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短編 友達

サヤカ、風がきもちいね。

そうだねミキ、海が鳴いてるみたいじゃない。

カモメの声だよ。

もう野暮ったいなぁ、ロマンチックエンジン搭載してないのねサヤカは。わたしなんてさっきからブルルンブルルン吠えっぱなしだよ。

不思議ちゃんだからなー、ミキは。

サヤカだってたまに突拍子もないことするじゃん。

例えば?

かんぴょう巻き一気喰い。一口に3ついくもんだからびっくりしちゃったよわたし。人の口の収納ってこんなにいいんだ。これなら片付かないわたしの部屋もサヤカがいたら片付くんじゃないかって思ったくらい。ほんと、一家に一人、口だけサヤカ欲しくなったね。

口だけの私!?気持ち悪くない?

そんなこと、、、無く無いわきもいわ。顔がいいから顔全部あってこそだわあんた。母に感謝しなさいよクソ雑ファッションでクラスのマドンナ張れてるんだから。

そう僻むけどミキもかわいいじゃんか、クラスのマドンナほどで無くても、ほら、あの子山本。好かれてるんでしょ。

嫌だよあんな赤の他人と暮らしてるよくわからない重油みたいな匂いする男。ねえ、なんの匂いなのあれって、クジラが爆発する前にも多分あんな感じの匂いするよね。多分あいつもうすぐ死ぬんだよ。ジジイババアたっぷりの老人ホームとおんなじ匂いだよ。もう半分死人だよあいつ。

わかる、臭いよね。男を煮詰めたみたいなそんでそこから120分強火で鍋に残った焦げみたいなのがあいつ、山本なんだよ。もうやめない?この話。こんな綺麗な海の前でさ。

そうだね。あっ、猫!?

違うハクビシンだよ。

イタチでしょ。いやごめん猫だったわ。

謝らなくていいよ。こんなに夕日が綺麗なんだもん。

そうだね。ずっと友達でいたいね。

もうどうしたのサヤカ?夕日のせいでセンチメンタルエンジン鳴ってるの?

鳴ってるよ。船につけたら出港してタヒチに行けるくらいの馬力はあるね。

死ぬ!!ってなったら載せてね。一緒にいこうねタヒチ。それとさ水の上なのに馬力っておかしいね。ウマって泳げなさそうだし。

夏風は少女二人を慰めては現実味を波に隠してはまた潮風に溶かした。イカ漁の漁船がポーとライトを水平線を登る星みたいに光っている。灯台はそれに呼応するように灯を回して、二人きりの波間、砂浜には足跡がぽつり、ぽつりとつくられていく。セーラー服が風に揺れて青く。夜と昼の狭間で揺れ荒ぶ。夜の気配はまだこないらしい。


山本
山本明宏がモデル。こいつは僕の友人で二万円を一年経った今でも返してくれない。同じクラスに同姓同名漢字まで一緒の山本明宏がおり明宏、あきちゃんと呼ばれている。あきちゃんの方は聖人でとても優しい。明宏は母親の再婚相手である義理の父と暮らしている。明るさだけが取り柄でいかれていて面白い。いつか書いたファミレスの話の客のモデルでもある。今回使ったのは聖人じゃない畜生の方の明宏である。スランプで文が上手く書けないのも多分こいつのせいだ。だけど暗い気持ちも払拭してくれる太陽のような友人の一人でもある。

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