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2024年5月に読んだ本の感想

5月は短編小説もいくつか書けたし、けっこう色々できた気がします。
とにかく文学フリマ東京に初めて参加できたのがすごく大きな出来事でした。1回だけライブにも行けて、どちらも昔の友人知人に会うことができたし新しい知り合いも増えて嬉しかった。

文フリで買った同人誌を読みまくっていたので、一般書はあまり読めなかったのですが2025年5月に読んだ本の感想です。文フリ本の感想はこちら↓↓


・「ひとり日和」青山七恵


春なので読みたくなって、再読。
ハタチの主人公がふとしたきっかけで71歳の吟子さんと同居することになる、交流ものなのだけど大仰にならずさらっと書いてあって読みやすいです。
失恋したり、進路に迷ったり、色んなことがあるのだけど毎日はさらさらと流れていってしまって、何気ない出来事が自分にとって大切だったことに気付くのはずっと後になってからかも知れないな……と切ない気持ちになりました。

・「都の子」江國香織

年に1回くらい読んでいる気がするけど再読。
江國さんはエッセイも大好きです。世界の感じ方が美しく、子どもの頃は何を見ても新鮮に感じたな……と思い出したりしました。
小学生の頃初めて読んだのだけど、なぜか夏休みにプールサイドでキャラメルコーンのいちごミルク味を食べながら読んだ気がする。
母から譲り受けた文庫本なのでもうボロボロです。


・「ストーカーとの700日戦争」内澤詢子


この作品は実話で、元カレとの関係がこじれてしまい警察に行ったら、なんと交際していた彼の名前は偽名で前科持ちであることが発覚するところからはじまります。
私は幸いなことにここまでの経験はないけれど、後から思い出すと「あれは友達に相談するんじゃなくて警察に行った方が良かったのかな」と思ったことはあるかも……。
男女問わず周りの人から元恋人との関係がこじれた話はよく聞くので、法律的なこととかは勉強になったけど……とにかく怖かったです。悪夢を見た。
問題が解決するのにこんなに何年もかかったんだ、と思いました。

・「ホスト万葉集 文庫スペシャル」手塚マキと歌舞伎町ホスト80人from Smappa!Group


上記の本が怖かったので明るい気分になりたくて、知人が読んでいて面白そうだったこの本を選びました。楽しい本です!!
ホストと短歌という組み合わせが意外でしたが、恋の経験や夜の街の人たちの心の機微みたいなものが歌に表れている気がして奥深いです。私が気に入ったのはやっぱりこれ。

楽しいな パリピピリピリ ピッピリピ 昨日の記憶一切ねぇわ

「ホスト万葉集 文庫スペシャル」より

・「掌の小説」川端康成


短編小説を書く際に花の名前を教えるというのをモチーフに使ったので、再読。(この小説です↓↓↓)

あまり内容を覚えていなくて新鮮な気持ちで読めました。

川端は確か大阪の医者の息子で帝大卒だったはずだけど、どうしてこんなに社会の下層で生きる人の姿を生き生きと描けているんだろう? と思って経歴を調べてみたのですが、彼は両親を早くに亡くして親戚の家を転々として育っているんですね。Wikiを見直してみたのですが、結局本人も自死しているし他にも悲しいエピソードがたくさんありました……

学生の頃に「伊豆の踊り子」の勉強をした時にも「これは単なる高校生と少女の爽やかな話ではなく、当時の身分制度のうえでは決して交わらないはずの二人の姿を描いているので学制を意識して読み解くように」と言われて学校制度とかを学んだ気がします。
明治生まれの川端は今よりも厳格な身分社会の中に生きており、よく貧しい生まれの女性が売られていく悲哀が描かれているのですが本質的には今もあまり変わっていないのかな……とふと悲しい気持ちになったり。

思い出にあまえてはならない。過ぎゆくものにひっかかったり、とらえようとしてはならない。(中略)あの友達の美しい小切には、あの子か母かの汚辱と不幸とがしるされていたかもしれない。悲しさを大事にしていたのではないだろうか。

「掌の小説」川端康成より「小切」 新潮文庫P.500~501

私もまさに「過ぎゆくものにひっかかったり、とらえよう」として「悲しさを大事に」してしまう性格かも知れないので、ぐさっときた。

・「川端康成 三島由紀夫 往復書簡」川端康成/三島由紀夫


上記の本を読んだのでその流れで読みました。
三島由紀夫の小説は面白いんだけど長編は特に文章がぐるぐると続いて理屈っぽく気難しい印象を受けることがあったのですが、少しイメージが変わります。また色々読んでみよう。

学生の頃の三島が川端を尊敬して素直に心のうちを打ち明け、熱っぽく小説の感想を話しては「妄言ばかりで」「不躾なことを」と恥ずかしがっている様子が可愛らしく、また都心の官僚の家系で育ち中等科から学習院上がりだった彼の育ちの良さを感じたりしました。
私は意外と「美しい星」が好きかなあ。お姉さんが金星人、弟は水星人、お母さんが木星人、お父さんが火星人、という一家を描いたSF的作品。そういえば豊穣の海を結局「春の雪」しか読んでいない……

最初の方がそんな調子だからこそ、自死の数か月前に送った手紙は死の覚悟がみえるものであり、自分よりも家族の今後を心配する内容だったのが印象的でした。

ますますバカなことを言ふとお笑ひでせうが、小生が怖れるのは死ではなくて、死後の家族の名誉です。(中略)生きてゐる自分が笑はれるのは平気ですが、死後、子どもたちが笑はれるのは耐へられません。

「川端康成 三島由紀夫 往復書簡」新潮文庫P.199

私は三島がディズニーランド好きというエピソードが意外でしたが、家族にその話をしたら「そりゃあ、三島は理想主義者だから平和で美しいディズニーの世界は気に入るんじゃない? 鼠さえ美化されているんだから」と言われて、そうかも……!と思った。

・「グラビア事務所辞めました」岡田紗夜


文学フリマで出会った注目の作家、岡田紗夜さんのkindle本が出ていたので読みました。
今ならkindleアンリミテッドでお得に読めます(2024、6現在)
私は積ん読が多すぎてアンリミテッド本まで手を出せそうにないのでふつうに購入した。

やっぱり面白かった。
私が特に印象に残ったのは、グラビアの仕事というのは作品ごとに成長してこなれた雰囲気になるのが良くないこともある、たどたどしい方が好まれることもある、みたいな部分でした。ファンの心、複雑……。

なんというか、私もアイドルは好きなのですが若さとか外見で勝負する仕事というのは本当に精神的にきついだろうな、と思います。

アイドル関係はやりたい人が多すぎる職業で完全に供給過多になっているのを感じるし、実際にいくらでも若くてかわいい子がデビューします。
自分を商品にするとかけがえのない存在であったはずの自己があたかも代替可能な物であるように思えて本人は苦しいんじゃないかな……。

他の作品でも思いましたが、岡田さんがかなり素直に心境を吐露しており、普段は見えてこない表舞台の裏側を見せてくれる貴重な作品となっています。次回作も楽しみです。







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