地のニッチな部分を描いたこの本は、私がイメージを描いていたイタリアとは違う一面を見せてくれた。

明るく陽気なイメージのあるイタリア人だったが、陽の部分だけではなく、ゾクリとするような陰の部分も描かれており、1つの国が様々な顔や奥行きを持っているということを、改めて気がつかせてくれた。

ここで、私が個人的に、心に残った文章を記しておきたい。

イタリア男性の着こなし術は、ブランドを主体としない。ブランドに頼りすぎると、洋服に負けて自分の個性が隠れてしまう。お腹が出ているのも腰の位置が低いのも、撫で肩も、自分の特徴であり欠点や弱みとは考えない。短所こそチャームポイント、と共存する道を選ぶのである。既製服に合わない身体を無理して押し込まなくていい。

内田洋子「サルデーニャの蜜蜂」p101

この文章を読んで、これは単に服だけではなく、生きる上で、全般に言えるのではないかと思った。

短所を無理やり、世間の価値観に押し込んで、矯正しようとするのではなく、共存する。

短所こそチャームポイントという捉え方は、素晴らしいな、と思った。自分の短所を生かす方法を見つけることが出来たら、受け入れることができたら、随分生きやすくなるだろう。

もう1つ、心に残った文章がある。
知る人ぞ知るという洋裁店で働くある女性について書かれた文章である。

絶賛され数ヶ月や年越しの順番待ちも珍しくなかったが、それほどの評価を得ても彼女はブランド化して売ろうとはしなかった。客から頼まれた通りに作る職人に徹したのである。人を増やして商売を大きくしようともしなかった。時間をかけて築いた関係を大切にし、世の中の流行りすたりに迎合しない頑なさがまた好かったのだろう。

内田洋子「サルデーニャの蜜蜂」p116

どんなに人気がでようととも、周りの様子が変わろうとも、時間をかけて築いた関係を大切にし、世の中の流行りすたりに、迎合しない。

なかなか簡単にできることではないと思うのだが、とても美しく気高い心意気だな、と感動した。

事業を大きくすることが悪で、自分の今までのスタンスを守り抜くことが善だとは思わないけれど、
周りの環境に左右されることなく、自分の美学を貫く姿は、美しいな、と思った。

この本に描かれているイタリア人女性達は、皆、
気高く、自分に誇りを持ち、自分のスタイルを持っているように見える。

年齢に関係なく、自分に一番似合うと思われる服を着て、堂々と胸を張り、背筋を伸ばして歩くイタリア人女性の姿を想像し、清々しい気持ちになる。

表題の「サルディーニャの蜜蜂」もそうだし、その他の話も、著者が現地で、その土地に根付く人々と関わったからこそ紡ぎだされる話ばかりで、まるで自分もイタリアの隅々まで、旅したような気分を味わうことが出来る。

旅エッセイを読むことが好きな方に、オススメの1冊です。



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