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【感想】東のボルゾイ「バウワウ」知らなきゃいけないことなんて本当はこの世界に一つもないけど、でも知りたいんだ

先日、東のボルゾイさんの新作ミュージカル、バウワウを観劇してまいりました。

テスト期間中だったので、課題とテストに押しつぶされる日々…でも団内公演を終えて早2ヶ月強。そろそろミュージカルを摂取したいな〜と思っていた時でした。

中目黒のキンケロシアターにて22日から上演されている本作。ネタバレありありで語るので、観劇の予定がある方は、観劇してからまた遊びに来ていただけると嬉しいです。

この物語の主人公はやのゆみ。
前は寝すぎるくらい寝る人だったのに、3か月間一睡もできていない。
リモートワークで仕事にもハリがないし、5年も付き合っている彼氏の剣ちゃんとの仲も最近はあんまり。でも、本当の原因は自分ではわかっている。

『バウワウ』は、不眠症のゆみの長い一夜を描いた作品です。
例のごとく眠れない夜を過ごしていたゆみの元に死んだはずの愛犬が人の姿をして現れます。

『実損は本質に先立つ』サルトルの言葉。
バウワウを通して描かれる倫理は、「自分の意志」「正義の刃」など、普段の当たり前から一歩深く踏み込んだ思想がとても魅力的で引き込まれるものでした。

AKとリボルバーの会話。「瞑想は一時的な死」
考えることをやめてしまったら、忘れられてしまったら、それは人間の存在としての死。

常にいろんなものを怖がって生きている私からしても大きな発見があるシーンでした。だよねー!怖いよね。生きてるだけでこんなにたくさんのものを怖がって生きているんだな。って、実感して少しおかしくもなりました。

ゆみの眠れなくなったきっかけは、「先輩からのセクハラ、そして部長からのセカンドレイプ」。
ゆみは女を武器にして振りかざして歩いてはいきたくなくて、尊敬していた先輩の性欲に触れて、恐ろしくなった。そんな先輩から「似ている」と言われてしまったことも。

一番心に来たのは部長からのセカンドレイプのとこですね、、、。ゆみの気持ちも聞かず、先輩を引きずり下ろし、自身は告発者の優しき上司として昇進をもくろむ。こんなに優しくない世界が確かに現実には存在しているんだよな、、となりました。女の敵は男とは限らないし、男だけが女を傷つけるわけでもない。正義が誰かを傷つけうるのだな、、と思いました。
ゆみがある意味とても純粋で、まっすぐでいたい人だから、女であることを使って、誰かを引きずり下ろしたくも、自分が成り上がりたくもなかった。

「知らなきゃいけないことなんて、この世界に一つもない」
先輩からのこの言葉は、前半は優しく、後半は恐ろしく感じました。

先輩と、彼氏の剣ちゃんは対照的な存在として描かれています。
「知らなきゃいけないことはない、本質には目をつぶって耳と鼻を聞かせてうまく生きていこう」とする先輩。
「すべてを知ることはできないけど、知りたい、ゆみの99%を愛したい」という剣ちゃん。

剣ちゃんはこの登場人物の中ではとても強い人物だと思います。
ゆみも、先輩も、物事の奥深さ、底知れなさに恐れを抱くからこそ、真正面から向き合うことをやめてしまうのです。
剣ちゃんは、どんなに果てしない事柄にも考えることをやめない、知ることを恐れず、立ち向かっていける強さを持っている人だと感じました。

そして、ここからがこの作品の本筋。
先輩のセクハラと部長のセカンドレイプはあくまで「きっかけ」に過ぎなかった。

ほんとうに、ほんとうにゆみの中で残り続けているのは、「愛犬ペロを死なせてしまった」という後悔でした。
ゆみが10歳の時、飛び出したボールを追いかけて車にひかれて死んでしまったペロ。
どうしようもない事故だったと周囲の人は思っていましたが、ゆみはずっと自分を責めていました。
そこで、ゆみはこの出来事を「忘れてしまう」ことにした。
結果は失敗。「忘れる」ことなんてできませんでした。
ゆみは「忘れちゃいけないから、忘れることができないんだ」と言います。
でも違う。「忘れたくないから、忘れることができない」のだと思います。
忘れて、考えることをやめてしまったら、それこそ「生きているけど死んでいる」から。

同じように、ゆみはセクハラとセカンドレイプもなかったことにしようとします。
しかし、剣ちゃんに「君の99%を愛するけど、君の一人で生きて行けるって思いこんでるところは嫌いだ」と、言われてしまう。

そう。ゆみはひとりで生きてきていないし、これからも一人では生きていかない。一人じゃ抱えきれないものだって、誰かと考えればいい。
ゆみは「頼ること」「苦しみを共有すること」を覚えずにここまできてしまったから、忘れようとすることしか知らなかった。

ゆみが剣ちゃんの言葉から、「一人で生きられないこと」を知った。
最後にゆみが目いっぱい泣いて、「助けて」ということができたのは大きな成長だと思います。

ゆみは今まで一度も泣かなかったし、悲しみを表に出すこともなかったから。

この作品を私自身にも重ね合わせてみてしまう自分がいました。
「悲しみ」の乗り越え方についてよく考えます。
一人じゃ乗り越えられないくらいの悲しみに直面した時に、どうすればいいのか?
この作品から、その答えをもらった気がします。

奇しくも観劇した夜にみた坂元さん脚本の「初恋の悪魔」でも、「後悔」「悲しみ」との向き合い方について描かれていました。
やっぱり人はひとりじゃ生きていけないなと。散々こすられたセリフですが、人間は追い込まれると忘れてしまいそうです。
普段から、たまに取り出して、覚えておかなきゃいけない。

悲しみに打ち勝つのは「時間」ではなく、「向き合う力」「弱さを見せる強さ」であることを。

とてもとても素敵なミュージカルを観劇することができて本当に良かったです。こんなオリジナルミュージカルがもっとたくさんの人に見てもらえて、もっともっとお金を稼げるようになったらいいのに!と強く思いました。

東のボルゾイさんの作品を見るのは初めてでしたが、見に行けて心から良かったと思います。(何回でも言う)
次回作も楽しみにしています!

東のボルゾイ『バウワウ』は25日まで中目黒キンケロシアターにて上演されています。千秋楽まで怪我無く駆け抜けられることを祈りつつ、、、当日券も販売ありますし、予約もありますのでこの感想見てみてみたいな!なんて思った方もぜひ!







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