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ストーリー「豪雨の予感」

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水害被害ストーリー「豪雨の予感」の連載を始めました。実際の水害被害インタビューを通して分かってきた教訓やエピソードを織り交ぜた物語です。できるだけ実在する名称を使用して、水害被害…
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#阪神淡路大震災

「豪雨の予感」第9話(線状降水帯の豪雨と一抹の不安)

「豪雨の予感」第9話(線状降水帯の豪雨と一抹の不安)

悠さんの朝の天気予報では、大阪市内でも線状降水帯が発生するようなことを言っていた。

「これが線状降水帯の雨?」

みおは急に怖くなって確かめたくなった。ポケットからスマホを取り出し、天気予報アプリを開いた。アプリをタップして雨雲レーダーが10分おきに見れる画面にする。関西地方の地図が画面いっぱいに表示される。全てブルーになっている、つまり雨が降っているという意味である。さらに大阪市内は一層濃いブ

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「豪雨の予感」第8話(健斗の優しさと須磨での思い出)

「豪雨の予感」第8話(健斗の優しさと須磨での思い出)

健斗が学校に向かう時間になると大粒の雨が降り出してきた。玄関のドアの向こう側で雨が葉っぱに打ち付ける音がバラバラと聞こえてくる。

「悠さんの言ってた通りになってきた」

みおは独り言をいったつもりだったが、声になっていた。健斗が返事をしてくれた。

「そうやな、お母さんは仕事いける?こんなに降ってると会社に着くまでにびしょ濡れになるね」

健斗はいつもみおを気遣ってくれる。弟のたけしもそうだった

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「豪雨の予感」第7話(家族との別れ)

「豪雨の予感」第7話(家族との別れ)

みおの父は仰向けになって動かなくなっていた。頭の上から下半身にかけて倒れてきたタンスが覆い被さっている。父の手だけがタンスの下からでてきている。地震の瞬間に頭をかばうつもりでいたのだろうか、倒れてきたタンスを退けて逃げようとしたのだろうか。筋肉質の腕が力をなくしだらりと垂れ下がっている。

みおの母は手を伸ばしてその手に触れた、父の手には違いないがいつもとは違っていた。血の気がなく冷たくなっていた

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「豪雨の予感」第6話(瓦礫からの救助)

「豪雨の予感」第6話(瓦礫からの救助)

大きく息を吸った、外の冷たい空気が入ってくる

『わたしは外にいるの?天井が落ちてきて屋根がなくなってるから?』

みおは怖くなった、もしかして大変な状況になってるのかもしれない、急いで助けてもらわないと、、本能的に命の危険を感じた。

「ここです!だれか助けてください!」

今度は声が出た、けど返事がない。さっきの人はもうここにはいないの?膝を抱えて丸くなったまま重くて身動きがとれない。

『こ

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「豪雨の予感」第5話(阪神淡路大震災でのみおの被災経験)

「豪雨の予感」第5話(阪神淡路大震災でのみおの被災経験)

みおは阪神淡路大震災の被災者である。被災当時みおは神戸市須磨区で暮らす高校一年で、おばあちゃんと両親、弟と5人でおばあちゃんの実家で暮らしていた。須磨離宮公園から少し下ったところにあるおばあちゃんの家は木造二階建てで戦前から続く築80年以上になる家だった。2階からは須磨の海に伸びていく松並木と、その先には明石海峡をゆっくりと行き来する船をぼんやりと眺めるのが好きだった。時折汽笛が聞こえると「いつか

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