【短編】 ノーベル文学、破滅虐殺

痴態を見せる女を見ていた。駅前、全裸、踊る乳房。ただひたすらにストリッパー、美人で包丁を握り絞め、必死な形相で切符を改札に入れ出荷されてくる肉になるために生まれた豚みたいな人間たちが歩いてくる。殺されて、血を流し、辞世の句も何もなしで全裸の変態に殺されていく阿鼻叫喚の様子を僕は見ていた。
安全圏から見る虐殺はどこかリビングで見られない気まずいシーンな気がして目を背けてしまうかぱっちりしっかり見るかの二択を迫られた。勿論しっぽり見た。
僕は女の事が好きになってしまいそうだった。多分吊り橋効果で告白をしたくなった。ポケットにはつまようじと紙ストローしかないけど僕は愛さえあれば刃物にだってプラスチックじゃないストローで勝てると思った。

走る、ストローとつまようじを握りしめ、震える手足になにやってるんだと叱られながらナイフを縦横無尽に振り回す女に抱き着いた。やわらかい、そのあとに痛み。腕から流れる僕の細胞たち。地面に落ちたものから死んでいく。僕は死ぬんだ。死んだって、なんだってこの気持ちを伝えられないなら生きていても仕方がない。そう思った。

「好きです。えっと僕を殺してくれませんか。」

女、胸を僕の血で染め上げた女は僕を刺さないで僕にキスをした。意味が解らなかった。血の生臭さではきそうになった。だが僕の肉の塔は悲鳴を上げて助けを求めて、走り去ろうとしていた。女は自分の腹にナイフを差し込むと臓器を僕に見せたかったのか腹を開いて笑って見せた。

「これって愛?」
女が言った。

「はい、そうだと思いますけど。僕ら付き合いませんか?」

「でも私死んじゃうか、でも生きてても死刑になるかだよ。」

「じゃあ逃げましょうよ。服着たら逃げられますよ。」

「ヤダ、痛いし動けない。」

「着せてあげますから。」
「そんなのいいから、代わりに私を殺して。めちゃくちゃに、顔以外ぐちゃぐちゃに。好きならそうして、してくれたら私のために後を追って死んで。あの世で付き合おう。」
僕はそのようにしようと思った。生きていても何もいいことが無い。家に帰っても最悪な現実は変わってくれない。これから先ダラダラ生きるより。この女を殺して、そのあと愛して僕も死ぬ方がずっと有意義だ。だからそうした。
「ありがとう、大好き。」
それだけ言って彼女は死んだ。それだけで十分だった。
駅前は血の海。僕はその中心にいた。

死んでしまった恋人の中に入り、僕は幸せと悲しみとを噛み締めてまだかすかに息のある彼女の首を切り落とした。

そして、カラスに食い散らかされるのを見ながら首を抱きかかえ走り出した。とてもタイプだったのに、死んでしまった。

家に帰らないで森に行った。町でなんて死にたくなかったから。どうせ死ぬなら静かにひっそりと。

彼女に見守られながら木漏れ日のさす木陰に横になった。こめかみの少し下。そこを突き刺し、僕は闇に融けて。また彼女と一つになれた気がした。願うことがあるとしたらもっと普通に出会いたかった。普通に出会えたならこんな短い短い誰に見せるでもないラブよりもデストロイ多めのストーリーにならなかったはずだから。

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